9 / 41
9.生まれたてのダンジョン
しおりを挟む
ついさっきまでただの道だったところに、ダンジョンが音もなく出現していた。
二人は信じられないものを見たかのように、瞬きも忘れて突っ立っていた。七年前、こんなふうにダンジョンが現れたのか。それなら、パニックになるのも無理はない、とアキラは思った。
アキラはダンジョンに近づいて行ったが、マリがアキラの腕をつかんで引き止めた。
「入るの?」
「うん、体が元に戻るかもしれないんだよ」
「でも…」
マリは不安で足がすくんでいた。
アキラは違った。探そうと思っていたところに、向こうから現れてくれたんだ。こんなラッキーなことはない。銃もある。第一層なら、何とかなるだろう。これを逃す手はない。しかも、ダンジョン出現の瞬間に立ち会えたのだ。少しワクワクしていた。
「危ないと思ったら、すぐ引き返すから」
「絶対よ!約束だからね!」
マリはしぶしぶ承諾し、アキラと手をつないでダンジョンに入っていった。
新宿一番ダンジョン第一層と同じような部屋にいた。同じだったのは、魔物がいないこと。違っていたのは、真ん中に大きな虹色に光る魔石が浮いていたこと。そして第二層への門はなく、帰還の門があるだけだった。アメリカ合衆国の報告では、ダンジョンは三か月ごとに新しい階層ができるとされていた。生まれたてのダンジョンは、第一層が終点なのだ。
アキラは、大きな魔石が「ダンジョン・コア」だと確信した。
アキラはゆっくりと近づいた。すると、魔石が輝き、魔法陣が出現した。アキラはすぐに銃を構えた。その魔法陣が何であるのかが分かったからだ。新宿一番ダンジョンで見た犬の魔物が出てきた魔法陣に似ていたのだ。魔法陣から、ゆっくり全身が黒い子犬が出てこようとしていた。
目が赤くなかったら、かわいい感じなのになと思いながら、アキラは急いで魔物に向かって走っていき、額の真ん中の魔石に銃口を押し当て引き金を引いた。
バァーンと銃声が鳴り響き、アキラは反動で大きく後ずさりした。魔物は全身が現れる前にキャンと一鳴きし、光の粒子になって消えていった。小さな魔石が落ちた。
一瞬の静寂が訪れた。
「良し、うまくいった!」
アキラはガッツポーズをした。
「アキラ、右!」
マリが叫んだ。素早く右に走り、魔法陣の前に出る。
まだ魔物は現れていなかったので、銃口を魔法陣の中心に構える。すると、子犬の魔物がゆっくり現れた。額の魔石に銃口を当て、魔物の目が開いた瞬間に撃った。銃声とともに魔物が鳴き、光となって消えていった。そして小さな魔石が落ちた。
「左!」
またマリが叫ぶ。同じようにして倒す。全部で五体倒したところで、魔物の出現が止まった。
ここの攻略は終わったようだ。ふぅーと息を吐き、マリを見る。
マリがガッツポーズをした。アキラも同じくガッツポーズをした。
「凄いわ、アキラ!」
「ふふふ、どんなもんだい!」
二人はハイタッチして喜んだ。
「一発で魔物を倒せるなんて。よく弱点が分かったわね?」
「うん?マリだって真ん中の目が弱点だって、分かってただろう?」
魔法陣を見たときに、何故か弱点が額の真ん中の魔石だと閃いたのだ。きっとマリも同じだったと思う。
「うーん、なんとなく、そんな気はしたんだけど、自信はないの…」
マリはアキラの顔をのぞきながら尋ねた。
「これからどうするの?」
男の顔の鼻息が当たる。うーん、嬉しくない、とアキラは思った。
アキラは大きな魔石を指さしながら話を続けた。
「これはダンジョンのコアだ。この中にダンジョンの情報が入っているはず。その情報を読み取って解析すれば、元の体に戻すための方法が分かると思う」
マリは真剣な顔で聞いていた。
「まずはオレが触れて情報を得られるか試してみる。もし異常事態が起こったら、オレを抱えて、出口から逃げてくれ。それから、もし魔物が出そうになったら、さっきみたいに倒してほしい」
「えっ、無理よ」
「大丈夫、落ち着いてやればできる!」
「無理、無理」
マリは大きく首を振った。
「仕方ないな。じゃあ練習をしよう」
そう言ってマリを出口の前に連れていく。まあ練習と言っても、構えて引き金を引くだけだ。
「出口に向かって撃ってみて。結構反動があるから驚かないように。ブレないように、しっかり体に押し付けておくんだよ」
「うん、分かった」
マリは深呼吸して引き金を引いた。
銃声が鳴り響いたが、マリの体はびくりともしなかった。
「できたわ!」
「ナ、ナイス。は、初めてにしては上出来だよ」
驚いた!絶対におかしい。オリンピック選手よりブレが小さいというか、全然ない。
もしかしてと思い、目を閉じてじっとマリに意識を集中する。すると、全身がうっすらと光っているのが見えた。間違いない、肉体が強化されてる!
