プロビデンスは見ていた

深月珂冶

文字の大きさ
上 下
176 / 188
タンザナイトの夕暮れ時

タンザナイトの夕暮れ時18

しおりを挟む
 
  森本が居なくなった後、りょうが私をにやりと見る。
「いかがなさいましたか?」
「あ。いや、川本さんと森本さんって付き合っているんだろうなと思って。名前で呼んでいましたし」
「気付かれましたか。実は付き合っています。森本との交際はそんな長くないのですけどね」
「ご結婚されるんですか?」
「どうなんでしょう。私は彼を愛しています。森本も同じ気持ちだと思っています」
「そうですか。何か宝飾店の店主と警察官って何か素敵ですね。羨ましいな」
  諒の言葉は心からの言葉のような気がした。諒の切なる思いが見えて、私は胸が苦しくなった。
「俺は。あ、すいません。俺も前を向かないといけないなって。でも、違う人ととか考えてもやっぱり来美のことが思い浮かんで」
「忘れられないですよね。真剣な思いほど、忘れることはできません。私も様々な人の過去を見てきました。無念にも散っていく思いもありました。無理に忘れなくもいいんですよ」
「ありがとうございます」
  諒の表情は今日、ここに来たときよりも穏やかになっていた。
  諒にとってここに来たことが良い方向になって安心した。
  井川にとっての諒はどんな存在だったのだろうか。心を通わせた恋人同士だったと私は思った。
「川本さん。長居してしまってすいません」
「あ。いいえ。大丈夫ですよ」
「これで失礼しますね」
「また着てくださいね」
「はい」
  諒は私に一礼をすると、店を出て行く。
  時刻を見ると、午前11時になっていた。ティーカップと、店の内部の掃除を終えると、私は看板を【営業中】に変えた。
  12月はクリスマスのためのプレゼント選びのお客さんが多い。
  今日もそんなお客さんばかりだった。クリスマスにロマンチックにプロポーズをする人も多いだろう。そうやって一日を終えた。

************
  一日の業務を終えて、家に着くなり私は急いで手を洗う。
  タンザナイトのネックレスを机に置き、私は両手に手袋をする。私は一息、深呼吸をすると、タンザナイトのネックレスに触れる。

  いつも通り、思い出はゆっくりと見てくる。
  二人がどこかの高級レストランらしき場所で食事をしている場面だった。諒と井川の距離感は先日の時より、近まっている。
  井川の表情がとても良い。諒は井川を愛しい目で見ている。
「来美。今日はありがとうね」
「私のほうこそ。諒のおかげでいつも楽しいよ。もっと一緒に居たいと私も思うよ」
「いや、来美からそんな真っ直ぐな気持ちを言われると照れるなぁ」
  諒は本当に照れているように見えた。本当に諒は井川を愛しているようだ。井川もまんざらではないようだ。
「あのさ。俺と結婚をしてほしい。付き合ってまだ三ヶ月とかだけど、俺は来美と供に生きたいと思う。今すぐ結婚とかじゃなくて、婚約みたいな感じで。これ、タンザナイトのネックレスだ。受け取ってほしい」
 諒は私に預けたタンザナイトを渡した。井川はその綺麗さに感嘆かんたんしているようだった。
「諒くん。本当に私でいいの?」
「来美でじゃなくて、来美がいい」
「諒くん………」
  井川はすごく嬉しそうだった。諒も自分のプロポーズが上手くいったのを確信しているようにも見えた。
「うん。ありがとう。私、諒くんと結婚する」
「ありがとう!!!来美」
  諒は来美の手を握る。井川も嬉しくて涙を流していた。
  けれど、井川の心の底には何かが浮かんでいるようにも思えた。諒はそれに気付くまでもなく、来美の手をしっかりと握っていた。
  やはり、一度、プロポーズを承諾していたようだった。
  井川が諒との結婚を拒んだ理由まではまだ思い出を見る必要があるようだった。
  私は次第に立ちくらみがしてきて、タンザナイトのネックレスから手を離した。

