悪役令嬢の復讐事件簿

droit

文字の大きさ
上 下
2 / 15

ケース1-2

しおりを挟む
 「…………。」

声が途切れ、静寂が一瞬の間を切り裂いた。その間にも、暗闇はより濃密に、息苦しいほどに迫ってくる。息をするたびに空気が重くなり、胸を締めつける。何かが終わったかのような、圧倒的な感覚がその場を支配していた。

「……何をするつもりだ……?」

震える声が闇の中で途切れ途切れに響く。かすかに光る目が、相手の動きを見つめる。しかし、相手の姿は闇に溶け込み、形すらも曖昧だった。

「お前には選択肢なんてない……」

低く冷たい声が返ってくる。その言葉には怒りでも憎しみでもなく、むしろ無感情の響きがあった。相手が手を振り下ろすのが見えたその瞬間――

「待て……! 俺は――」

叫び声が闇を切り裂くが、その直後、何かが大きく砕けるような音が響き渡る。

ガラスか、それとも……骨か?

男は倒れ込んだ。頭の中で鈍い音が反響し、意識が遠のいていく。しかし、その刹那、何かが男の背中にぶつかり、冷たい液体が頬をつたうのを感じた。雨だ。冷たい雨が突然降り出し、コンクリートの地面に激しく打ち付けている。

「……まだ終わっていない。」

その声に男は最後の力を振り絞り、頭を上げた。目の前には、手に何かを持ったシルエットが見える。胸元に響く、まるで心臓の鼓動のような低い音。男は薄れる意識の中で、相手の足元にうっすらと広がる赤い水たまりに気づいた。

「お前には、終わらせる権利なんてないんだ……」

声は再び、闇の中へ消えた。その瞬間、男は何かを理解した。目の前の影は、ただの人間ではない。彼の人生そのものが、これまでのすべてが、その影に向けて収束しようとしているのだ。

雨はさらに強くなり、全てを洗い流そうとするかのように、二人の上に降り注いでいた。






あなた:
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。 不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった! けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。 前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。 ……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?! ♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...