プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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琥珀の慟哭

琥珀の慟哭4

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 手紙と一緒にこの琥珀のブレスレットが入っていたのだろうか。
 弥生は涙を流していた。

「どうして……どういうこと?」

 弥生は涙を流していた。

「あの子は……本当に」

 あの子とは誰のことなのだろうか。
 弥生はぽつりぽつりとつぶやく。部屋のテレビが着いていたのか、夕方のニュースが流れてきた。

【今日○月×日午後○時ごろ、警察は南田弘一容疑者を任意同行しました。南田容疑者は、磯貝菊男さんを殺害し、柿澤華子さんに暴行を加えた容疑での取り調べです】

 弥生はその画面を呆然と見つめた。弥生は嗚咽し始め、その場に崩れ落ちた。
 家の玄関のドアが開く音が聞こえる。

「ただいま」と言う声と共に、弥生の旦那と思われる男性が帰ってきた。

 男性は弥生に気付くと、その様子に心配する。

「どうしたんだ?弥生?」
「何でもないのよ。ちょっと辛いことを思い出して」
「辛いこと?あのことか」
「いいの。私が悪いのだから。でも、私にはどうにもできなくて」

 男性は弥生の手を取る。

「弥生だって色々あったじゃないか。なぁ、だから仕方ないじゃないか」
「……仕方ない?そうね。そう思えたらどんなに楽か」

 弥生の涙は止まらなかった。私は弥生が、とても母親思いなのだろうと思った。
 男性は弥生を抱きしめる。

「俺は何もできないし、君の過去を受け入れて、結婚したつもりでいる。だけど、こんなに苦しんでいるなら、過去と向き合わないといけないのかもしれない」
「……そうね。前に話したけど、私が生んだ弘輝こうきのことだけど」

 私は弥生の口から出た「弘輝」という名前に息を飲んだ。
 弥生は楠田くすだ弘輝こうきの本当の母親なのだろうか。
 私は咄嗟にケースから手を離し、机に置く。

 一体、どういうことだろうか。
 柿澤かきざわ弥生やよいは楠田弘輝の本当の母親なのか?
 だから、実の息子の無実を証明したいということなのだろうか。
 じゃあ、母親の華子からの手紙には何が書かれていたのだろうか。

 私は息を吸い、再びブレスレットの入ったケースを持つ。見えないことを願いながら、その琥珀のブレスレットが入ったケースを金庫に仕舞った。
 金庫に錠をかけると、私は店に戻る。

 今日もそれほど、変わったことはなかった。
 ただ、私は気持ちが落ち着かないでいた。
 楠田の本当の母親かもしれない弥生。
 楠田は幼いころに、両親が家を出て行った。弥生は楠田を棄てた。
 ネグレストというものだ。
 そんな楠田は愛情を知ることもなく、少年犯罪を犯した。
 弥生も責任を感じているのだろう。でも、それは遅すぎるようにも思える。

 弥生は楠田の能力に気付いていたのか。

【物に触れると過去が見える】。この能力を気味悪がって楠田を捨てたのだろうか。

 私は楠田を思うと、苦しくなった。私は弥生に対して、嫌悪感が湧いた。
 私は弥生のためじゃなく、楠田がやっていないかもしれない罪に問われないためにやろうと思った。

「すいません」

 お客さんの声で、私は気づいた。

「はい。なんでしょう」
「あの。以前、アクアマリンの指輪の購入を相談した藤崎です」
「あ。ああ、お久しぶりです」

 私は目の前の藤崎との再会に少し、嬉しくなった。

「おかげさまで、彼女と和解できました」
「そうなんですね。良かった。では、指輪。どうなさいますか?」

 藤崎の顔色は良かった。本当に心からの幸せを享受しているようにも見えた。
 藤崎のこれからが幸せであることを願った。

「はい。指輪は前回と同じもので」
「解りました。ティファニーのアクアマリンの指輪ですね」

 私は該当の物を藤崎の前に出す。ケースを開けて、中身を見せる。

「それで大丈夫です!あの、今度、彼女と一緒にここに来ますね!」
「解りました。それではお待ちしております」

 藤崎は機嫌が良さそうに店を出て行った。
 藤崎の表情はこの前より、穏やかだと思った。
 藤崎に幸せが舞い込んできている。
 私は少し嬉しくなった。さっきの陰鬱いんうつとした空気が少しだけ晴れた気がした。
 幸せになってほしいと心から願った。



琥珀の慟哭4 了
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