迷宮(ダンジョン)革命

あきとあき

文字の大きさ
上 下
3 / 41

3.ダンジョン討伐前

しおりを挟む
翌日、アキラとマリ、そして両親はテレビ局に招かれた。学校と両親の会社には、政府から欠席届が出されていた。

マリの父は、心配そうにマリを見た。
「マリ、今からでも断っていいんだよ。父さんのことは心配しなくていいから」  

マリは笑顔できっぱりと返事をした。
「もう決めたから」  

マリの母がため息をつく。
「やっぱり心配だわ。アキラ君、マリのことお願いね」  

アキラは力強く返事をした。
「はい」  


「衣装合わせを始めます」  
スタッフの合図とともに専属のデザイナーが動き出した。部屋にはいろんなサイズ、デザインの学生服がたくさん並んでいた。採寸のあと、次から次へと服を着せられ、スタッフの意見が飛び交う。

テレビ局とモデル事務所の社長が両親のところにきた。  
「こちらが契約書です。後ほどサインをお願いします」  
契約書を広げ、説明が始まった。

「今から撮影を行います」  
隣の部屋に案内された。テレビ局のスタッフが忙しく走り回っていた。

「化粧をしますね」  
「オレもですか?」  
アキラがキョトンとした顔をした。  
「君は、まず髪の方から整えようか」

テレビ番組の告知の撮影が始まった。マリがいろんなポーズをとる。パシャパシャとフラッシュが光る。

「はい、次はくるっと廻って、そう笑顔でこっちを向いて」  

長い金髪がゆれ、白くスラリとした脚がスカートから伸び、優雅に手でポーズを決める。碧い瞳と長い睫毛でウィンクすると、ほぉーと、どこからともなくため息がもれた。まるでプロのモデルだ。誰もが見とれていた。

「マリちゃん、ますます美人になったわね」  
アキラの母が褒めた。  

「あら、アキラ君も素敵じゃない?」  
マリの母が褒めた。

次はアキラの番だった。
  
「はい、笑って。うーん、まだ硬いな。ほら、リラックス、リラックス」  
アキラはガチガチで、作り笑いをしながら必死になっていた。

「もう、うちの子は、どうしてこんなにドンくさいのかしら」  
はぁとため息混じりにアキラの母は父を見る。
  
「おまえの息子でもあるんだぞ」  
アキラの父もため息交じりでアキラを見た。

「次は二人で並んで」  

マリがアキラの腕をつかんだ。上目使いの笑顔でアキラを覗く。アキラはドキッとした。  
「お、いいねえ。さすが幼馴染だ。君も笑顔、笑顔。そう、そう、なかなか似合ってるよ」


「これで撮影を終わります。ご苦労様でした」

「はぁ、疲れた。もうやだ」  
アキラは椅子にどかっと座った。  

「アキラったら、緊張しすぎ」  
マリは笑っていた。

「マリは凄いな」  
「フフフ、驚いた?」  

マリはアキラの目の前でクルっと一回転してみせた。スカートがふわりとめくれ上がった。すかさずスカートを抑え、顔を赤らめた。

「見、見たわね」  
「見、見てないよ」

アキラも顔を赤らめていた。

「アキラのバカ」  
マリがアキラの両頬をつねった。  

「いてて、オレのせいじゃないだろ」

「青春してるねえ」  
どこからか声が聞こえた。
  
これが青春というやつか、小さくアキラはつぶやいた。

「何か言った?」  

マリがプリっと頬を膨らませた。今日のマリはコロコロと表情が変わった。こんなマリを見たのは、久しぶりだった。さっきまでの疲れも吹き飛んだ気がした。

その夜、「ダンジョン討伐ゴー!」の特別告知が放送された。十六歳の少年少女が参加する、しかも二日後に。放送されるや否や、ネットでは大論争が巻き起こった。別のところでは、金髪美少女と幼馴染のことで話題沸騰していた。

翌日早朝、家の前には報道陣が押しかけていた。二人と両親たちは迎えに来たリムジンに乗り込み、市ヶ谷の自衛隊基地に向かった。ここはダンジョン討伐隊の訓練施設にもなっていたのだ。

ダンジョン討伐隊の社長が両親のもとへやってきた。

「報道陣がお騒がせして申し訳ありません。本日は当方でホテルを用意させております。明日はホテルから直接会場へご案内しますのでご安心ください」
  
「こちらが契約書です。後ほどサインをお願いします」  
契約書を渡し、内容の説明を始めた。


「君たちは、こちらに」  
アキラとマリは別室へと案内された。マリは朝早く起こされ、報道陣にもみくちゃにされて既に疲れていた。

「早く帰りたい」  
「始まったばかりじゃん」  

マリはげんなりしていたが、アキラは実際の訓練が見られることに興奮していた。

ビデオを観ながら討伐について講義が開始された。アキラはワクワクしながら観ていた。それを見て、マリは無性に腹立たしくなった。

アキラの手を思いっきりつねった。 
 
「いて、なにすんだよ?」  
アキラが驚いてマリを見た。

「あんたのせいなんだから」  
「はいい?」  

マリはそっぽを向いた。

ごほん、咳払いが聞こえた。  
「ここでは、青春は控えるように」  

ええ、これは青春じゃないだろう?アキラは納得がいかなかった。

その後、射撃場に連れていかれた。銃の取り扱い方の説明を受け、実際に撃つ訓練になったとき、アキラの興奮は最高潮に達した。マリの気分は最低で、嫌々ながら従った。

アキラが的を狙って何発も撃つ。生き生きと楽しそうに撃っている。

断ればよかった。こいつのせいで、こんなことになったのだ。マリは許せない気がしてきた。

ゆっくり銃口をアキラに向けた。辺りが一瞬凍り付く。異様な気配にアキラはマリの方をちらと見て、冷汗がでた。

教官がゆっくりとマリの銃を取り上げた。  
「それは青春ではないよ」  

ちょっと待て!そんな話じゃないだろう、アキラは憤然とした。

全ての工程が終わり、最後に司令官らしき男がやってきた。  

「明日の討伐には優秀な者が選ばれております。我々自衛隊も外で待機しておりますので、どうかご安心ください」  
そう両親たちに挨拶し、去っていった。

そしてリムジンに乗り込んだ。到着したのは超一流ホテルだった。

最上階のラウンジに案内された。  
「本日はこちらにお泊りください。外にはお出にならないようお願い申し上げます」  
さすがVIPルームだ。その豪華さに家族一同目を真ん丸にしていた。

「すごーい。東京が丸見えよ。横浜のお家はあっちかな?」  
マリはきゃっきゃと騒いでいる。機嫌が治ってよかったとアキラは思った。

下には都庁広場が見えた。会場設置が進められている。明日はいよいよダンジョン討伐だ。アキラは武者震いした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...