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アメジストの涙
アメジストの涙7
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私は寝不足のまま、次の日を向かえた。
学校に行くと、クラスの様子が可笑しかった。 教室に入った途端、違和感を覚えた。
ひそひそと話し声が聞こえてくる。
「江波さんって虐待されているの?」
「うそ。マジで?」
「可哀相だね」
「でも。優等生すぎて苦手だったから、ちょっと、ざまって感じ」
「うわぁ。最低」
「何、言ってんの?江波さんがクラス仕切っているの気に入らんとか言っていたじゃん!」
どうやら、私たちが江波の虐待を通告したことは広まっていたらしい。
漏れたのは、江波の家の近所の生徒からだろう。 誰かが情報を漏らしたのだろうと予想が着く。
私は教室のドアに触れる。ゆっくりと、思い出は見えてきた。
見たくはないが、私には責任がある。
江波の家庭事情を見て、その虐待を通告したからだ。
だから、確認しなくてはいけない。
ゆっくりと映画館のスクリーンのように映し出されたのは、
隣のクラスの男子がうちのクラスにやってきている場面だ。
その男子は江波の虐待を言い触らしている。
「ビッグニュース!お前たちのクラスメイトの江波梨々香は虐待されてるらしいぞ!昨日、児童相談員が来た!」
「おい、マジかそれ!うわぁ」
それを聞いた男子たちは面白がる。
「だから、休んでいたのか。そういえば、たまに腕とか傷あったよな」
「マジで!それ、やっば」
私は嫌な気分になってきた。私は咄嗟に笹山の姿を探す。笹山の姿も見えた。
笹山はあまりにも酷い情報に、言葉を失っているようだ。
笹山はどうしたらいいのか解らず、黙り込んでいる。
笹山に女子生徒が話しかけてくる。
「笹山さんは知っていた?」
笹山は首を横に振る。笹山は言う。
「虐待って本当なの?」
「だって、さっきの楠田くんって江波さん家の近所だよ。だから、本当じゃない?」
女子生徒はなんでもないように言った。
「そうなんだ」
笹山は同時に自分に相談してくれなかったことがショックだったようだ。
女子生徒は面白そうにしている。
普段から【江波】を慕っていたクラスの女子生徒までもが、この状況を面白がっているように見えて、私は嫌な気分になった。
私は教室のドアから手を離す。
思い出は見えなくなった。
私は普段から、あまり物に触れないようにしていた。
学校の物は特に触れないようにしている。
触れないようにするのが難しいが、見えても嫌な思いをすることが多い。
誰かの悪口だったり、誰かの嫌な面を絶対に見ることになるからだ。
私はため息をつく。
笹山が私に近づき、話しかけてくる。その様子は落ち着きがなく、救いを求めているように見えた。
「ねぇ、昨日、梨々香の家に行ったよね?」
「うん。行ったよ」
「そう。あのさ、虐待って本当?」
「……本当だよ」
笹山は目から涙を流す。にわかに信じられないようだ。
「そう……。どうして、それは解ったの?」
「……どうしてって」
私は自分が【物に触れると過去が見える】能力を話すべきか迷う。
話してどうなるのだろうか。話さないことにする。
「あの。この前、江波さんの腕に痣があって。それで。昨日は江波さんに会わせてほしいって言ったら断られて。会わせられない事情があるのかなって」
「……そうなの。確かに梨々香は腕とか傷があったりした。虐待だったなんて」
笹山は涙を流し、嗚咽した。 私は笹山の肩を優しく触れた。
思い出は容赦なく、再び見えてくる。
物に触れると見えるはずと思ったが、どうやら、笹山の服に触れたことで見えてきているようだ。
服は物だからか。 つくづく、私は自分の能力に嫌気が差す。
ゆっくりと見えてきたのは、笹山が江波を心配して手紙を書いている場面だった。
何をどういう風に書いたらいいか解らず、何度も書き直している。
書いてくしゃくしゃにし、ゴミ箱へ。 執筆中の小説家のように迷っていた。
笹山は本当に、江波のことを大事にしていることが解った。
