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アクアマリンのため息
アクアマリンのため息 6
しおりを挟む真学は真理子への思いをどうしたのだろうか。
最初から、真学は真理子への思いを断ち切ることは出来なかった。
私はやるせない思いを抱いた。
思い出はここで、見えなくなった。本当に終わった。
それから井川は留学を決めて、真学を完全に忘れようと思ったのだろうか。
私はアクアマリンの指輪から手を離す。
南海が私を見る。
「鑑定どうなります?」
「そうですね。結構使用した感じがあります。けれど、丁寧に扱っていたのではないかと思いました。ブランド品でもないので、時価は一万円弱くらいですか。買取になりますと、そうですね。2,000円くらいになります」
「そうなのですね」
私は丁寧に指輪を指輪箱に入れる。
上手くいかない恋のほうが多い。両思いの奇跡は簡単に起きない。だからこそ、色々な感情を知ることが出来るのかもしれない。
南海が言う。
「川本さんは、過去が見えるって本当なのですか?」
「ええ。そうですけど」
「やはり、そうなんですね。素晴らしい」
南海は私の手を取り、感激する。私は戸惑う。
「見えるだけで、何も出来ないですけどね」
「そうですか。で。来美はどんな男と付き合っていたんですか?」
南海は乗り出すように私に向かって言った。余程、気になっているのか興奮気味だ。
「どんなって。言っていいものかどうか」
「そうですよね。来美も隠したいですよね。けど、俺は来美を傷つけたやつが許せなくって」
「許せないですか。でも、井川さんとその彼氏さんの個人間の問題ですよ?」
南海にとって井川は大切な幼馴染だったのだろう。けれど、井川が真学と別れてしまったのは二人の問題だ。
「でも、こっ酷く振ったみたいな感じがするのです」
「どうして、そう思うのですか?」
「それは来美がこれを渡してくる前、凄く暗い顔で橋の上でぼんやりしていたんです」
やはり、井川にとって真学に振られたことは大きいことだったのだろう。
胸が苦しくなる。恐らく真学の恋も上手くはいっていない気がする。
真理子が真央と離婚するようにも思えないからだ。
真理子の性格を知らないが、真学からの告白を受け入れているようにも見えなかった。
「そうでしたか。でも、相手がどんな人だったか、私からは教えられません」
「解りました。じゃあ、せめて、どうして来美は振られたのですか?」
「振られた。井川さんは相手に好きな人がいるのを承知で付き合ったらしいのです。その相手も叶わない恋をしていたようで」
南海は私の話を真剣に聞いている。
「叶わない恋?」
「叶わない恋です。自分の兄の奥さんに恋をしてしまったようで。井川さんの元彼は自身の兄の奥さんを海で助けたことがあって。それを奥さんは兄が助けた思ったことがあったり。それを言えずにずっと思っていたようで」
「そんなことが……っうっ」
南海は涙を流し始めた。涙もろいようだ。
どんな人にも思い出はある。良い思い出も、悪い思い出も。ただこの恋が、井川にとって良いものであったと思いたい。
「恐らくですが、元彼さんが【アクアマリン】を選んだのも井川さんの誕生石であったこともありますが、「アクアマリンが海に投げ入れると瞬時に溶け込んでしまう」といわれています。これは、井川さんが好きな【人魚姫】が泡になって消えてしまうことに架けていたのもあるのでしょう」
「そうですね。来美はアンデルセンの童話の【人魚姫】が好きでした……」
「二人とも結局は、叶わない恋を人魚姫のようにしていたのでしょう」
「……ぅううう。切ないです。俺はそういう恋をしたことないので、うらやましいです」
南海はかなり感激と悲しみで、涙をポロポロと流す。少し大げさにも思えた。
「そうですね。自分の思いを犠牲にして、相手の幸せを思う。中々、出来ることじゃないですよね」
「はい。俺は……俺は川本さんとそういう恋愛したいです」
「え?」
「ダメですか?」
「ダメですか?と言われましても………ちょっとすいません。突然すぎて」
私は突然すぎて、後ろに下がる。南海は真剣なようだ。私の様子に微笑んだ。
「すいません。友達からですよね。ま、また来ます!」
南海は慌てて、指輪を置いて慌てて出て行った。
「あ。ちょっと指輪っ!行っちゃったよ……」
私は指輪の入っている箱を見つめた。
私がこの指輪から見えた全ての人が幸せであることを、心から願った。
この指輪から見えた人々に会うことはない。それでも願わずにはいられない。
私は今日の営業を終了しようと思った。
閉店の看板を取り出し、シャッターを閉める。商品の管理、今日の売り上げを確認した。
片づけが終わると、私は店に鍵を掛けて買い物に出かけることにした。
アクアマリンのため息 6 (了)
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