プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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アクアマリンのため息

アクアマリンのため息 2

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  再び思い出はゆっくりと、見えてきた。

  今度は井川がなぶに電話をしている場面だった。

「真学?合宿どう?順調?」
「ああ。伊豆大島での合宿、ハードだけど何とか」

  真学は伊豆大島で合宿しているらしい。何の合宿なのだろう。
  体格が良かったから、何かのスポーツであることは確かだ。野球なのか。

「全国水泳の大会、頑張ってね」
「頑張るよ。頑張ったら、また何処か行こう!」
「うん。行く!」
 
  井川は目を輝かせている。
  真学は水泳の選手らしい。水泳の合宿をしていたようだ。
  あのがっしりした体格は、水泳の全身運動によるものなのか。私は納得した。

「凄い喜んでいるなぁ。俺、プレッシャーだわ」
「そんな。プレッシャーなんて架けてないよ」
「あははは。じゃあ。また」
「うん。おやすみ」

  時刻は夜の時間らしい。真学は電話を切って自分の部屋に戻ったようだ。
  井川は真学との電話を夢心地で顔がにやけていた。
  なんだか淡い少し恥ずかしい気分になってくる。
  このまま、井川が上手くいけばいいのに。 
 何かがあってそれは終わることは決定的だ。
  
  私はその最後を見ることが出来るのだろうか。

  思い出を最後まで見るのが恐い。私はそんな思いを抱えたまま、思い出を見続ける。
  切り替わった思い出は、井川が友達とカフェで談笑している場面だ。

  夏の暑い日で井川はタオルで汗を拭っている。
  友達はレモンスカッシュを飲んでいた。

「ねぇ。来美と真学くんってどこまでいっているの?」
「え。どこまでって?」
「もう。とぼけないでよ。したの?」

    井川は唐突な質問に動揺をしている。ガールズトークをしているようだ。 

「してないよ!」
「えー。してないの?」
「あ、当たり前じゃん」

  井川は落ち着かせるために、水を飲む。友達は井川の顔を見た。

「真学くんって長いこと、他の人、好きだったんでしょう?」
「………うん」 

  井川の表情は憂鬱になっている。真学が井川の告白を保留していた原因の人だ。

「それってさ、誰だったの?」
 
  友達は切り込んでくる。恐らく、井川と親友なのだろう。

「……お兄さんの奥さん」

  私は衝撃を受けた。
  真学はお兄さんの奥さんに恋をしてしまっていたのか。
  それは辛い恋だろうと思った。
  好きになった理由はわからないが、素敵な人なのかもしれない。

「えー!」
「ちょっ、声が大きいよ!シー!」

  敬子の声で、カフェのお客さんが一斉に視線を向ける。敬子は目が合ったお客さんに少し頭を下げた。

「なんだかどこかのエ……ごめん」
「今、変なこと言おうとしたよね?下品なこと言わないで!」
「だって何か」
「これ以上、言うなら敬子けいことは絶交だから」
  
  友達の敬子は少し下品だ。
  真学は兄の妻への思いを伏せて、井川と付き合うに至ったのだろう。

「ごめんごめん。だって何かドラマみたいじゃん」
「ドラマか。でも、真学は多分、まだ真理子さんを好きだと思う」

  井川の目は潤んで揺れた。敬子は井川を心配する。

「いいの?本当にそれでいいの?」
「……そりゃあ、私を好きになってほしいけどさぁ」
  
  井川はアイスコーヒーのストローをかき回す。氷の音が響く。井川は黙る。
  敬子が井川を見つめて言う。

「じゃあさ、頑張ってみなよ。その真理子さんだっけ。お兄さんの奥さんだし。どうこうなるはずもないじゃん」
「……そうだけどさ。それは解っているんだけど………」
「けど?」
「真理子さん、かなり良い感じの人で。何か私は」
  
  真学の好きな人は余程、素敵な女性なのだろう。
  どんな人か気になった。この先、その女性が見えるのだろうか。

「良い人でもさ、遠慮する必要ないよ!」
「そうだけどさ」
「そうだけどじゃない!」

  敬子は井川に克を入れているようだ。
  井川はそれに負けて、返事をする。

「解った!」
「じゃあ、善は急げ!」
「善は急げって」
「だーかーら!お兄さんとその奥さんに【私が彼女です】って紹介してもらわないと!」

  敬子の強引さに少しだけ、私は驚く。
  井川はその勢いに飲まれる。

「うーん」
「それぐらいやらないと!」
「でも、真学は」

  井川はもじもじとした。

「来美が強引に行けば上手くいくんじゃない?」
「そういうものかな」
「そういうもの!さ、早く電話っ!」

  敬子の勢いに井川は負けた。これくらい恋に積極的になれば上手くいくのだろうか。
  井川は敬子に言われ、スマートフォンを取り出す。電話を架けるようだ。

「あの、真学?」

  敬子は井川の電話の様子を見つめる。
  私は井川を心から応援したくなった。井川は緊張している。 真学は何を言っているのだろうか。

「うん。そう。え?」

  井川は真学から何かを言われたらしい。
  少し動揺している。敬子が心配そうに見つめた。
  井川は敬子と目が合うと、「心配しないで」というアイコンタクトをした。

「うん。うん。わかった。じゃあね」

  井川は電話が終わったらしい。敬子はテーブルから乗り出すように井川に聞く。

「ねぇ?何どうなったの?」
「あの、それが。今度、真学のお母さんの誕生日らしくって」
「誕生日。それで?」
「誕生日パーティーをやるとかで、私も来てほしいって」
「えー!やったじゃん!」

  敬子は大声で喜んだ。敬子の大声に他のお客さんが再び見る。うるさいと思ったらしいお客さんが敬子を睨む。
敬子は「すいません」と会釈をした。
  井川の表情に元気がない。

「何で元気ないの?」
「真理子さんも来るって」
「ナイスタイミング!これでアピールだよ!」
  
  敬子は井川の肩を叩く。井川は敬子を見た。

「うーん」
「とにかくファイト!」

  真学の母親の誕生パーティーに、井川と真学の好きな人、真理子が参加する。
  どんな空気になるのだろうか。
  いよいよ、真学の好きな人が見れる。
  私はざわつく心を落ち着かせた。
  見れる確証はないけれど、私は期待した。

アクアマリンのため息 2 (了)

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