プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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琥珀の慟哭

琥珀の慟哭12

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    私はケースを開けて、琥珀のブレスレットを取り出した。
 ブレスレットを宝石受けに置く。
 私は息を吸い、琥珀もブレスレットに触れた。
 思い出はゆっくりと見えてきた。

 琥珀のブレスレットが宝石店に並んでいる。黄金に輝くその、琥珀の色は夕焼けの色にも似ている気がした。
 宝石店の店員がお客さんに話しかけている。

「このブレスレットはいかがですか?琥珀ですよ。琥珀には力があるんですよ」

 店員は若い感じの女性で顔はまったく見えない。ただ明るい口調で話している。
 女性は丁寧な雰囲気の女性で、宝石店の店員らしさがあった。
 琥珀のブレスレットを勧められているのは、誰だろか。男性の顔が見えてきた。

 この男性は誰だろうか。あくまでも予測だが、柿澤コーポレーションの裕次郎かもしれない。
 男性の様子は二十代後半くらいに見えた。

 この琥珀のブレスレットはかなりの年季が入っているのかもしれない。
 この思い出は柿澤華子が2018年の現在で72歳だから、40年以上前の出来事があるのかもしれない。年号が解るカレンダーはないものだろうか。

「実は妻のために買おうと思っているんです」
「愛妻家なんですね。すばらしいです」
「彼女は僕のために家に入るのを決意してくれたんです。教師にやりがいを感じていた頃に、プロポーズして。彼女にはもう苦労ばかりかけて」

 男性は端正な顔立ちで、艶やかな雰囲気をかもしていた。黒髪に前髪が七三だったが、とても似合っていた。恐らくはかなりモテたであろう見た目だった。

「そうですか。琥珀は太陽のエネルギーがあって、鬱々とした空気を飛ばしてくれるんです。本当にお勧めです」
「そうなんですね。このブレスレット、プレゼント用でもらえますか?」
「解りました。ありがとうございます。それではお支払いはいかがなさいますか?」
「じゃあ、これで」

 男性はクレジットカードを取り出した。
 カードの名前には【YUJIRO KAKIZAWA】と書かれていた。
 この当時、クレジットカードを持っている人は少ない。
 その意味でも、柿澤家はかなりの資産家ということがわかる。
   やはり、この男性は柿澤かきざわ裕次郎ゆうじろうらしい。華子は本当に裕次郎に愛されていたのだろう。
 なんだかとても切なくなった。きっと綺麗な思い出も、汚い思い出もこのブレスレットは見てきたのだろう。
 
 裕次郎は嬉しそうに宝石店を出て行った。
 裕次郎の表情はとても幸せそうだった。
 華子との結婚は順風満帆だったか。この思い出だけでは判断しづらい。
 裕次郎は華子に渡す瞬間を楽しみに嬉しそうにスキップをしている。
 裕次郎は会社に戻ると、会社員が言う。

「お帰りなさい。社長」
「ああ。ただいま。何か変わったことはない?」
「ないです。あの、ご婦人の華子様から電話が」
「ああ。解った。後で電話をする」

 裕次郎は社長室に入ると、電話を起動する。何度目かの呼びかけてで華子が電話に出たようだ。

「どうしたんだ?」
【あの、仕事の件なのだけど】
「仕事?」
 
 華子へのプレゼントのシーンから肝心な楠田との思い出までが時間がかかるように思えた。これは長丁場になる。私はそう覚悟して、思い出を見ることにした。

 40年以上も華子と供に過ごしたブレスレットは沢山の思い出が詰まっていた。
 良い思い出も悪い思い出も、今のその人自身を形成していく。
 華子の人生は、裕次郎と結婚した瞬間から波乱に満ちていた。
 いきなり華子が柿澤家の人からいじめを受けている場面が映し出された。

琥珀の慟哭12 了
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