プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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トパーズの憂鬱

トパーズの憂鬱23

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 私は空腹を感じた。手袋を外し、冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、それをコップに注いだ。
 これほど長い思い出を見るのは疲れるものだ。あと、どのくらいあるのだろう。
 コップを流し台に置き、私は再び手袋をする。

 一息つき、再び、トパーズのネックレスを触る。

 ゆっくりと思い出は見えてくる。
 先ほどの盗聴器が見つかった後の続きのようだ。美砂子はベッドの上にいる。
 眠っているようでもなく、目は開き、天井を見つめている。
 寝室にいる美砂子はドアを見ていた。

 和義と文芽が話している声が聞こえてくる。
 電話の後、文芽は家に来たようだ。
 美砂子が寝室にいる為、和義が文芽の応対をしているらしい。和義が言う。

「え?さっき俺たちのポストを漁っている女性がいたの?」

 和義の声は大きい。美砂子はベッドから起き上がり、ドアに耳を向ける。

「和義くん。声大きい」
「ごめん」

 和義は文芽に注意され、謝罪した。美砂子は息を飲む。文芽が言う。

「本当に居たんだよ。で、私、声を掛けたよ。そしたら走って行った」
「それってどんな女性だったの?」
「帽子にサングラス、マスク、コートだった。全身真っ黒」

 文芽はポストを漁っていた女性の特徴をはっきりと言った。和義も美砂子も全く検討が着かない。

「そうか。あのさ、実は今日、家に盗聴器があるか作業員に調べてもらったんだ」
「そうなの。で、どうなったの?」

 文芽は心配そうに言った。

「盗聴器。見つかったんだ」
「……そうなの」

 文芽は何も言葉が出ないようだった。和義が言う。

「あ、でも、もう取り外したからね」
「犯人の検討は着いているの?」

 文芽が聞く。

「いや。全然」

 二人はしばらく沈黙した。美砂子はドアに耳を当てたまま、二人の会話を聞き続ける。

「身内を疑いたくない。けど、文芽さんのさっき言っていたことで、夏菜子かなこが犯人なんじゃないかって」
「夏菜子さんって城内きうちさんのこと?」
「ああ」

 ドア越しの和義の声色は落ち込んでいるように思えた。
 美砂子は不安な表情を浮かべる。私は城内が犯人のように思えなかった。

「じゃあ、和義くんは城内さんを問い詰めるの?」
「来週、夏菜子に会うよ」
「美砂子にそれは話したの?」

 美砂子は寝室のドアを開けた。和義は美砂子を見つめる。美砂子が言う。

「和義。本当に城内さんだと思うの?」
「……俺は幹正の言っていることを信じようと思う」

 美砂子は涙を浮かべる。一筋の涙が頬を伝う。文芽は美砂子を支えた。

「解った。私も一緒に行く」美砂子はたどたどしく言った。
「いや、行かないほうがいい。何か言われるかもしれないから」

 和義は反対した。美砂子は食い下がらなかった。

「それでもいい。これは私の問題でもあるからお願い。私も連れて行って!」

 美砂子は和義の腕を掴んだ。和義は美砂子を見る。

「解った。じゃあ、一緒に行こう」
「ありがとう」

 二人の様子を文芽は見守った。文芽が言う。

「何かあったら、言ってね。美砂子」
「うん。解った」
 文芽は「じゃあ。私はそろそろ、帰るね。邪魔したら悪いからね」と言い、二人のマンションを後にした。

 二人はしばらく手を繋いでいた。 
 これからどうなるのだろうか。繋がれた手が解かれ、片方は死ぬ。
 私は息を飲み、その行く末を見る覚悟をした。

 思い出はゆっくりと切り替わり、美砂子と和義がいよいよ、城内に会う日になった。
 由利亜は文芽に預けたようだった。
 二人は離れないようにしっかりと手を繋ぎ、城内夏菜子との待ち合わせの場所に向かう。

 私はよく城内が会うことを承諾してくれたなと思った。
 城内は和義のことが好きだったのに、美砂子と結婚している。

 待ち合わせの場所はフレンチカフェの【スゥープソォーン】。
【スゥープソォーン】の意味は、フランス語で『疑惑』。まさしく今の状態というように思えた。

 美砂子と和義はカフェの中に入る。
 店員が「いらっしゃいませ。お二人でしょうか?」と質問してきた。
 和義が答える。

「はい。後から、女性が一人来ます」
「解りました。ではご案内します」
 
 店員は和義と美砂子を席に案内した。二人は店員に促されて座る。休日の日曜日らしく、若い女性が多かった。和義と美砂子の表情は硬い。

 店員は席に案内すると、二人の座る席のテーブルにメニューと、水二つとおしぼり二つを置いた。

「では、お決まりのころにお伺いします」
「あ。あのホットコーヒーを二つ。すいません」

 和義は店員に注文した。店員は注文を受け取る。

「ホットコーヒーをお二つですね。かしこまりました」

 和義は店員が注文を受け取り、居なくなるのを確認すると、口火を切る。

「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」

 美砂子は少しだけ緊張している。それは和義も同様だった。
 特に美砂子にとっては、直接的に嫌がらせをしてきた犯人かもしれないからだ。
 約束の時間より30分早い。けれど、その時間が過ぎるは早かった。

トパーズの憂鬱23(了)
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