私はその思いを守りたいと思った。
思い出はそこで見えなくなった。
アメジストの涙7 了
学校に行くと、クラスの様子が可笑しかった。 教室に入った途端、違和感を覚えた。
ひそひそと話し声が聞こえてくる。
「江波さんって虐待されているの?」
「うそ。マジで?」
「可哀相だね」
「でも。優等生すぎて苦手だったから、ちょっと、ざまって感じ」
「うわぁ。最低」
「何、言ってんの?江波さんがクラス仕切っているの気に入らんとか言っていたじゃん!」
どうやら、私たちが江波の虐待を通告したことは広まっていたらしい。
漏れたのは、江波の家の近所の生徒からだろう。 誰かが情報を漏らしたのだろうと予想が着く。
私は教室のドアに触れる。ゆっくりと、思い出は見えてきた。
見たくはないが、私には責任がある。
江波の家庭事情を見て、その虐待を通告したからだ。
だから、確認しなくてはいけない。
ゆっくりと映画館のスクリーンのように映し出されたのは、
隣のクラスの男子がうちのクラスにやってきている場面だ。
その男子は江波の虐待を言い触らしている。
「ビッグニュース!お前たちのクラスメイトの江波梨々香は虐待されてるらしいぞ!昨日、児童相談員が来た!」
「おい、マジかそれ!うわぁ」
それを聞いた男子たちは面白がる。
「だから、休んでいたのか。そういえば、たまに腕とか傷あったよな」
「マジで!それ、やっば」
私は嫌な気分になってきた。私は咄嗟に笹山の姿を探す。笹山の姿も見えた。
笹山はあまりにも酷い情報に、言葉を失っているようだ。
笹山はどうしたらいいのか解らず、黙り込んでいる。
笹山に女子生徒が話しかけてくる。
「笹山さんは知っていた?」
笹山は首を横に振る。笹山は言う。
「虐待って本当なの?」
「だって、さっきの楠田くんって江波さん家の近所だよ。だから、本当じゃない?」
女子生徒はなんでもないように言った。
「そうなんだ」
笹山は同時に自分に相談してくれなかったことがショックだったようだ。
女子生徒は面白そうにしている。
普段から【江波】を慕っていたクラスの女子生徒までもが、この状況を面白がっているように見えて、私は嫌な気分になった。
私は教室のドアから手を離す。
思い出は見えなくなった。
私は普段から、あまり物に触れないようにしていた。
学校の物は特に触れないようにしている。
触れないようにするのが難しいが、見えても嫌な思いをすることが多い。
誰かの悪口だったり、誰かの嫌な面を絶対に見ることになるからだ。
私はため息をつく。
笹山が私に近づき、話しかけてくる。その様子は落ち着きがなく、救いを求めているように見えた。
「ねぇ、昨日、梨々香の家に行ったよね?」
「うん。行ったよ」
「そう。あのさ、虐待って本当?」
「……本当だよ」
笹山は目から涙を流す。にわかに信じられないようだ。
「そう……。どうして、それは解ったの?」
「……どうしてって」
私は自分が【物に触れると過去が見える】能力を話すべきか迷う。
話してどうなるのだろうか。話さないことにする。
「あの。この前、江波さんの腕に痣があって。それで。昨日は江波さんに会わせてほしいって言ったら断られて。会わせられない事情があるのかなって」
「……そうなの。確かに梨々香は腕とか傷があったりした。虐待だったなんて」
笹山は涙を流し、嗚咽した。 私は笹山の肩を優しく触れた。
思い出は容赦なく、再び見えてくる。
物に触れると見えるはずと思ったが、どうやら、笹山の服に触れたことで見えてきているようだ。
服は物だからか。 つくづく、私は自分の能力に嫌気が差す。
ゆっくりと見えてきたのは、笹山が江波を心配して手紙を書いている場面だった。
何をどういう風に書いたらいいか解らず、何度も書き直している。
書いてくしゃくしゃにし、ゴミ箱へ。 執筆中の小説家のように迷っていた。
笹山は本当に、江波のことを大事にしていることが解った。
私はその思いを守りたいと思った。
思い出はそこで見えなくなった。
アメジストの涙7 了
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