*********************

タンザナイトの夕暮れ時18 了
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

呪縛 ~呪われた過去、消せない想い~

ひろ
ホラー
 二年前、何者かに妹を殺された―――そんな凄惨な出来事以外、主人公の時坂優は幼馴染の小日向みらいとごく普通の高校生活を送っていた。しかしそんなある日、唐突に起こったクラスメイトの不審死と一家全焼の大規模火災。興味本位で火事の現場に立ち寄った彼は、そこでどこか神秘的な存在感を放つ少女、神崎さよと名乗る人物に出逢う。彼女は自身の身に宿る〝霊力〟を操り不思議な力を使うことができた。そんな現実離れした彼女によると、件の火事は呪いの力による放火だということ。何かに導かれるようにして、彼は彼女と共に事件を調べ始めることになる。  そして事件から一週間―――またもや発生した生徒の不審死と謎の大火災。疑いの目は彼の幼馴染へと向けられることになった。  呪いとは何か。犯人の目的とは何なのか。事件の真相を追い求めるにつれて明らかになっていく驚愕の真実とは―――

ストレイ・ラム【完結】

Motoki
ミステリー
 高校一年の山下一樹は、転校先の同級生松岡保が雨に濡れている場面を見てから、何故か彼が気になっていた。  偶然入った喫茶店でバイトをしている松岡とひょんな事から仲良くなった一樹は、その喫茶店「ストレイ・ラム」が客の相談事を請け負う変わった店だと知り、好奇心を刺激される。  ある日、松岡が気になるキッカケとなった古い友人、新田と再会した一樹は彼が何か悩み事をしている事を知る。松岡の薦めで「ストレイ・ラム」のマスター依羅に相談したその内容とは、「友人のドッペルゲンガーが出て、困っている」というモノだった。  二つ目の事件は、学園の七不思議。  ある日、「ストレイ・ラム」に来た依頼人は、同じ学園に通う女生徒・佐藤だった。七不思議の一つである鎧武者を目撃してしまった彼女は、その呪いにひどく脅えていた。そして「鎧武者が本物かどうかを調べてほしい」と松岡に依頼する。

【画像あり】超有名なミステリー「うつろ舟」のはなし

糺ノ杜 胡瓜堂
ミステリー
 世の中の珍談・奇談を収集する会「兎園会」  「南総里見八犬伝」で有名な江戸時代の戯作者・曲亭馬琴と、随筆家・山崎美成らが中心となって発足させたその会で報告された内容は「兎園小説」として編纂されました。  そこから、あの「超有名」なミステリー「うつろ舟の蛮女」のお話をご紹介します。  うつろ舟については、民俗学者の柳田國男氏の著書をはじめ詳細な研究がなされていますし、ネット上でも様々に考察されていますので、今更私があれこれ言うまでもありません。  ただ、なかなか「原資料」を目にする機会は少ないと思いますので訳してみました。  

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

濡れ衣の商人

鷹栖 透
ミステリー
25歳、若手商社マン田中の平穏な日常は、突然の横領容疑で暗転する。身に覚えのない濡れ衣、会社からの疑いの目、そして迫り来る不安。真犯人を探す孤独な戦いが、ここから始まる。 親友、上司、同僚…身近な人物が次々と容疑者として浮かび上がる中、田中は疑惑の迷宮へと足を踏み入れる。巧妙に仕組まれた罠、隠蔽された真実、そして信頼と裏切りの連鎖。それぞれの alibi の裏に隠された秘密とは? 緻密に描かれた人間関係、複雑に絡み合う動機、そして衝撃の真相。田中の執念深い調査は、やがて事件の核心へと迫っていく。全ての謎が解き明かされる時、あなたは想像を絶する結末に言葉を失うだろう。一気読み必至の本格ミステリー、ここに開幕!

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

パンアメリカン航空-914便

天の川銀河
ミステリー
ご搭乗有難うございます。こちらは機長です。 ニューヨーク発、マイアミ行。 所要時間は・・・ 37年を予定しております。 世界を震撼させた、衝撃の実話。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...