四季怪々 僕らと黒い噂達

島倉大大主

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Final Chapter

1:大雪

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 まあ、今朝の事なんで今までみたく話すのは変なんですが……流石にここまで助けが来ないとですね、僕の体が見つかるのは結構先になっちゃうかも、と今考えているわけで、となると、これを聞く人は過去の事として、この事件を考えるわけで、だから、今まで通りの話し方の方が良いかな、と思ったりします。
 いや、もう、ぶっちゃけ、今のこの状態を自分の事じゃなくてお話として処理したいという現実逃避なんですけどね、はははは!


 えー、さて……今朝、本格的に起きたのは九時過ぎでございました。
 雪により休校、との知らせは朝早くメールでまわってきまして、じゃあってことで二度寝して、よく寝たわい、と布団からもそもそ這いだしてみたら、そんなに時間が経ってなくてですね、ちらっと外を見ると圧倒的に白い。
 こりゃ、何処にも行けないし、誰とも会えないな、とパンを食べつつ久しぶりにDVDとかゲームにどっぷり浸ってみようかと考えていたのが確か十時。まあ何はともあれ、テレビを点けるわけです。
 ここ最近、テレビのニュースの内容は決まっていました。数日前からロシアのどこぞの町の低温にもほどがある天気が仰々しく取り上げられ、それを引き起こした寒気団は弱まりもせずに南下して日本にガッチリと覆い被さってくる。危険が危ない! とかなんとか。
 テレビに映った夜のロシアの町は、雪が降り積もり、看板が凍り、インタビューに答える住人のまつ毛までぱっきぱきで、大きな篝火かがりびがそこかしこに焚かれ、その周りでみんなが暖まっていて、まるでお祭りのようです、と寒さに震えながら宣ったレポーターは時代遅れも甚だしいバナナでの釘打ちをし、半端な笑いをお茶の間に振りまいた後に、その極寒の中起こった殺人事件を伝えていました。

 なんでも道路脇の雪の中に死体を隠した、とか。
 成程どうせ春までは雪は解けないのだから、もしかしたら良い方法なのかもしれないです。見つかるまで大いに時間が稼げるし、工夫すれば、事故死に見えなくもないような気がします。
 で、その寒気団がいよいよ日本全土に覆い被さったらしいのです。その影響なのか、停電やら携帯の不通やらが頻発していて、電車も高速道路も一部区間を除いてどうにもならん、と。
 ボケっとしていた頭がしゃっきりしてきます。
 これって、結構な状況なのでは? 
 急にそわそわしてきた僕は委員長に電話をかけようと考え、そういや、今日はお見舞いに行く日か、と電話を止めます。委員長のお母さんは大変元気なのですが、如何せん長い間寝てましたから筋肉が弱ってしまいまして、いまだ病院でリハビリ中なのです。
 ふむ、ではヒョウモンさんかヤンさんかオジョーさんには、と携帯をいじろうとするとアンテナマークが一本と圏外を反復横跳び初めまして、おお、こいつは――と家の中をうろうろ。
 ちなみにばーちゃんは朝早く友達のうちに遊び兼雪かきに外出しています。
 さてさて、と僕は炬燵に逆戻り。いかん、今日はこのままダメ人間的快楽に身をゆだねるのか、とか言いながら炬燵ヤドカリになろうとしたその時です。

 どさっと大きな音が外からしました。

 電線から雪が落ちた? それとも、屋根から雪が落ちたのでしょうか? 一体どのくらい積もっているのかな? というか、どのくらい寒いのかな? まさかロシア程じゃないだろう。とはいえ――
 一度気になりだすと、因果なもので、全然止まらないんですね。僕は溜息をつくと、炬燵を消し、えいっと立ち上がって万歳をしてから、ぐっぐっと屈伸をし、顔を洗いに行きました。
 昔々、僕は大雪の日にやっぱり我慢できなくって外に飛び出したことがあります。ダウンジャケットこそ着ましたが、手袋も持たず、靴はスニーカーという今考えれば自殺行為以外の何物でもない格好でした。
 勿論、最初は快調でしたよ? あの独特の足裏感覚を堪能しながら、ぎょむぎょむしてたわけですが、冷たさという悪魔はジワジワと靴、そして靴下に染みわたってきます。
 結果、まるで『お湯で煮られる蛙』のごとく、まだいける、まだもう少しいける、と、くたくたになるまで歩いたあげく、転んで雪と泥と汗にまみれ、結局次の日に熱を出すという、馬鹿丸出しで終了したのです。
 ですから今回の装備はジーンズの下に冬になるとテレビでガンガン宣伝を流す、あったか黒タイツを履き、厚手の靴下、そしてダウンジャケット。とどめに軍手と熱いお茶の入ったポットを持参です。
 カメラは新しく買った耐水性のコンパクトなやつです。
 居間でちょっと動いてみると、思ったよりは軽快に動けます。というか、いつも以上に『防御力』が上がったような不思議な高揚感というか自惚れみたいなものが心に灯っているのです。
 ふーむ、これは調子に乗らないようにせねば、と長靴に足を入れます。うう、この冷たくて固い感じが更に鎧を着ている感を加速させる、とポケットにスマホを入れ、傘を掴んで玄関から飛び出しました。

「皆さん、どうもこんにちは~。皆さんご存知、『オッサン』こと、ユウジロウです。
 さてさて――見えますか? そう雪です。
 いや、降ったね! ってか降ってるねえ。何センチ? おいおい、これ! 思いっきりやると、膝まで行くんだけど! やべぇ、マジやべぇって。……えーっと今日はレギュラーの皆さんは各々家でミカンとかモリモリ食べてると思うんですよ。僕もミカンとか食べてゴロゴロするつもりだったんですけどね、ほら! 大雪じゃん? 子供は風の子じゃん? 犬は喜び庭駆けまわるじゃん? 
 だから、まあ、外に出てきたんですけどね……うーん、ツッコミ不在なのはキツイっすねえ。ボケ甲斐がない、みたいな? ま、ともかく行ってみましょうか」

 僕はカメラを前に向けると、道路に出てみました。
 秋に見たあの町のように誰もいません。雪が深すぎて自転車はおろか車も走った形跡が無いのです。僕は、ぎょむぎょむを楽しみながら、片栗粉の上を歩いたらこんな風なのではないかと妄想しつつ横道に入り、右に左にと曲がってブラブラしました。
 場所によっては腰くらいの高さにまで雪が積もっています。
 これは、結構な大事なのでは? と僕は感じ始め、もしかしたら素材としておいしいネタなんじゃないかと思い始めました。

 歩いていると、やがて大通りに出ました。雪はしんしんと降り続いています。交差点まで進み、最近LEDに代えられた為か雪がみっちりと張り付いた信号を見上げ、目を戻すと、うぉっと小さく声が出ました。
 見渡す限り車道も歩道も段差が無く、どこまでも真っ白なんですね。
 こりゃ綺麗だ、と僕は叫びました。
 対岸に渡ってみると、やはり足跡一つありません。傘が重いな、と振ってみると、ばさばさと湿って重いやつが落ちます。横風も強くなってきて、交差点の反対側にある自販機は縦に半分真っ白になっていました。
 この先は大きな田圃と小さな公園、そして、いつもの橋です。今この時分に、ジョギングや犬の散歩に行く人もいないでしょう。つまり、こんな素晴らしい景色が更に広がっているということです。

 橋の上から町を見たら、どうなっているんだろう?

 僕はポットを取り出した。熱いお茶を啜りました。すると不思議と雪や風が弱まったように感じられました。
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