プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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琥珀の慟哭

琥珀の慟哭2

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 お客さんは50代くらいの女性だった。穏やかな表情で、とても優しい雰囲気の印象だっだ。若いころからの綺麗さと上品さが、見た目から出ていた。

「あの。川本宝飾店の春木さんから聞いて、ここに来たのですが」
「ああ。過去を見てほしいという?」
「そうです。すいません。名前も名乗らず。私の名前は柿澤かきざわ弥生やよいと申します」

 柿澤弥生と名乗る女性は一礼をした。私は思わず一礼を返した。

「初めまして、私が川本宝飾店の取締役の川本リカコです。ご案内します」

 私は弥生を部屋に案内した。弥生は少しだけ緊張しているように見えた。
 弥生は何故、過去を見たいのだろうか。弥生は私と共に川本宝飾店に入る。
 私は弥生に椅子に座るよう促した。

「お茶をご用意しますね」
「すいません」

 私はお茶を用意する為に給湯室に向かう。
 給湯室からお茶を持ってくると、弥生の顔をふと見た。
 弥生はかなり深刻な表情を浮かべていた。

「お待たせしました」
「あ、すいません」

 私は弥生に緑茶を出した。

「あの。意外にお若いんですね」

 弥生は私を見る。

「そうですかね。親から受け継いだんですよ」
「そうなんですね。じゃあ、大学を卒業されてから?」
「うーん。そうですね。大学を卒業する前に両親が無くなったので、大学を卒業出来なかったんです」
「なんだか余計なことを聞いてしまいました。ごめんなさい」

 弥生は謝罪をした。

「あ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい。あの。柿澤さんは何故、過去を見たいのでしょうか?」

 弥生は私の質問に少し、表情を固くした。弥生は息を吸う。

「あの。二年前の2016年の夏に、私の母親の柿澤かきざわ華子はなこが殺人事件に巻き込まれまして」
「殺人事件に巻き込まれた?」
「はい。幸い。命は助かったのですが。未だに入院中で」
「そうなんですね」

 私は思いがけない内容に動揺した。弥生は申し訳なさそうにした。

「……。すいません。本来なら警察とか探偵に頼むことですよね」
「いえ。何が遇ったのか詳しく教えていただけますか?」

 弥生は自身の母親、華子について話し始めた。
 柿澤華子は、現在72歳の高齢の女性。旦那の柿澤かきざわ裕次郎ゆうじろうが二十年くらい前に亡くなると、柿澤コーポレーションを引き継いだ。
 役員を65歳までやったらしい。
 引退後は、慈善活動に勤しんでいたそうだ。

「じゃあ、華子さんが引退なさった後の事業は誰が継いだんですか?」
「私の兄で、長男の柿澤かきざわゆうです」
「そうなんですね。引退後に慈善活動。事件とは、慈善活動のこととご関係が?」
「あ。はい。そうです。その慈善活動の一環に、少年院への慰問を行いました。その時に、保護監察官の藤山ふじやま利典としのりさんとお知り合いになりまして」

 私は弥生の話を真剣に聞いた。弥生は少し言い難いようだった。

 「藤山さんはある青年のことで、悩んでいたそうでして」

 私は少年院という言葉から、楠田くすだ弘輝こうきを思い出した。弥生は続ける。

「その青年が何の事件を起こした人か、言うのはあれなのでぼかしますが。その青年は2012年に少年刑務所を22歳で出所した後、仕事を転々としていたらしくて」

 私はその青年が同い年だと気付いた上に何かを感じ取った。

「その青年は今、どうしているんですか?」
「あの、その青年は今、殺人罪が確定し、死刑判決にいたりました」

 私はうっすらと寒気を感じた。弥生は私の様子を心配する。

「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「その青年は、自分の犯行だということは自供しているのです。しかし、詳細を一切、黙秘しています。私は、青年が殺害したと思えないのです」

 その青年が楠田なのだろうか。楠田の前科は、刑を確定するのは十分な要素だろう。
 少年犯罪で更正しなかった人として、処理された可能性も有り得る。
 私はその青年が楠田だと確定していないにも関わらず、想像してしまった。

琥珀の慟哭2 了
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