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琥珀の慟哭
琥珀の慟哭22
しおりを挟む次の日、電話の音で目が覚めた。私はまだ重いまぶたを開けながら、電話に出る。
「はい。なんでしょう?」
【早朝にすいません。弁護士の古川です】
「あ。どうしました?」
電話の相手は楠田の弁護士、古川だった。古川の声色は少し元気がなかった。
【あの。川本さんの言う通りでした】
「ん?言う通りとは?」
【楠田君にバレました。彼は言いました。『これ以上余計な真似はしないでくれ。川本に頼むなら古川さんを俺の弁護士から外す』と。私はどうしたら】
やはり楠田は気付いたらしい。古川の言っていた内容から察すれば、楠田が気付かないはずないのだから。
「解りました。私は止めませんよ。古川さん、私は貴方と接触しないほうがいいでしょう。見た結果は弥生さんにお伝えします。あと、弥生さんにも言ったのですが。私はこの思い出を見終わったら、弥生さんに楠田君にちゃんと会ってくれと」
きっと、この内容も楠田にはお見通しだろう。けれど、自分が一度でもやるべきと思ったことは曲げたくない。
【解りました。じゃあ、これで。本当に申し訳ございません】
「いいえ。大丈夫ですよ。何とかします」
【本当にすいません】
私は古川との電話を終えた。古川は恐らく、心から楠田を心配していると思った。
楠田は孤独じゃなく、古川がいたのかもしれない。
私は深呼吸をし、店に向かう準備を始めた。
***********
朝の身支度を手短に終え、私は家を出た。家から川本宝飾店は歩いて行ける距離だ。
川本宝飾店のある商店街の入り口に入ると、森本ヒカルがいた。
「よう。おはよう」
「おはよう。どうしたの?何か事件?」
「いや、その後、どうかと」
森本は楠田の事件の進捗が気になってやってきたらしい。
「ううん。まあ、まだまだ先かな」
「そうか。あ、あと、あれだ。お前、昨日?」
「昨日?何?」
「ほら、あれだ。何やっていた?」
「何?って普通に」
「だから違うって」
私は森本が何を聞き出したいのか、一瞬、わからなかった。森本は苛立ちながら言う。
「あれだよ。たまたま見かけた。ショーシャンクに行ったよな?そこから見えたんだよ。男といたよな?」
「ああ。あれね。あの人は楠田君の弁護士の古川さんだよ。どうやら、古川さんが華子さんから託されたらしいんだよね」
「なんだ。そうか」
森本は安心した様子だった。私はなんだかその様子が可笑しくて笑う。
「浮気とかじゃないから安心して」
「っ解っているけど。俺だけがお前のことを」
森本は私の手を取り、見つめた。私は少し恥ずかしくなり、目を反らす。
「そんなことないよ」
「わかってるけど、何か。こう。一方的なんじゃないかって」
森本はいつもの自信がないように見えた。私はそのギャップに少しだけときめいた。森本は私を思って不安になっている。
なんだか恥ずかしいが、うれしくなった。
私は森本の手を取り、抱きしめた。森本の心臓の音が聞こえ、余計に恥ずかしくなった。
何やっているんだろうと自分で思い、離れようとすると、逆に森本に抱きしめられた。
「今はすこしだけ、このままで」
私と森本はしばらく、そのままでいた。
改めて恥ずかしさに心臓が爆発しそうになった。心臓の音がどちらの音か解らず、共鳴する。その音が心地良く、暖かくなった。
森本は私から離れ、見つめてきた。その表情は穏やかで、これまで見たことない顔だった。
「じゃあな」
「うん」
森本は背を向けて行ってしまった。
私は少しだけの抱擁をかみしめた。私は気を取り直し、店に向かう。
私は川本宝飾店に着くと、すぐに鍵を開けて、開店の準備に取り掛かった。
楠田に気づかれた以上、思い出を早く見る必要がある。
営業の時間を午前中だけにし、午後からは思い出を見ることにしよう。
楠田と華子の身に何があったのか。出来れば、自分が見たいと思った過去が見れたらいいのに。私の能力はご都合通りにはいかない。
では、見たいと思った過去を見るには何か方法あるのだろうか。
これまで何度も試したが、できたことはない。
私は今度こそ、物凄い集中して念じたら思い出が見えるかもしれないと思った。
能力のコントロールはできている。
私は試してみる価値があるかもしれないと思った。
琥珀の慟哭22 了
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