131 / 188
琥珀の慟哭
琥珀の慟哭52
しおりを挟む華子は楠田とレストランで食事をしているようだった。
華子の陰鬱の原因を、楠田は知ってしまったようだ。
「華子さん。大丈夫ですか?」
「……っ。やっぱ南田君にはお見通しか」
華子は楠田に自分の知られなくない過去を見られ、落ち込んだ。 楠田は慌てて宥める。
「……すいません。いたずらに見たわけじゃなくて、その」
「いいの。気にしないで」
「……俺、華子さんの力になりたいです」
「……ありがとう」
華子は楠田に笑ってみせた。華子の目は笑っていない。
「あー。本当にごめんね。今日は南田君が奢ってくれるってのに!明るい話しないと!」
「無理しないで下さい。俺は華子さんにお礼がしたかっただけなんで」
「でも、何か南田君にもあったんじゃない?良いことでしょう?」
華子は嬉しそうに言った。
楠田は華子を前に自身の良かった出来事を話して良いものか戸惑った。
「あ、いや。俺はいいです」
「私に気を遣わないで。教えて」
「あの。解りました。実は昇格しました」
「良かったじゃない!閣楼で店長になったの?」
「ええ。お陰様で。華子さんがあの時、助けてくれなかったら、俺は」
華子は楠田を良く思っていなかった磯田や、他の店員を説き伏せた。
楠田はその出来事を見たのだろう。華子は微笑む。
「南田君は本当に何もかもお見通しなのね」
「……だから俺は華子さんの力になりたい」
「……ありがとう」
華子は涙を流した。楠田は華子を心配そうに見つめた。
「しっかりしないとね」
「実の息子さんに今度、会うんですね」
楠田は華子の顔を真っ直ぐに見た。楠田は既に華子の過去を全て見たようだ。
華子は楠田の言葉に驚きつつも、苦笑した。
「……そうよ。けど、本人はどういうつもりでいるのかなと」
楠田は少しだけ沈黙した。
「……俺、昔は母親を恨んでました。何で俺
を毛嫌いし、棄てたのか。でも、今になって思うんです。全てを見透かされるって恐いんだって」
楠田はゆっくりと真剣に言葉を発した。
その言葉は本心からのように思えた。
「全てを見透かされて、陽の目を浴びるような。知られなくない過去がある人からすると苦痛でしかない。俺はそれらを意図せずに見えてしまう。だから、勿論のこと、彼女が出来ても続かない。まあ、俺自身が元殺人犯だからってのもあるけど」
楠田の目にはうっすらと涙が見えた。楠田は続ける。
「今は恨んでないし、寧ろ生んでくれたことを感謝している。この能力だって何かに役立てられるかもしれないって。でも、やっぱ難しくって。だから、何も見てない振りしているけど」
楠田は初めて自分自身の本心を華子に話しているように見えた。
楠田なりの華子への励ましなのかもしれない。
華子はそれが解り、少しだけ笑った。
「なんか、ありがとう」
「いえ、俺は別に。俺は華子さんに出会えて良かったです。恩は絶対に返したい」
「恩か。そんなに重く思わなくていいよ」
華子は笑いながら言った。楠田は真剣だった。
「俺は華子さんに出会わなかったら、また刑務所だったと思う」
「そんな大袈裟な」
「……華子さんに出会えて、この能力ごと自分自身を受け入れられるようになりました」
「……そう。それは良かったわ。でも、本当に南田君は変わったね」
華子は楠田のことを逞しく思ったようだ。楠田は少しだけ、照れているようにも見えた。
琥珀の慟哭52 了
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
赭坂-akasaka-
暖鬼暖
ミステリー
あの坂は炎に包まれ、美しく、燃えるように赤い。
赭坂の村についてを知るべく、男は村に降り立った。 しかし、赭坂の事実を探路するが、男に次々と奇妙なことが起こる…。 ミステリーホラー! 書きながらの連載になるので、危うい部分があります。 ご容赦ください。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【画像あり】超有名なミステリー「うつろ舟」のはなし
糺ノ杜 胡瓜堂
ミステリー
世の中の珍談・奇談を収集する会「兎園会」
「南総里見八犬伝」で有名な江戸時代の戯作者・曲亭馬琴と、随筆家・山崎美成らが中心となって発足させたその会で報告された内容は「兎園小説」として編纂されました。
そこから、あの「超有名」なミステリー「うつろ舟の蛮女」のお話をご紹介します。
うつろ舟については、民俗学者の柳田國男氏の著書をはじめ詳細な研究がなされていますし、ネット上でも様々に考察されていますので、今更私があれこれ言うまでもありません。
ただ、なかなか「原資料」を目にする機会は少ないと思いますので訳してみました。
その人事には理由がある
凪子
ミステリー
門倉(かどくら)千春(ちはる)は、この春大学を卒業したばかりの社会人一年生。新卒で入社した会社はインテリアを専門に扱う商社で、研修を終えて配属されたのは人事課だった。
そこには社長の私生児、日野(ひの)多々良(たたら)が所属していた。
社長の息子という気楽な立場のせいか、仕事をさぼりがちな多々良のお守りにうんざりする千春。
そんなある日、人事課長の朝木静から特命が与えられる。
その任務とは、『先輩女性社員にセクハラを受けたという男性社員に関する事実調査』で……!?
しっかり女子×お気楽男子の織りなす、人事系ミステリー!
読まれるウェブ小説を書くためのヒント
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
エッセイ・ノンフィクション
自身の経験を踏まえつつ、読まれるための工夫について綴るエッセイです。
アルファポリスで活動する際のヒントになれば幸いです。
過去にカクヨムで投稿したエッセイを加筆修正してお送りします。
作者はHOTランキング1位、ファンタジーカップで暫定1位を経験しています。
作品URL→https://www.alphapolis.co.jp/novel/503630148/484745251
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる