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1.幼馴染
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九条アキラと西園寺マリは、家が隣同士で、生まれた日時も場所も同じという奇跡的な幼馴染だった。昔はいっしょに登校するのが日常だったが、最近はアキラが先に出発し、マリが後から追いかけることが増えていた。
「先生、おはようございます!」
颯爽と校門を走り抜ける。
「おはよう。九条ならいつものところにいたぞ」
「ありがとうございます」
「マリ、おはよう。今日は九条君と一緒じゃないんだ」
「ごめん、急いでるの。また後でね」
マリは校庭に向かった。
マリの父親はアメリカ人で、母親は日本人。所謂ハーフだが、イケメンの父親似で見た目はほとんど欧米人だ。金髪、 碧眼、透き通った白い肌、小顔で八頭身の美少女だ。彼女の金髪が風にゆれ、白くスラリと伸びた脚で走っていく姿に誰もが目を奪われた。
校庭の真ん中に、半円形の鏡のようなオブジェがあった。周りを柵で囲われ「立入禁止」の立て看板があり、その前に警備員が立っていた。そこに九条アキラもいた。
オブジェは「ダンジョン」と呼ばれていた。
七年前、突如世界中に約五十万個のダンジョンが同時に出現した。直径五メートルほどの円盤が地面に半分埋まっている感じだ。縁が光っていて、真横から見ると厚みがないただの光の線にしか見えない。本体は真黒で不気味な雰囲気を漂わせていた。
「アキラのバカ!何で待っててくれなかったのよ!」
マリの回し蹴りがアキラの尻に華麗に決まった。
「いてー!なにすんだよ、マリ」
「自業自得よ」
「な、なにー…この暴力女!」
「最低」
それを聞いてマリが手を挙げて殴ろうとしたとき、警備員がつぶやいた。
「青春だねえ」
マリは恥ずかしくなり、さっと手を降ろした。
どこが青春だよ、とアキラは心の中でつぶやいた。
「さあ、行くわよ」
マリがアキラの手を引っ張っていった。
マリは自分の下駄箱へ向かった。そこには今日もたくさんのラブレターが詰まっていた。そしてアキラの方を見て、優越感にひたったような笑みを浮かべてみせた。アキラは見慣れた光景に何の感情も湧かず、下駄箱を開けた。
すると普段は何も入っていないのに、一通の手紙が入っていた。驚きと期待感を抱きながら、その手紙を手に取ろうとしたとき、
「アキラ、それラブレターか!」
同級生が肩越しに声をかけてきた。マリはアキラの手紙を素早くかっさらった。
「アキラにはラブレターなんて10年早いわ」
言うや否や、手紙を破いてしまった。
「お、おまえ」
アキラが大声を上げた。マリは一瞬ひるんだが、
「わ、悪かったわね。お詫びに私の手紙を全部破かせてあげる。これでお相子ね」
と言って去っていった。
「おお、こわ」「夫婦喧嘩は犬も食わぬというけど、さすがにこれは」「触らぬ神に祟りなし」
アキラは茫然と大量の手紙を見つめていた。そこに先生がやってきた。
「九条、すごい数のラブレターじゃないか。青春だな」
これのどこが青春だよ、アキラは腰を落として手紙を拾った。同級生もそれを手伝った。
「最近、西園寺さんのやきもちがエスカレートしてないか。何かあったのか?」
「知らねえよ。ん、んん?これって、やきもちなのか?」
「それ以外の何だって言うんだよ。美少女だけど、さすがに引くな。この先大変だな、アキラ」
アキラはマリが好きだったが、面と向かって告白していない。いつも一緒だったから、それでいいと思っていたし、告白するタイミングが分からなかった。そして最近の彼女の行動に戸惑いを感じていた。モヤモヤした気持ちを抱いて、大量の手紙をゴミ箱に捨てた。
マリはさすがにやり過ぎたと、少し後悔した。
アキラはイケメンではなかったが、不細工というわけでもなかった。髪がボサボサでだらしなく、それで冴えないように見えるが、身長が高くスラっとした体形なので、実は一部の女子から密かな人気があったのだ。
