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琥珀の慟哭
琥珀の慟哭1
しおりを挟む「南田弘一。面会だ」
南田弘一は看守に連れられ、独房を出た。看守の後ろ姿を見て、南田はため息をつく。
ため息を聞いた看守は振り向き、南田を見て言う。
「少年法というのは、意味を成さないものだな。お前みたいに少年時代に殺人事件を起こした奴が本出したりして、被害者や被害者家族を冒涜したりしているし」
「………」
「お前は人間のクズだ」
看守は南田の頭を叩いた。南田は鼻で笑い、看守の上着を触る。
南田は笑い出した。
「っはははは。面白いよ。アンタ、自分の奥さんが浮気してるからって当るなよ」
「っ。どうして、それをっ」
看守は顔を歪ませ、南田の胸倉を掴んだ。南田は看守の顔をじっと見つめる。
その目は軽蔑に満ちていた。
「なんだ。その目は」
「っはははははは。お前も俺も一緒だな。あはははははは」
看守は南田を突き飛ばす。尻餅をついた南田は自分の不遇を思いつつも、それを受け入れるしかなかった。
他の看守がやってくる。
「なんだ。どうした?」
「何でもありません」
突き飛ばしてきた看守が言う。
「立て。面会室に行け」
南田は立ち上がり、面会室に入った。向かいには、男性が座っていた。
南田は男性の顔を見ると、 神妙な表情になった。
男性は南田に気付くと、「久しぶりだな」と言った。
南田は面会室でガラス越しに男性の前に座った。
男性が再び、口を開く。
「元気にしていたか?」
「……もう。来なくていいですよ」
「何言っているんだ。私はお前の弁護士だ」
「今日は何しに来たんですか?」
南田は男性の目を見ずに言った。男性は南田の顔を覗き込む。
「なぁ。本当にこれでいいのか?お前は最高裁で、死刑になった。上告しないのか?保護観察官の藤山さんだって」
「…もう。もう、終わった話ですよ!それに、俺は」
南田は言葉を詰まらせた。男性が言う。
「本当にお前が殺ったのか?」
「……俺がやりましたよ。言ったじゃないですか?」
「……俺は納得していない。お前は以前、俺に話したよな?あのことだ」
「だから何だって言うんですか?それで!」
南田は大声を出しながら、立ち上がる。看守がそれを止める。
「おい。落ち着け」
「俺は落ち着いています。面会を終わりにしてください」
「解った。これにて面会を終わりにします」
看守は南田を連れて行く。男性はそれをただ見つめるだけだった。
***************
11月の誕生石に【琥珀】がある。琥珀は何千年にもわたって木の樹液が固まってできた宝石だ。
琥珀は黄金の輝きを放ち、太陽のエネルギーを感じさせる。比較的高価な宝石で、特に虫などが入り込んでいるものは値段が高い。
宝石言葉は、四つある。『抱擁』と『長寿』、『財運』、『帝王』。
特に私は、一つ目の『抱擁』という言葉が気に入っている。
琥珀は古代から薬として用いられるほど、強いヒーリング作用を持っている。日々のストレスや緊張から解消し、気の巡りを良くする作用がある。
ネガティブな思考や、鬱々とした負のエネルギーを体の内側から綺麗に浄化し、心を穏やかな状態に包み込んでくれるそうだ。
四つの宝石言葉を持つ限り、【琥珀】には特別な力があるように思える。
私は【琥珀】のネックレスを丁寧にガラスケースに並ばせた。
2018年の11月もうもう少しで終わる。
私は【物に触れると過去が見える】。
この能力によって、様々な過去を見てきた。
先日、川本宝飾店のA店舗の支店、春木幸作から【過去を見てほしいという客】の連絡を貰った。
依頼者は何故、過去を見て欲しいのだろうか。
当たり前だが、見えるだけで私は何もできない。
だけれど、過去を見ることで助かる人がいるならば出来る限りのことはしたいと思った。
過去を見てほしいお客さんは今日、来るはずだ。
色々な意味で緊張が起きた。
予め、お客さんに思ったように見えるかは解らないことも伝えておいた。
果たして、お客さんが知りたいと思った過去を知ることができるかも怪しいものだ。
ふとした瞬間に【物に触れると過去が見える】能力はどこから来たのだろうと思う。
このサイコキネシス的な能力がいつまで続くのか、果たして終わるときがあるのか。それすらも解らない。
ただ、年齢を重ねる度に、この能力が存在感を増している。
コントロールができるようになったのも、経年を重ねた結果なのだろう。
同じ能力を持った人を過去に一度だけ、遭遇した。楠田弘輝(*アメジストの涙参照)だ。
楠田は私と同じ能力を持っているがゆえに、悲惨な運命を辿った。
楠田が梨々香の母親を殺したことは許されない。
けれど、楠田自身は誰も信用できない。誰からも愛されたこともない。
それはあまりにも哀れなことだ。
一つ間違えれば、私自身もそんな人になっている可能性だって有り得る。
楠田の消息は知らないが、ただひたすらに今が幸せであってほしいと思った。
時計が午前10時を知らせる音が鳴った。
私は過去を見てほしいお客さんを出迎える準備を始める。
川本宝飾店の営業中の看板を、準備中に変えるため、玄関へ出た。
看板を変え終わると、再び、中に入ろうとした際、お客さんがやってきた。
「あの。ここが川本宝飾店で大丈夫でしょうか?」
「はい。そうですけど」
私はお客さんの声に反応し、答えた。
琥珀の慟哭1 了
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