プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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アメジストの涙

アメジストの涙17

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 私は笹山から渡されたハンカチで涙を拭う。

「ありがとう」

 笹山に向かって言った。
 笹山は少し照れているのか。笑う。

「川本さんは笑っていたほうがいいよ」
「え?そうかな」
「うん。なんか何時も冷めているから。原因が解って良かったよ。何か変なものでも見たせいでなったんだろうけど」
 
  私は頷く。笹山は私の手を取る。

「私は川本さんの友達になりたいと思うよ」
「ありがとう」

 笹山の心からの言葉に私は胸がいっぱいになった。
 笹山と私は握手をした。笹山の手は暖かかった。

 私と笹山は一緒に家に帰った。あの後、三島は警察に行ったのだろうか。
 楠田が無事に捕まっていることを願った。

 私は嫌な予感がした。

 藤駅で笹山と別れた。私は駅から自宅まで歩く。
 時刻は19:34。家々の明かりが着き、道自体は暗いものの、見えない程度ではない。
 私は家の近くの電信柱に触れてしまった。

 触れた瞬間、思い出が見えてきた。
 誰かの息づかい。追われているのか。
 楠田か。楠田の逃げている場面だ。どうやら、楠田の元に警察が来たらしい。
 警察を振り切り、逃げている。

 楠田は自分が犯人だと、何故バレたのか探っている。
 楠田が独り言を言っている。

「くそっ」

 もしかしたら、楠田は私だと勘づいた。どこで解ったのだろうか。
 楠田は考えている。楠田は私たちのクラスメイトに聞いて回った後のようだ。
 
「川本の家は何処だ」

  やはり、楠田は私を探している。
  これは今の時刻から一時間前のようだ。楠田は吹越の家のインターフォンを押す。

  吹越は私と同じクラスの吹越ふきこし理世りよの家だ。

【吹越ですが?なにか】

 インターフォンに出たのは、吹越理世だった。

「あ、俺、隣のクラスの楠田っす。川本リカコさんの家解ります?」

  楠田は持ち前の人の良さそうな雰囲気を出しながら言った。
 私はこの楠田の恐さを改めて実感した。
  使い分けが上手い。だから、誰も楠田が犯人だとは気づかない。

【あ、楠田くんか。川本さん?川本さんならここの右だよ。なんで?】
「いやぁ、実は江波のことで相談がさ」
【へぇ。そうなんだ。江波さん大変だよね。お父さんが】
「そうそう。親父さんがね」
 
 私は白々しく言う楠田に嫌悪感が湧く。

【本当、酷いよね。江波さんの力になってあげてね】
「おう。じゃあな」

  会話を終えると、楠田は物凄い剣幕で私の家を目指した。私は寒気がする。
 まさか楠田は自分の家族を襲うのではないかと心配になる。
  楠田は私の家の前に着くと、インターフォンを押す。


「すいません。俺、隣のクラスの楠田って言います。リカコさん居ます?」
【はーい。川本ですが。リカコなら江波さんのお見舞いからまだ帰ってませんよ】

  出たのは母親の由希子だった。
  母親は全く警戒していない。当たり前だが知らないからだ。

「そうですか、何時もどります?」
【そうねぇ。一時間後くらいじゃないかな?家で待つ?】

 私はぞっとした。殺人鬼を家に?止めてくれ。

「ああ。いいです。また来ます」
【そう?ごめんなさいね。いつも、リカコと仲良くしてくれてありがとう】
「いや、いいっすよ。俺こそ世話になったので」

  とりあえず、家には入っていない。私は安心した。
  楠田は憎しみを込めた表情を浮かべている。
 逆恨みもはなはだしい。楠田は確実に私をるつもりなのだろう。
 楠田は自分のポケットから何かを触っている。そこに見えたのは、携帯用ナイフだ。
 それで私を一撃するつもりだろう。

 きっと楠田は、人を一人殺すも二人殺すも「自分は死刑にならない」と確信している。
 私はそれが解ると嫌な気分になった。

アメジストの涙17 了
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