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9.生まれたてのダンジョン
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ついさっきまでただの道だったところに、ダンジョンが音もなく出現していた。
二人は信じられないものを見たかのように、瞬きも忘れて突っ立っていた。七年前、こんなふうにダンジョンが現れたのか。それなら、パニックになるのも無理はない、とアキラは思った。
アキラはダンジョンに近づいて行ったが、マリがアキラの腕をつかんで引き止めた。
「入るの?」
「うん、体が元に戻るかもしれないんだよ」
「でも…」
マリは不安で足がすくんでいた。
アキラは違った。探そうと思っていたところに、向こうから現れてくれたんだ。こんなラッキーなことはない。銃もある。第一層なら、何とかなるだろう。これを逃す手はない。しかも、ダンジョン出現の瞬間に立ち会えたのだ。少しワクワクしていた。
「危ないと思ったら、すぐ引き返すから」
「絶対よ!約束だからね!」
マリはしぶしぶ承諾し、アキラと手をつないでダンジョンに入っていった。
新宿一番ダンジョン第一層と同じような部屋にいた。同じだったのは、魔物がいないこと。違っていたのは、真ん中に大きな虹色に光る魔石が浮いていたこと。そして第二層への門はなく、帰還の門があるだけだった。アメリカ合衆国の報告では、ダンジョンは三か月ごとに新しい階層ができるとされていた。生まれたてのダンジョンは、第一層が終点なのだ。
アキラは、大きな魔石が「ダンジョン・コア」だと確信した。
アキラはゆっくりと近づいた。すると、魔石が輝き、魔法陣が出現した。アキラはすぐに銃を構えた。その魔法陣が何であるのかが分かったからだ。新宿一番ダンジョンで見た犬の魔物が出てきた魔法陣に似ていたのだ。魔法陣から、ゆっくり全身が黒い子犬が出てこようとしていた。
目が赤くなかったら、かわいい感じなのになと思いながら、アキラは急いで魔物に向かって走っていき、額の真ん中の魔石に銃口を押し当て引き金を引いた。
バァーンと銃声が鳴り響き、アキラは反動で大きく後ずさりした。魔物は全身が現れる前にキャンと一鳴きし、光の粒子になって消えていった。小さな魔石が落ちた。
一瞬の静寂が訪れた。
「良し、うまくいった!」
アキラはガッツポーズをした。
「アキラ、右!」
マリが叫んだ。素早く右に走り、魔法陣の前に出る。
まだ魔物は現れていなかったので、銃口を魔法陣の中心に構える。すると、子犬の魔物がゆっくり現れた。額の魔石に銃口を当て、魔物の目が開いた瞬間に撃った。銃声とともに魔物が鳴き、光となって消えていった。そして小さな魔石が落ちた。
「左!」
またマリが叫ぶ。同じようにして倒す。全部で五体倒したところで、魔物の出現が止まった。
ここの攻略は終わったようだ。ふぅーと息を吐き、マリを見る。
マリがガッツポーズをした。アキラも同じくガッツポーズをした。
「凄いわ、アキラ!」
「ふふふ、どんなもんだい!」
二人はハイタッチして喜んだ。
「一発で魔物を倒せるなんて。よく弱点が分かったわね?」
「うん?マリだって真ん中の目が弱点だって、分かってただろう?」
魔法陣を見たときに、何故か弱点が額の真ん中の魔石だと閃いたのだ。きっとマリも同じだったと思う。
「うーん、なんとなく、そんな気はしたんだけど、自信はないの…」
マリはアキラの顔をのぞきながら尋ねた。
「これからどうするの?」
男の顔の鼻息が当たる。うーん、嬉しくない、とアキラは思った。
アキラは大きな魔石を指さしながら話を続けた。
「これはダンジョンのコアだ。この中にダンジョンの情報が入っているはず。その情報を読み取って解析すれば、元の体に戻すための方法が分かると思う」
マリは真剣な顔で聞いていた。
「まずはオレが触れて情報を得られるか試してみる。もし異常事態が起こったら、オレを抱えて、出口から逃げてくれ。それから、もし魔物が出そうになったら、さっきみたいに倒してほしい」
「えっ、無理よ」
「大丈夫、落ち着いてやればできる!」
「無理、無理」
マリは大きく首を振った。
「仕方ないな。じゃあ練習をしよう」
そう言ってマリを出口の前に連れていく。まあ練習と言っても、構えて引き金を引くだけだ。
「出口に向かって撃ってみて。結構反動があるから驚かないように。ブレないように、しっかり体に押し付けておくんだよ」
「うん、分かった」
マリは深呼吸して引き金を引いた。
銃声が鳴り響いたが、マリの体はびくりともしなかった。
「できたわ!」
「ナ、ナイス。は、初めてにしては上出来だよ」
驚いた!絶対におかしい。オリンピック選手よりブレが小さいというか、全然ない。
もしかしてと思い、目を閉じてじっとマリに意識を集中する。すると、全身がうっすらと光っているのが見えた。間違いない、肉体が強化されてる!
