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トパーズの憂鬱
トパーズの憂鬱25
しおりを挟む美砂子は悲しい表情を浮かべた。文芽は深刻な表情を浮かべていた。
「どうして。そんなこと言うの?」
「いや、なんとなく」
どうやら、美砂子はこれまでの経緯を文芽に話したようだ。
「和義は私のために」
「ごめん。嫌がらせは無くなったんだよね?」
「うん」
美砂子は首を縦に振る。文芽は考え込んでいた。
「城内さんを問い詰めた後に、嫌がらせがなくなっている。これがどうにも可笑しくない?」
「和義が怪しいってこと?」
美砂子は文芽を見つめる。
「城内さんは嘘ついているように思えなかったんでしょう?」
「そうだけど」
美砂子は城内の様子を思い出しているようだ。
「盗聴器を仕掛けたのが、城内さんじゃないなら、私か幹正くんが怪しいことになるよね。けれど、私も幹正くんもやっていないし」
美砂子は文芽の言葉を真剣に聞く。文芽は美砂子を思って言っているのだろう。
美砂子はそれが解っているからこそ、文芽を責めることができない。
美砂子は混乱し始める。
「じゃあ、もし、和義が本当にやったとしたら?理由は?それをする理由ってある?」
美砂子は涙目になっていた。自分のパートナーが盗聴していたなんて恐ろしいだろう。
もし、本当に和義がやったとしたら、背筋が凍る。和義の目的は何だろう?
「あくまで予測だからあれだけど。由利亜ちゃんは美砂子と和義くんの子供じゃないじゃないだから、その」
「和義が由利亜を煩わしく思ってるってこと?」
「……解らないけど、独占欲というか。美砂子が由利亜ちゃんに付きっ切りだし」
文芽はそんなことを言いたくなかっただろ。
美砂子は益々、顔を青ざめた。和義が自作自演で嫌がらせをやっていたかもしれない可能性。
私は思い出の途中で手を離した。
私は額に汗をかいていた。ひとまず、休憩しよう。
私は台所に行き、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、それを飲む。
和義が美砂子に嫌がらせをしたかもしれない。
後ろから押してきた女性は一体、誰だ。
私は和義の自作自演の可能性を、全面的に否定できない気がしてきた。
どうして、美砂子にこんな試練が起こるのだろう。
二股をかけられ、掴んだと思った幸せはまがい物だったかもしれない。
辛い過去を見るには覚悟がいる。私は深い深呼吸をした。
洗面所に行き、手を洗う。時刻を確認すると、時刻は午後5時40分だった。
秋の日は短い。すっかり部屋の中が暗がりになっている。
私は、部屋の電気をつけた。自然と食欲や眠気は無い。
私は再び、白い手袋をして、ネックレスに触る。
ゆっくりと見えてきた思い出は、美砂子と和義が居間で話している場面だった。
文芽と美砂子が話していた時から、どのくらい経過しているのだろうか。
美砂子が和義を見る。和義が真剣な表情で話し始めた。
「美砂子。あの、聞いてくれ。犯人は戸松文芽さんだと思う」
「え?なんで?どうして?」
美砂子は目を見開いた。和義の言葉に驚きを隠せないようだった。
今度は和義が文芽を疑っている。
「いや、幹正が言うにはさ。だって、夏菜子じゃないし。それに幹正は違うし。それに由利亜の本当の父親の叶井遊作もありえないだろう。だから」
「ちょっとめちゃくちゃじゃない。証拠はあるの?」
「俺はまともなことを言ってる」
和義は冗談を言っているようにも見えなかった。
美砂子は和義を睨む。和義は美砂子を宥めようとし、美砂子の腕を取ろうとする。
美砂子はそれを掃う。
「ねぇ。幹正くんの言っていることは本当に正しいの?」
「ちょっと待て。俺の親友を疑うのか?」
「和義だって私の親友を疑っているじゃない?」
和義は黙る。美砂子は涙目になっていた。美砂子は少し震える。
和義は口を開いて言う。
「俺は、美砂子の親友の文芽さんを疑っている」
「……ひどい」
「盗撮や嫌がらせしているほうが酷くないか?」
和義は真剣に言っていた。美砂子は涙を流し、嗚咽し始める。
和義は美砂子の肩を抱こうとするも、美砂子はそれを払い、再び、睨んだ。
「一人にさせて」
「……俺は文芽さんが犯人だって証拠を見つける」
「勝手にすれば」
美砂子は和義を置いて、部屋を出て行った。
二人の関係に完全に亀裂が入っていく、嫌な音が聞こえる感じがした。
これが決定的な出来事なのだろうか。
美砂子はとぼとぼと、道路を歩く。行き交う人の雑音にも目をくれることはなく、下を向いている。
すれ違う人に肩がぶつかった。
「おい」
「………」
美砂子はぶつかった相手から声を掛けられた。美砂子は空を見えている。
ぶつかった男性は美砂子を見て、言う。
「お前、どうしてくれるんだよ?」
「………」
美砂子は目から涙を流していた。美砂子は男性の顔を見ることなく、無言だった。
「何とか言えよ。泣いて誤魔化すなよ」
男性は美砂子の肩を掴む。その瞬間、男性の手を誰かが掴んだ。
トパーズの憂鬱25 了
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