プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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琥珀の慟哭

琥珀の慟哭68

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  華子は椅子から立ち上がり、ため息をつく。スマートフォンを取り出すと、電話をかけ始めた。

「あ、もしもし?陸?」
『あ、お母さん。どうしたの?』
「ちょっと明日あたりに会社に来れるかしら?磯貝さんも連れてきて頂戴ちょうだい
『明日ですか?解りました』
「ありがとう。じゃあね」

  華子は陸との電話を終えると、ため息をつく。
  華子は社長室から見える窓を見つめる。先ほどあった出来事とは裏腹に、外の天気は良かった。社長室の内線が鳴る。

「そう。解った。じゃあ、社長室に来て」

  祐が会社に着いたらしい。華子は内線を切ると再び、椅子に座る。
  しばらくすると、社長室がノックされ、華子は鍵を解錠した。

「只今、戻りました。お母様」
「お疲れ様。ところで、聞きたいことがあるんだけど」

  華子は先ほど、横井から受け取った祐が反社会的組織らしい人とバーで飲んでいる写真を取り出した。
  祐はそれを見つめるなり、険しい顔をする。

「これさ、どういうこと?前もこういう人たちの縁は切りなさいって言ったよね?それに前から思っていけど、祐のやっていることは矛盾しているわ。社会性とか、世間体を気にするわりに」
「お母様!」
「言い訳は聞きたくない。いいから、こういう人たちとは縁を切りなさい」
「……お母様。これ、今の写真じゃありませんよ」
「っなにを言っているの?私の言うことが聞けないの?」

   華子は祐を睨みながら怒鳴る。祐は華子の気迫に負け、怯んだ。
  私はこれまで見てきた華子の表情と違い驚くばかりだった。

「聞けないとかそういうことじゃないですよ。お母様がこういう人たちと表現した彼らは、僕の学生時代の友達だったんですよ」
「ったく。学生時代の友達がなんです?反社会的な人と友達ってどうなの?だからって関係をもっているなんて………」
「お母様。お母様だって可笑しくないです?元殺人犯の南田と交流関係を続けているじゃないですか?違います?」
「それとこれとは別よ。いい?金輪際。こういう写真が撮られないようにしなさい。全く」
「……何ですか?いきなり」
「何でもないのよ。あなたには関係ない。私の問題」
「関係ないって。僕は柿澤の家の人間ですよ。何かあったんじゃないですか?」
「何もない。もういいから。仕事に戻りなさい」

  華子は祐を社長室から追い出した。
  祐は華子の態度に納得いかないまま、社長室を出た。
  一人残された華子は椅子に座る。机の引き出しから、裕次郎の写真を取り出すと、それをビリビリにした。
  華子は目に涙を流し、それを手の甲で拭った。

  華子の裕次郎に対しての感情が変化しているように見えた。愛した人じゃなく、憎しみの感情が流れている。
  それがはっきりと解り、私は苦しくなってきた。スマートフォンが鳴り、華子は着信を確認した。

「もしもし?」

  華子は電話に出た。電話の相手は陸だったらしい。
  華子の声色が恐かったのか、陸は様子を伺いながら言う。

『あの。お母さん。僕のとこに横井という人が着たんだけど、あの人は一体何者ですか?』

  横井は陸のところにも顔を出したらしい。華子は息を飲み、口を開く。

「あの人はね、私の邪魔をしようとしている人よ」
『邪魔?どういうことですか?』
「まあ、話せば長くなる。今日のところは教えてあげられない。ところで、陸。横井さんに変なことされていない?」
『変なこと?ですか?別に何も。ただ息子かどうか聞かれただけです』
「そ。そう。良かった」
華子は安堵した。
『あ。そういえば、磯貝さんと話していたんですけど、新しいアイディアを思いついたんですけど』
「ごめん。今はそういう気分じゃないの。明日にしてくれる」
『ごめんなさい。お母さん』
「じゃあ、明日ね」

  陸は華子の様子が可笑しいと思いつつも、突っ込まなかった。
  華子の疲労はピークに達していたのか、ふらつく。 
 華子はそのまま、しゃがみ込み、息を切らし始めた。
  社長室の内線が鳴り、華子は苦しいながらもそれに出る。

「も……しもし?」
『あ。華子社長ですか?今、いいですか?』
「……今、そ、そうね。救……」
『どうしたんですか?解りました。ちょっと待ってください。大丈夫ですか?』
「ええ。だ、大丈夫よ」

  華子は救急車に運ばれていった。

  ここで思い出は切り替った。華子の容態はどうだったのだろうか。楠田の件があるから、大丈夫だろう 
 けれど、私は心配になった。
  ゆっくりと切り替わった思い出は、華子がベッドの上にいる場面だった。
  琥珀のブレスレットはベッドの近くの小さな机にある。
  華子は祐と話をしている。

「とにかく、大事に至らなくて良かったです」

  祐は心なしかやつれている。憶測に過ぎないが、華子が倒れて心配をしていたのかもしれない。

「迷惑を掛けたわね、ごめんね」
「いいえ。僕としてはお母様に長生きしてもらいたいので」
「有り難う」

  祐は少しだけ照れ臭そうにした。華子はその様子を微笑ましく見た。

琥珀の慟哭68 了
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