「マリ、弾がなくなったら、その銃で殴ってね!」
「えー、それは絶対無理」
いや、大丈夫、いけるはずだ。もしかしたら素手でもやれるかもしれない。身体強化か!新しい発見に、ワクワクが止まらくなってきたアキラだった。
二人は信じられないものを見たかのように、瞬きも忘れて突っ立っていた。七年前、こんなふうにダンジョンが現れたのか。それなら、パニックになるのも無理はない、とアキラは思った。
アキラはダンジョンに近づいて行ったが、マリがアキラの腕をつかんで引き止めた。
「入るの?」
「うん、体が元に戻るかもしれないんだよ」
「でも…」
マリは不安で足がすくんでいた。
アキラは違った。探そうと思っていたところに、向こうから現れてくれたんだ。こんなラッキーなことはない。銃もある。第一層なら、何とかなるだろう。これを逃す手はない。しかも、ダンジョン出現の瞬間に立ち会えたのだ。少しワクワクしていた。
「危ないと思ったら、すぐ引き返すから」
「絶対よ!約束だからね!」
マリはしぶしぶ承諾し、アキラと手をつないでダンジョンに入っていった。
新宿一番ダンジョン第一層と同じような部屋にいた。同じだったのは、魔物がいないこと。違っていたのは、真ん中に大きな虹色に光る魔石が浮いていたこと。そして第二層への門はなく、帰還の門があるだけだった。アメリカ合衆国の報告では、ダンジョンは三か月ごとに新しい階層ができるとされていた。生まれたてのダンジョンは、第一層が終点なのだ。
アキラは、大きな魔石が「ダンジョン・コア」だと確信した。
アキラはゆっくりと近づいた。すると、魔石が輝き、魔法陣が出現した。アキラはすぐに銃を構えた。その魔法陣が何であるのかが分かったからだ。新宿一番ダンジョンで見た犬の魔物が出てきた魔法陣に似ていたのだ。魔法陣から、ゆっくり全身が黒い子犬が出てこようとしていた。
目が赤くなかったら、かわいい感じなのになと思いながら、アキラは急いで魔物に向かって走っていき、額の真ん中の魔石に銃口を押し当て引き金を引いた。
バァーンと銃声が鳴り響き、アキラは反動で大きく後ずさりした。魔物は全身が現れる前にキャンと一鳴きし、光の粒子になって消えていった。小さな魔石が落ちた。
一瞬の静寂が訪れた。
「良し、うまくいった!」
アキラはガッツポーズをした。
「アキラ、右!」
マリが叫んだ。素早く右に走り、魔法陣の前に出る。
まだ魔物は現れていなかったので、銃口を魔法陣の中心に構える。すると、子犬の魔物がゆっくり現れた。額の魔石に銃口を当て、魔物の目が開いた瞬間に撃った。銃声とともに魔物が鳴き、光となって消えていった。そして小さな魔石が落ちた。
「左!」
またマリが叫ぶ。同じようにして倒す。全部で五体倒したところで、魔物の出現が止まった。
ここの攻略は終わったようだ。ふぅーと息を吐き、マリを見る。
マリがガッツポーズをした。アキラも同じくガッツポーズをした。
「凄いわ、アキラ!」
「ふふふ、どんなもんだい!」
二人はハイタッチして喜んだ。
「一発で魔物を倒せるなんて。よく弱点が分かったわね?」
「うん?マリだって真ん中の目が弱点だって、分かってただろう?」
魔法陣を見たときに、何故か弱点が額の真ん中の魔石だと閃いたのだ。きっとマリも同じだったと思う。
「うーん、なんとなく、そんな気はしたんだけど、自信はないの…」
マリはアキラの顔をのぞきながら尋ねた。
「これからどうするの?」
男の顔の鼻息が当たる。うーん、嬉しくない、とアキラは思った。
アキラは大きな魔石を指さしながら話を続けた。
「これはダンジョンのコアだ。この中にダンジョンの情報が入っているはず。その情報を読み取って解析すれば、元の体に戻すための方法が分かると思う」
マリは真剣な顔で聞いていた。
「まずはオレが触れて情報を得られるか試してみる。もし異常事態が起こったら、オレを抱えて、出口から逃げてくれ。それから、もし魔物が出そうになったら、さっきみたいに倒してほしい」
「えっ、無理よ」
「大丈夫、落ち着いてやればできる!」
「無理、無理」
マリは大きく首を振った。
「仕方ないな。じゃあ練習をしよう」
そう言ってマリを出口の前に連れていく。まあ練習と言っても、構えて引き金を引くだけだ。
「出口に向かって撃ってみて。結構反動があるから驚かないように。ブレないように、しっかり体に押し付けておくんだよ」
「うん、分かった」
マリは深呼吸して引き金を引いた。
銃声が鳴り響いたが、マリの体はびくりともしなかった。
「できたわ!」
「ナ、ナイス。は、初めてにしては上出来だよ」
驚いた!絶対におかしい。オリンピック選手よりブレが小さいというか、全然ない。
もしかしてと思い、目を閉じてじっとマリに意識を集中する。すると、全身がうっすらと光っているのが見えた。間違いない、肉体が強化されてる!
「マリ、弾がなくなったら、その銃で殴ってね!」
「えー、それは絶対無理」
いや、大丈夫、いけるはずだ。もしかしたら素手でもやれるかもしれない。身体強化か!新しい発見に、ワクワクが止まらくなってきたアキラだった。
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