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タンザナイトの夕暮れ時
タンザナイトの夕暮れ時3
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【物に触れると思い出が見える】能力はカッコイイものなのだろうか。私にはよく解らない。かなり厄介な能力であるのは間違いない。
「ありがとうございます」
「あの、さっき俺の袖触りましたよね?で、見えたってこと、ですよね?」
「ま、そうですね」
「うわあ。諒って何で振られたと思います?」
「井川来美さんに振られたんですよね」
「おお、素晴らしい!!!川本さん!!!感動しました、俺」
「大げさな」
「いいえ。凄いです。俺、初めてあなたみたいな人に会いました」
物の過去が見える人なんて沢山いない。けれど、私は自分より優れた能力を持つ、楠田弘輝に出会った。
それもそれで奇跡としかいいようがない。それは本当に稀なことなのかもしれない。過去の反対の未来を見ることができる人がいるのは信じられないがいると私は思う。
「そうですか。では、これで」
「えええ。も、少しだけ話したいです!あの、つかぬことそのニですけど。ご結婚されていますか?」
「あ、すいません。俺、いつもの癖で。踏み込みすぎました。すいません」
「大丈夫ですよ」
「俺、人との距離感がわからなくて。で、人を不愉快にさせてしまうみたいで」
「左様でございますか」
「それでも俺と親友になってくれた奴が、諒なんです」
「良いお友達なんですね」
新太郎は諒をかなり信頼しているようだ。二人の信頼関係は絶対的なものなのかもしれない。新太郎は親友の諒を助けたいのだろう。
「俺にとっての諒は大事な友達で。あいつには幸せになってもらいたくて。あいつ、本当にいいやつで。イケメンでいい奴なんだけど、貧乏くじばっか引かされて」
諒がどんな恋愛をしてきたか解りかねるが、上手くいったことがないのかもしれない。
外見が良ければ上手くいくというわけでもないのかもしれない。
諒の言葉を思い出した。「俺はいつだってそうだ。誰かに大切にされたことなんてない」。これはかなり深刻な言葉のように感じた。諒がどのような恋愛をしてきたか知らない。新太郎の言うように苦しい思い出ばかりなのかもしれない。
「そうですか」
「あ。何か変なこと言ってすいません」
「いいえ、いいんです」
「じゃあ、俺はこれで」
「鑑定が終わりましたら、お知らせ頂いた連絡先に連絡を差し上げます」
新太郎は店を出て行った。新太郎が出て行った先の店のドアを見つめる。
井川と諒はどのように出会ったのだろうか。全く検討が着かないが、この思い出を見ればいいのだろうか。
人の思いは何時の時も上手くいかないものだ。井川にとっての忘れられない廣崎真学は故人であり、兄のお嫁さんの真理子が好きだった。
私は気を取り直して、閉店の準備を再開した。ガラスケースに出している宝石を厳重な金庫にしまった。
この能力が芽生えたときのことを不意に思い出した。
家にあった古い時計だ。その時計は祖父が戦争に行き、兵隊として活躍していたときから使っていたものという思い出を見たときだったと思う。
この不思議な能力の継承は祖母からだと潔叔父さんから聞いた。
祖母はこの能力とどう向きっていたのだろうか。想像するに辺り、あまり良いことがなかったように思う。
片付けている最中に、スマホが鳴る。着信は森本ヒカルからだった。
「どうしたの?」
『元気にしていたか?』
「うん。元気だよ。ヒカルは?」
『俺も元気でやっているよ。思ったより事件が長引いていて。リカコの声が聞けてよかったよ』
森本は優しい声だった。私は少しだけ恥ずかしくなってくる。久しぶりに森本の声が聞けて私は嬉しかった。
「私も嬉しいよ」
『そうか。俺だけかと思っていたよ』
「そんなことないよ。私もヒカルの存在に助けられているよ。ありがとう」
『っあ。あーもう。次会ったら、お、覚えていろよ』
私は森本が照れているようで微笑ましくなってくる。私は森本が好きだ。
森本を愛している。素直な気持ちを表現するのは難しいけれど、どうにかそれが伝わればいいと思った。
「うん。待っているよ」
『っ。お、おう。じゃあな』
森本からの電話が終わると、私はスマホをカバンの中に仕舞う。