「マリ、弾がなくなったら、その銃で殴ってね!」
「えー、それは絶対無理」
いや、大丈夫、いけるはずだ。もしかしたら素手でもやれるかもしれない。身体強化か!新しい発見に、ワクワクが止まらくなってきたアキラだった。
二人は信じられないものを見たかのように、瞬きも忘れて突っ立っていた。七年前、こんなふうにダンジョンが現れたのか。それなら、パニックになるのも無理はない、とアキラは思った。
アキラはダンジョンに近づいて行ったが、マリがアキラの腕をつかんで引き止めた。
「入るの?」
「うん、体が元に戻るかもしれないんだよ」
「でも…」
マリは不安で足がすくんでいた。
アキラは違った。探そうと思っていたところに、向こうから現れてくれたんだ。こんなラッキーなことはない。銃もある。第一層なら、何とかなるだろう。これを逃す手はない。しかも、ダンジョン出現の瞬間に立ち会えたのだ。少しワクワクしていた。
「危ないと思ったら、すぐ引き返すから」
「絶対よ!約束だからね!」
マリはしぶしぶ承諾し、アキラと手をつないでダンジョンに入っていった。
新宿一番ダンジョン第一層と同じような部屋にいた。同じだったのは、魔物がいないこと。違っていたのは、真ん中に大きな虹色に光る魔石が浮いていたこと。そして第二層への門はなく、帰還の門があるだけだった。アメリカ合衆国の報告では、ダンジョンは三か月ごとに新しい階層ができるとされていた。生まれたてのダンジョンは、第一層が終点なのだ。
アキラは、大きな魔石が「ダンジョン・コア」だと確信した。
アキラはゆっくりと近づいた。すると、魔石が輝き、魔法陣が出現した。アキラはすぐに銃を構えた。その魔法陣が何であるのかが分かったからだ。新宿一番ダンジョンで見た犬の魔物が出てきた魔法陣に似ていたのだ。魔法陣から、ゆっくり全身が黒い子犬が出てこようとしていた。
目が赤くなかったら、かわいい感じなのになと思いながら、アキラは急いで魔物に向かって走っていき、額の真ん中の魔石に銃口を押し当て引き金を引いた。
バァーンと銃声が鳴り響き、アキラは反動で大きく後ずさりした。魔物は全身が現れる前にキャンと一鳴きし、光の粒子になって消えていった。小さな魔石が落ちた。
一瞬の静寂が訪れた。
「良し、うまくいった!」
アキラはガッツポーズをした。
「アキラ、右!」
マリが叫んだ。素早く右に走り、魔法陣の前に出る。
まだ魔物は現れていなかったので、銃口を魔法陣の中心に構える。すると、子犬の魔物がゆっくり現れた。額の魔石に銃口を当て、魔物の目が開いた瞬間に撃った。銃声とともに魔物が鳴き、光となって消えていった。そして小さな魔石が落ちた。
「左!」
またマリが叫ぶ。同じようにして倒す。全部で五体倒したところで、魔物の出現が止まった。
ここの攻略は終わったようだ。ふぅーと息を吐き、マリを見る。
マリがガッツポーズをした。アキラも同じくガッツポーズをした。
「凄いわ、アキラ!」
「ふふふ、どんなもんだい!」
二人はハイタッチして喜んだ。
「一発で魔物を倒せるなんて。よく弱点が分かったわね?」
「うん?マリだって真ん中の目が弱点だって、分かってただろう?」
魔法陣を見たときに、何故か弱点が額の真ん中の魔石だと閃いたのだ。きっとマリも同じだったと思う。
「うーん、なんとなく、そんな気はしたんだけど、自信はないの…」
マリはアキラの顔をのぞきながら尋ねた。
「これからどうするの?」
男の顔の鼻息が当たる。うーん、嬉しくない、とアキラは思った。
アキラは大きな魔石を指さしながら話を続けた。
「これはダンジョンのコアだ。この中にダンジョンの情報が入っているはず。その情報を読み取って解析すれば、元の体に戻すための方法が分かると思う」
マリは真剣な顔で聞いていた。
「まずはオレが触れて情報を得られるか試してみる。もし異常事態が起こったら、オレを抱えて、出口から逃げてくれ。それから、もし魔物が出そうになったら、さっきみたいに倒してほしい」
「えっ、無理よ」
「大丈夫、落ち着いてやればできる!」
「無理、無理」
マリは大きく首を振った。
「仕方ないな。じゃあ練習をしよう」
そう言ってマリを出口の前に連れていく。まあ練習と言っても、構えて引き金を引くだけだ。
「出口に向かって撃ってみて。結構反動があるから驚かないように。ブレないように、しっかり体に押し付けておくんだよ」
「うん、分かった」
マリは深呼吸して引き金を引いた。
銃声が鳴り響いたが、マリの体はびくりともしなかった。
「できたわ!」
「ナ、ナイス。は、初めてにしては上出来だよ」
驚いた!絶対におかしい。オリンピック選手よりブレが小さいというか、全然ない。
もしかしてと思い、目を閉じてじっとマリに意識を集中する。すると、全身がうっすらと光っているのが見えた。間違いない、肉体が強化されてる!
「マリ、弾がなくなったら、その銃で殴ってね!」
「えー、それは絶対無理」
いや、大丈夫、いけるはずだ。もしかしたら素手でもやれるかもしれない。身体強化か!新しい発見に、ワクワクが止まらくなってきたアキラだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる