プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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アメジストの涙

アメジストの涙4

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 江波えなみの無事を願っても虚しい。江波の父親が、手を出さない補償がないからだ。
  あの一瞬だけ見えた江波の父親は鬼のようだ。
  明日は、アメジストのレプリカのネックレスを渡すついでに話してみよう。
  私は心の中で誓った。

  私は自分の部屋に戻り、江波から貰った包み箱を意を決して触る。
  何も見えなかった。少し安心する。
  一度見えたら、二度は見えないのだろうか。

 法則があるのかも解らない。もう一度見たいと思ったら、もしかしたら、見えるのかもしれない。
  包み箱を開けると、入っていたのはビーズで出来たバッチだった。

 丁寧に作られており、黄色のビーズで綺麗に向日葵ひまわりが作られていた。
  繊細で壊れそうな造りは江波自身の心情が表れているようにも思えてくる。
  私はそれをカバンに付けた。
  母親から貰ったアメジストのレプリカのネックレスが入った包み箱をカバンに入れた。

  次の日、私はいつも通り学校に行く。江波はお休みだった。
  江波は体調を崩しているらしい。
  私は本当に調子が悪くて休んでいるのだろうかと心配になった。
   放課後、私は江波と仲の良い生徒のささやまいくに意を決して話し掛ける。

「ねぇ。あのさ、突然なのだけど、江波さんのご住所って解る?」

 
 私に突然、話掛けられた笹山は驚く。私をじっと見つめる。

梨々香りりかの?川本さんって梨々香りりかと仲良かったっけ?」

  笹山は私を不思議そうに見る。

「いや、その。渡さないといけないものがあって」
「そうなの。ああ、じゃあ、梨々香にこれ返しておいて」

  笹山は江波のノートを渡してきた。

「今日の分のも書いておいたし、あと別紙に今日の分のノート書いたからコレも」
「うん。解った」
「で、住所だけど……」

  私は江波のノートと、笹山の書いたメモを触った途端にまた見えてきたのだ。
  つくづく、この能力がこの時はいまいましく感じた。
  
  映し出されたのは、笹山の家での出来事が映し出された。
  笹山の家族は父親、母親、弟がいるらしい。
  笹山は部屋で勉強している。そこに母親がやってきた。

「勉強頑張っているわね。これお茶ね」
「うん。ありがとう」

  母親はお茶を笹山の机に置く。笹山は素っ気ない応対だ。

「これ、友達の江波さんのノート?」
「うん。そうだよ。凄いよね」
「本当、凄いわね。解りやすいし、見やすいわ」

  母親は江波のノートをめる。笹山はそれを少し悔しそうに見えていた。

「……私には……出来ない」
「うーん。家の家系だと無理かもねぇ」

  母親は笹山の心折るかのように言った。笹山は唇をゆがませた。
  母親はその様子に気づいていない。こうやって親が子供の可能性を潰している。
  笹山の心情が流れてくる。
  ふつふつと芽生えてくるさいしんが苦しくなってきた。

「ごめん。お母さん、ちょっと集中したいから」
「あ。ごめんね。でも、頑張ってね。母さん応援しているから」

  母親は笹山の部屋から出て行く。
  母親が戸を閉めた後、笹山は大きなため息をつく。
  笹山は小さく「うるさいなぁ」とつぶやいた。

 
 笹山は江波とツーショットの写真を引き出しから取り出す。
  すると、写真をハサミで切り始めた。

「アンタと仲良くしているのは、自分が先公から目をつけられないためだよ」
とぶつぶつとつぶやいている。

  私が見たくなかったのはこれだ。

  表向きは仲良しのふり、裏側では仲良くない。
  けれど、笹山の場合、少しだけ可哀相にも思えた。
 笹山はハサミで写真を切った後、泣き始めた。
  自分のやっていることに罪悪感を感じたのだろう。 

  きっと笹山にとって江波は憧れの存在で、大事な友達なのだろう。
  それと同時にさいしんを抱いてしまう相手なのだろう。
  胸が苦しくなった。けれど、これは誰しも持っている感情にも思えた。

  思い出はそこで見えなくなった。

アメジストの涙4 了
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