片づけが終わると、川本宝飾店に鍵を掛けて商店街を抜けて自身の家に歩いて自宅に向かう。
歩いている途中で、倉知亮が私の前に現れてきた。
タンザナイトの夕暮れ時3 了
「ありがとうございます」
「あの、さっき俺の袖触りましたよね?で、見えたってこと、ですよね?」
「ま、そうですね」
「うわあ。諒って何で振られたと思います?」
「井川来美さんに振られたんですよね」
「おお、素晴らしい!!!川本さん!!!感動しました、俺」
「大げさな」
「いいえ。凄いです。俺、初めてあなたみたいな人に会いました」
物の過去が見える人なんて沢山いない。けれど、私は自分より優れた能力を持つ、楠田弘輝に出会った。
それもそれで奇跡としかいいようがない。それは本当に稀なことなのかもしれない。過去の反対の未来を見ることができる人がいるのは信じられないがいると私は思う。
「そうですか。では、これで」
「えええ。も、少しだけ話したいです!あの、つかぬことそのニですけど。ご結婚されていますか?」
「あ、すいません。俺、いつもの癖で。踏み込みすぎました。すいません」
「大丈夫ですよ」
「俺、人との距離感がわからなくて。で、人を不愉快にさせてしまうみたいで」
「左様でございますか」
「それでも俺と親友になってくれた奴が、諒なんです」
「良いお友達なんですね」
新太郎は諒をかなり信頼しているようだ。二人の信頼関係は絶対的なものなのかもしれない。新太郎は親友の諒を助けたいのだろう。
「俺にとっての諒は大事な友達で。あいつには幸せになってもらいたくて。あいつ、本当にいいやつで。イケメンでいい奴なんだけど、貧乏くじばっか引かされて」
諒がどんな恋愛をしてきたか解りかねるが、上手くいったことがないのかもしれない。
外見が良ければ上手くいくというわけでもないのかもしれない。
諒の言葉を思い出した。「俺はいつだってそうだ。誰かに大切にされたことなんてない」。これはかなり深刻な言葉のように感じた。諒がどのような恋愛をしてきたか知らない。新太郎の言うように苦しい思い出ばかりなのかもしれない。
「そうですか」
「あ。何か変なこと言ってすいません」
「いいえ、いいんです」
「じゃあ、俺はこれで」
「鑑定が終わりましたら、お知らせ頂いた連絡先に連絡を差し上げます」
新太郎は店を出て行った。新太郎が出て行った先の店のドアを見つめる。
井川と諒はどのように出会ったのだろうか。全く検討が着かないが、この思い出を見ればいいのだろうか。
人の思いは何時の時も上手くいかないものだ。井川にとっての忘れられない廣崎真学は故人であり、兄のお嫁さんの真理子が好きだった。
私は気を取り直して、閉店の準備を再開した。ガラスケースに出している宝石を厳重な金庫にしまった。
この能力が芽生えたときのことを不意に思い出した。
家にあった古い時計だ。その時計は祖父が戦争に行き、兵隊として活躍していたときから使っていたものという思い出を見たときだったと思う。
この不思議な能力の継承は祖母からだと潔叔父さんから聞いた。
祖母はこの能力とどう向きっていたのだろうか。想像するに辺り、あまり良いことがなかったように思う。
片付けている最中に、スマホが鳴る。着信は森本ヒカルからだった。
「どうしたの?」
『元気にしていたか?』
「うん。元気だよ。ヒカルは?」
『俺も元気でやっているよ。思ったより事件が長引いていて。リカコの声が聞けてよかったよ』
森本は優しい声だった。私は少しだけ恥ずかしくなってくる。久しぶりに森本の声が聞けて私は嬉しかった。
「私も嬉しいよ」
『そうか。俺だけかと思っていたよ』
「そんなことないよ。私もヒカルの存在に助けられているよ。ありがとう」
『っあ。あーもう。次会ったら、お、覚えていろよ』
私は森本が照れているようで微笑ましくなってくる。私は森本が好きだ。
森本を愛している。素直な気持ちを表現するのは難しいけれど、どうにかそれが伝わればいいと思った。
「うん。待っているよ」
『っ。お、おう。じゃあな』
森本からの電話が終わると、私はスマホをカバンの中に仕舞う。
片づけが終わると、川本宝飾店に鍵を掛けて商店街を抜けて自身の家に歩いて自宅に向かう。
歩いている途中で、倉知亮が私の前に現れてきた。
タンザナイトの夕暮れ時3 了
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