それに気づいたマリは心穏やかではいられなかった。ほかの女の子に鼻の下を伸ばしてるのは許せなかった。アキラのバカ、小さな声でつぶやいた。
昼休み、アキラはいつものところやってきていた。「ダンジョン討伐隊」がダンジョンに入るところを見学するためだ。
ダンジョン討伐隊とはダンジョンに入り魔物を倒して魔石を集める傭兵部隊だ。
3年前にアメリカ合衆国で魔石を使ったエネルギー生成実験が成功した。人々は歓喜し「ダンジョン革命」と呼んだ。すべての国が軍隊をダンジョンに送り込み、民間企業も傭兵を雇い魔石獲得に乗り出した。日本も2年前から民間の傭兵部隊が法律で認められ、「ダンジョン討伐隊」ができた。
ダンジョン討伐隊の人たちが集まってきた。まだ突入まで時間があるので、装備の点検や手入れなどをしていた。
アキラは、カッコいいなーと眺めていた。十八歳にならないと入隊できないので、高校を卒業したら入隊しようと決めていた。
「まーた、こんなところに来て。危ないでしょ」
マリがやってきて、アキラを連れて行こうとした。
「もうちょっとしたら戻るから」
アキラは動こうとしなかった。もうすぐ突入するのだ。それを見たかった。
「これのどこがいいのよ?」
「カッコいいだろう」
男ってバカばっか、マリはため息をついた。
少し離れたところから、ひとりの隊員がスマホでマリの写真を撮っていた。
「社長、かわいい子を見つけたんですが、後で写真を送りますから。見てください。」
そう言ってスマホを閉まった。
「全員集合!突入するぞ!」
ダンジョン討伐隊が入っていった。アキラは、このときを待っていた。討伐隊が黒い鏡のようなものに吸い込まれていくのは、まるでSF映画を観ているみたいだった。
「もう、早くしないと授業に遅れるわよ」
「わ、分かったから。そうせかすなよ」
マリはプリプリ怒り、アキラは未練がましく後ろを振り返りながら、戻っていった。
社長と呼ばれていた男がスマホに送られてきた写真を見ていた。
「これは逸材だな。君、この子について調べてくれ。」
秘書にスマホを見せ、そう言った。
その夜、マリの家の前にたくさんの車が止まった。窓から様子を伺っていたマリもアキラも、そのものものしさに驚いていた。訪問者たちは、あるテレビ番組の関係者だった。
その番組とは「ダンジョン討伐ゴー!」
「先生、おはようございます!」
颯爽と校門を走り抜ける。
「おはよう。九条ならいつものところにいたぞ」
「ありがとうございます」
「マリ、おはよう。今日は九条君と一緒じゃないんだ」
「ごめん、急いでるの。また後でね」
マリは校庭に向かった。
マリの父親はアメリカ人で、母親は日本人。所謂ハーフだが、イケメンの父親似で見た目はほとんど欧米人だ。金髪、 碧眼、透き通った白い肌、小顔で八頭身の美少女だ。彼女の金髪が風にゆれ、白くスラリと伸びた脚で走っていく姿に誰もが目を奪われた。
校庭の真ん中に、半円形の鏡のようなオブジェがあった。周りを柵で囲われ「立入禁止」の立て看板があり、その前に警備員が立っていた。そこに九条アキラもいた。
オブジェは「ダンジョン」と呼ばれていた。
七年前、突如世界中に約五十万個のダンジョンが同時に出現した。直径五メートルほどの円盤が地面に半分埋まっている感じだ。縁が光っていて、真横から見ると厚みがないただの光の線にしか見えない。本体は真黒で不気味な雰囲気を漂わせていた。
「アキラのバカ!何で待っててくれなかったのよ!」
マリの回し蹴りがアキラの尻に華麗に決まった。
「いてー!なにすんだよ、マリ」
「自業自得よ」
「な、なにー…この暴力女!」
「最低」
それを聞いてマリが手を挙げて殴ろうとしたとき、警備員がつぶやいた。
「青春だねえ」
マリは恥ずかしくなり、さっと手を降ろした。
どこが青春だよ、とアキラは心の中でつぶやいた。
「さあ、行くわよ」
マリがアキラの手を引っ張っていった。
マリは自分の下駄箱へ向かった。そこには今日もたくさんのラブレターが詰まっていた。そしてアキラの方を見て、優越感にひたったような笑みを浮かべてみせた。アキラは見慣れた光景に何の感情も湧かず、下駄箱を開けた。
