プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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アメジストの涙

アメジストの涙11

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 学校のチャイムが鳴り、生徒たちは各々に自身の席に着いた。
  教室に担任の水山が入ってくる。水山の表情は強張っていた。

「皆、おはよう。もう知っていると思うけど、江波さんが入院中だ。回復を祈るばかりだが。お見舞いに関してはご家族に迷惑が掛かる。行かないように」

  生徒たちは水山の言葉に、ざわつく。女子生徒が言う。

「先生、私たちは、江波さんのために出来ることないですか?」
「うーん。回復を祈ることしかできない。それだけだ。あと、マスコミ等々が学校にも来ている。金銭を渡してきて取材が来るだろう。決して受けないように」

  水山はマスコミの注意喚起をしてきた。
 そういえば、ここに来る前、「江波がどんな生徒」かを聞いている人がいた。恐らく、それらのことだろう。

「じゃあ。折鶴作るのはどうですか?一人、一匹です」
  同じ女子生徒が言った。他の生徒が言う。 

「えー。それって意味なくない?気休めじゃん」
「そんなことないよ」
「おーい。静かに。とにかく、今は静かにしておくこと。もし、江波に何か渡したいものがあったら先生のとこまで持ってくるように」

  水山は騒ぐ生徒をなだめた。
 ホームルームが終わり、一日の授業が始まった。

  クラス内は特に問題もなく過ごしていた。
 しかし、休憩時間中、他のクラスの生徒が江波のことを探ってきていた。
  野次馬に対して、応対する人までいた。
  事件に巻き込まれると、人権が無くなる。
  このことをまじまじと感じた。
  被害者の情報がクローズされすぎる。
  私はテレビの報道は見ていないが、その様子だと刺された江波と母親のことが洗いざらいされているだろうと予測ができた。
  休憩時間中、笹山は私の元に来た。

「やっぱ嫌な感じする。さらし者にされているみたい」
「そうだね」
 
  私はクラスメイトが、他のクラスの生徒に江波のことを話している様子を見る。

「……梨々香、本当に大丈夫かな」
「祈るしかないよ」
  
  私は笹山の目を見て言った。笹山は涙目だった。

 こうして、一日の授業が終わり、私と笹山は職員室に向かう。
 水山は自分の机で、何やら資料を作成していた。

「先生。すいません」私は水山に声を掛けた。
「おう。どうした。川本と笹山」

水山は私が笹山と一緒にいるのを珍しがった。

「あの、梨々香の入院先、教えてください」

 笹山は緊張しながら言った。水山は苦い表情を浮かべる。

「ごめんな、それは教えられない。笹山がいくら、江波の友達だったとしてもだ」
「どうしてですか?」
 
 笹山は引き下がらない。

「どうしてもだ。解るだろう?マスコミ等々が学校に集まっている。入院先がわかってしまえば、更に集まってくるだろう。そこに生徒を向かわせるわけにはいかない」
  
 笹山は水山の言い分がわかり、唇をかみ締めた。

「どうしてもですか?」

 笹山は再び言った。

「私からもお願いします」

  私は頭を下げた。水山は驚いてる。
 私が普段から、人と関わらない上に一生懸命になっているからだろう。

「おいおい。頭上げてくれ。お願いだ。先生も気持ち解る。だから、江波に伝えたいことや渡したいものがあったら俺に託してくれ」

  水山は譲らなかった。私は最終手段に出る。

 今こそが【物に触れると過去が見える】能力の使い時だと思った。私は、水山を見る。

「どうした?」
 
 水山は聞く。

「なんでもないです」と答えると、おもむろに水山の机のペンたてを触った。

触った瞬間にゆっくりと見えてくる。
水山が朝、出勤し、この机で作業をしているところだ。

学年主任が水山の机に近づいてくる。

「水山先生、江波さんが大変なことになりましたね」
「ええ。本当に。数日前に虐待が発覚し、お母さんと供に実家から通っていたので。大丈夫かと思っていたのでしたが」

  水山は責任を感じているようだった。学年主任が言う。

「家族の問題ですから。教師がどこまで出来るかも難しいですよね」
「そうですね。とかく言う私もあまり父とは。すいません」

  水山は自分の父親との折り合いが合わないことも、江波に対する同情心が増していたようだ。

「入院先の連絡が入ったんですが、水山先生はお聞きになられました?」
「入院先はまだ教えてもらっていないです」
「解りました。では、お教えしますので、メモいいですか?」

「解りました」

 水山はメモ帳を取り出し、ペン立てからペンを取り出す。

「C区5丁目3-11 笹島ささしま病院 」
学年主任が言った。
「C区5丁目3-11 笹島病院と」
「あ。あと、マスコミに知られないようにしてくださいね」
「解りました」

  水山はそのメモをカバンに仕舞った。学年主任が水山の肩を軽く叩く。

「請け負って早々に、こんなことになって水山先生も大変でしょう。何か困ったことがあったら私含め、ベテラン方を頼ってください」
「すいません。ありがとうございます」

 水山は頭を下げた。

そこで思い出は見えなくなった。私は江波の入院している病院の住所を暗記した。
【C区5丁目3-11 笹島病院】。

アメジストの涙11 了
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