プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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アメジストの涙

アメジストの涙13

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 朝は冷静に辺りを見れなかったが、今、校舎を見ると、夕方の時間でも学校関係者でないような人が校舎の前に数人いた。

 私は校舎の窓から覗く。
 恐らく、全校生徒に「取材を受けないように」と注意喚起がされているものの、それを破る人がいる。取材を受けている生徒がいた。
 私はため息を着く。自分も声を掛けられても逃げ切る方法を考えた。

 校舎を出るときに、全力疾走してた。
 声を掛けてきていたのは解ったが、走る速さについていけず、諦めたようだ。私は安心する。

 無事に家に帰ると、母親の由希子が私を心配した。

「大丈夫だった?」
「うん。なんとか」
「そう。本当気の毒だったね」
 
 私は母親の言葉に無言で頷いた。

「あの。江波さんの入院している病院に行くことにしたから」
「大丈夫なの?」
「うん。場所解ったし」
「そう。じゃあ、気をつけてね。何か遭ったらすぐに連絡しないさいね」
「わかった」

 私は急いで二階の自分の部屋に向かうと、制服から私服に着替えた。髪を整え、頭には帽子を被る。口にはマスクをした。
「行ってきます」と声を掛け、家を出た。

 市内で起こった江波家の事件は、少しばかり騒ぎにはなっていた。
 ざわついている空気を感じる。
 私は何かに触って余計なものを見たくない。
 神経を尖らせ、藤駅に向かった。
 途中にある花屋で、私はお見舞いの花束を急いで購入した。藤駅には既に笹山がいた。
 笹山は私を見つけると嬉しそうに近寄ってくる。

「川本さん。予定より早く着いてさ。行こう!」
「うん。行こう」

  笹山は私の手を握った。私は突然のことで、少し驚く。
  笹山はそんなことはお構いなしに、手を引っ張った。券売機の前に行くと、笹山が言う。

「ここの藤駅から、野海駅まで220円だね。私が出すよ。川本さんはいいよ」
「え。そんなの困るよ。自分の分は自分で出すよ」

  私は拒否した。笹山は譲らなかった。

「いいの。いいの。私の友達を助けてくれるから」
  
 笹山は発券機で二人分の乗車券を購入した。その内の一枚を私に渡してくる。

「あ。ありがとう」

  私は受け取った。

「どういたしまして」と笹山は言いながら笑った。

 電車は待ち時間も無く、すぐにやってきた。私と笹山は一緒に座る。笹山は嬉しそうだった。

「ねぇ。川本さんは、何人家族なの?」
「私と両親の三人家族だよ」
  
  私は電車内の椅子になるべく手を触れないように座った。笹山はそれを見つめた。

「へぇ。そうなんだ。私はね、四人家族だよ。私と両親と、弟。弟が生意気でさ」
「知らなかった」

  私は先日見た笹山の思い出から、家族構成を知っていた。
  けれど、初めて知ったふりをした。

「ねぇ。川本さんは潔癖症けっぺきしょうなの?」
「潔癖?うーん。どうして?」
「ほら、だって極力、物に触れないようにしているよね?」
「ああ、そっか。うーん。そうかもしれないね」

  私は本当のことを言うわけにもいかず、潔癖症だということにした。

「そっか。色々大変なんだね」
「うん。ま、気になるって言えば気なるかな」

  私は笑顔で言った。私と笹山は、野海駅に着くまでの間、他愛のない会話をして過ごした。
  笹山は、本当に良く笑う元気な人だった。江波のことを本当に心配していた。
  私は江波の回復を心から願う。
  更に、これから見る江波に起こった出来事を冷静に受け入れなくてはいけない。
そう思うと、少し震えた。

  野海駅に行くと、笹島ささしま病院びょういんに向かう。笹島病院は街の中に存在した。
  築30年くらいの建物で、来年には立て直しの計画が入っているらしい。
  玄関にはその旨を伝える文面が書かれた看板があった。

  笹島病院の前には、どこからか聞きつけたマスコミが数人いた。
  その内の一人が私と笹山に気付く。

「ねぇ。君たちは、江波えなみ梨々香りりかさんの同級生かな?」

  私と笹山は顔を合わせる。笹山が言う。

「あなたには関係ないですよね?」

笹山は睨む。笹山の凄みに、マスコミの人はひるんだ。

「すいません」
「では、急いでいるので」

  笹山は強い口調で言うと、私の手を引っ張った。
そのまま、一目散に笹島病院の受付に向かった。

受付に向かっている最中、笹山が言う。

「マスコミってどうやってぎつけているのだろう」
「多分、もらす人がいるからじゃないかな」
「そうだよね。お金に目がくらんで」

  笹山は嫌悪感を示す。私も笹山の言葉に共感した。
私と笹山は笹島病院の受付に着く。


江波えなみ梨々香りりかさんの入院している病室を教えてください」

  私は病院の窓口で言った。受付の看護師が申し訳なさそうに言う。

「申し訳ございません。只今集中治療室です。そして、ご遺族の許可がないと」
「そうですか」

笹山は残念そうな顔をした。私と笹山は成す術が無かった。
看護師の女性が言う。

「案内することは出来ませんが、もし、江波さんに何か渡したいものがあったら預かります」
「そうですか。じゃあ、この手紙を渡していただけますか?」
  
  笹山は手紙を看護師に渡す。私はここに来る前に買った花束を渡した。
  私たちが受付で看護師とやり取りしていると、年配の男性がやってきた。


「すいません。あの、売店はどこにありますか?」
「あ。三島さん。売店は二階の奥になります」

看護師が案内した。私は【三島】と聞き、江波の祖父の名前が【三島】だったことを思い出す。確か三島みしま重雄しげお。私はその年配の男性に話しかける。

「あの。初めまして、三島重雄さんですか?」
「え?そうだけど。何かな?」
やはり、江波の祖父の三島重雄だった。三島は優しそうなおじいさんだった。
よく見ると、少し江波にも似ている気がした。

アメジストの涙13 了
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