すると普段は何も入っていないのに、一通の手紙が入っていた。驚きと期待感を抱きながら、その手紙を手に取ろうとしたとき、
「アキラ、それラブレターか!」
同級生が肩越しに声をかけてきた。マリはアキラの手紙を素早くかっさらった。
「アキラにはラブレターなんて10年早いわ」
言うや否や、手紙を破いてしまった。
「お、おまえ」
アキラが大声を上げた。マリは一瞬ひるんだが、
「わ、悪かったわね。お詫びに私の手紙を全部破かせてあげる。これでお相子ね」
と言って去っていった。
「おお、こわ」「夫婦喧嘩は犬も食わぬというけど、さすがにこれは」「触らぬ神に祟りなし」
アキラは茫然と大量の手紙を見つめていた。そこに先生がやってきた。
「九条、すごい数のラブレターじゃないか。青春だな」
これのどこが青春だよ、アキラは腰を落として手紙を拾った。同級生もそれを手伝った。
「最近、西園寺さんのやきもちがエスカレートしてないか。何かあったのか?」
「知らねえよ。ん、んん?これって、やきもちなのか?」
「それ以外の何だって言うんだよ。美少女だけど、さすがに引くな。この先大変だな、アキラ」
アキラはマリが好きだったが、面と向かって告白していない。いつも一緒だったから、それでいいと思っていたし、告白するタイミングが分からなかった。そして最近の彼女の行動に戸惑いを感じていた。モヤモヤした気持ちを抱いて、大量の手紙をゴミ箱に捨てた。
マリはさすがにやり過ぎたと、少し後悔した。
アキラはイケメンではなかったが、不細工というわけでもなかった。髪がボサボサでだらしなく、それで冴えないように見えるが、身長が高くスラっとした体形なので、実は一部の女子から密かな人気があったのだ。
それに気づいたマリは心穏やかではいられなかった。ほかの女の子に鼻の下を伸ばしてるのは許せなかった。アキラのバカ、小さな声でつぶやいた。
昼休み、アキラはいつものところやってきていた。「ダンジョン討伐隊」がダンジョンに入るところを見学するためだ。
ダンジョン討伐隊とはダンジョンに入り魔物を倒して魔石を集める傭兵部隊だ。
3年前にアメリカ合衆国で魔石を使ったエネルギー生成実験が成功した。人々は歓喜し「ダンジョン革命」と呼んだ。すべての国が軍隊をダンジョンに送り込み、民間企業も傭兵を雇い魔石獲得に乗り出した。日本も2年前から民間の傭兵部隊が法律で認められ、「ダンジョン討伐隊」ができた。
ダンジョン討伐隊の人たちが集まってきた。まだ突入まで時間があるので、装備の点検や手入れなどをしていた。
アキラは、カッコいいなーと眺めていた。十八歳にならないと入隊できないので、高校を卒業したら入隊しようと決めていた。
「まーた、こんなところに来て。危ないでしょ」
マリがやってきて、アキラを連れて行こうとした。
「もうちょっとしたら戻るから」
アキラは動こうとしなかった。もうすぐ突入するのだ。それを見たかった。
「これのどこがいいのよ?」
「カッコいいだろう」
男ってバカばっか、マリはため息をついた。
少し離れたところから、ひとりの隊員がスマホでマリの写真を撮っていた。
「社長、かわいい子を見つけたんですが、後で写真を送りますから。見てください。」
そう言ってスマホを閉まった。
「全員集合!突入するぞ!」
ダンジョン討伐隊が入っていった。アキラは、このときを待っていた。討伐隊が黒い鏡のようなものに吸い込まれていくのは、まるでSF映画を観ているみたいだった。
「もう、早くしないと授業に遅れるわよ」
「わ、分かったから。そうせかすなよ」
マリはプリプリ怒り、アキラは未練がましく後ろを振り返りながら、戻っていった。
社長と呼ばれていた男がスマホに送られてきた写真を見ていた。
「これは逸材だな。君、この子について調べてくれ。」
秘書にスマホを見せ、そう言った。
その夜、マリの家の前にたくさんの車が止まった。窓から様子を伺っていたマリもアキラも、そのものものしさに驚いていた。訪問者たちは、あるテレビ番組の関係者だった。
その番組とは「ダンジョン討伐ゴー!」
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