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Chapter3
3:落書き・成長
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「拝聴しよう」
「では――今年に入ってから流布している噂のうち、共通点がある物を上げていきます。
まずは『動く落書き』と『用水路に蠢く影』です。どちらも犬や猫が襲われています。順番で見ますと、『落書き』から『用水路』。
そして『落書き』の時は第三者がいますが『用水路』の時は、第三者がいない。これは自分で餌が取れるようになった、と推測します」
田中さんが、ど、どうやって、と聞いてきました。ばーちゃんが応えます。
「四月だか五月だかに飲み屋で聞いたんだが、『落書き』の髪が壁から出てきたんだと」
「それは、酔っ払いの――」
僕は田中さんの言葉を遮りました。
「最近、囁かれ始めた噂が二つあります。一つは『笑う影女』。そしてもう一つは『足掴み』。文字通り、歩いてると足に何かが絡みついて転びそうになる。だけど足元を見ても何もない、って噂です」
カニさんが、顎をごりごりと掻きました。
「……それを『落書き』がやったと? そいつは、そう、『餌をとる練習がわり』にそんな事をやってる、と?」
僕は頷き、更に言うならば、と続けました。
「『足掴み』の噂は『用水路』の前なんです。つまり、練習が終わって、下水を使って餌を取り始めたと考えたんです。ちなみに現場のドブには何か細長い物が這った跡がありました」
「髪の毛、だとでも?」
田中さんの呟きに、ヤンさんが頷くと、しかも、と続けます。
「この『クソ落書き』は放っておくと、そこらをうろうろするかもしれねえんだと」
「実は『落書き』が笑い声を上げるという話もあったんです。そこで『笑う影女』の噂です。これは笑い声を上げる真っ黒な女を見た、という噂です。これが、まあ、起き上がる練習をしている『落書き』という可能性――」
「待った待った待った!」
田中さんが両手を振りながら、テーブルの前に立ちました。
「その――君達は正気か!? 動物虐待の話はOKだ。それに郷土史研究会が絡んでる。それもOKだ。
だけれども壁から抜け出て、血を吸う、その――『落書きの女』が今まさにこの町に解き放たれようとしている、って君達は言いたいんだろう? それは、その――とっても信じられない話だよ! だって、ちょっと考えれば――」
だから、と僕。
「だから、僕達は現場に行かなければならないんです。
僕達は最初から、そこを想定しています。
それ以外の、例えば下水に死体が、とかそういうのは警察のお仕事です。勿論、僕らは撮影もしないし、ぶっちゃけ関わりになるのは御免です」
オジョーさんがゆらりと立ち上がりました。
「ですが、私達なら、警察や下水管理局の皆さんが予想していなかった事態が持ち上がった時に、対応できるんです。いや、対応しなくちゃいけないんです」
「いや、しかし、その……」
ヤンさんが立ち上がると田中さんの肩に手を回しました。
「落ち着けよ。犬猫の虐待犯は、そう、一発ぐらい殴っかもしんねーけど、基本あんたらに任せる。
でもよ、犬猫の血を啜るクソ化け物相手ってなるとよ、説得とか逮捕とかそういう次元じゃねーだろ? ん?」
田中さんは、何か言いたそうでしたが、結局諦めてカニさんに視線を送りました。
カニさんはティッシュを取り出すと、鼻をびーっとかみ、ヒョウモンさんがさっと差し出した屑籠に見事な三点シュートを決めました。
ナイス、と委員長。
遠距離は任せてくれ、と笑ったカニさんは、やれやれと溜息をつきました。
「もしかして、ピストルはダメっぽい?」
僕はどうでしょう、と首を捻りました。
「基本、壁の絵ですから……とはいえ、実体化しつつあるんですから、効果はあるかもしれません。……ま、できることならバズーカとかが欲しいですけど」
カニさんはちらっと田中さんを見ました。……いや、無理ですよ。無理ですからね、と田中さんはキンキン声で言うと、ああ、まったくもう、と頭を掻き毟りました。
「ああ、ああ、もう! か、仮にだ! 君達の行ってることが全部正しいとしてだ! その……一体そんな化け物相手にどう対処する気なんだ?」
ばーちゃんはにやりと笑い、オジョーさんを指さしました。
「この子、『落書き』と因縁があるんだけどね、だからか、凄く良いアイディアを出してくれたの。しかも、それはすぐに実行可能。聞きたいかい?」
頷く二人に、オジョーさんはパッと顔を明るくして説明を始めました。
ぽかんとした顔の田中さん。
げひゅっと吹き出し、そいつはいいぞ! 是非儂にもやらせてくれ! と、ゲラゲラ笑いだすカニさん。
ヒョウモンさんが、なんでこうノリの良い奴しか寄ってこないんだろうねえ、と呟きました。
あんたが言うか? と委員長がツッコみました。
「では――今年に入ってから流布している噂のうち、共通点がある物を上げていきます。
まずは『動く落書き』と『用水路に蠢く影』です。どちらも犬や猫が襲われています。順番で見ますと、『落書き』から『用水路』。
そして『落書き』の時は第三者がいますが『用水路』の時は、第三者がいない。これは自分で餌が取れるようになった、と推測します」
田中さんが、ど、どうやって、と聞いてきました。ばーちゃんが応えます。
「四月だか五月だかに飲み屋で聞いたんだが、『落書き』の髪が壁から出てきたんだと」
「それは、酔っ払いの――」
僕は田中さんの言葉を遮りました。
「最近、囁かれ始めた噂が二つあります。一つは『笑う影女』。そしてもう一つは『足掴み』。文字通り、歩いてると足に何かが絡みついて転びそうになる。だけど足元を見ても何もない、って噂です」
カニさんが、顎をごりごりと掻きました。
「……それを『落書き』がやったと? そいつは、そう、『餌をとる練習がわり』にそんな事をやってる、と?」
僕は頷き、更に言うならば、と続けました。
「『足掴み』の噂は『用水路』の前なんです。つまり、練習が終わって、下水を使って餌を取り始めたと考えたんです。ちなみに現場のドブには何か細長い物が這った跡がありました」
「髪の毛、だとでも?」
田中さんの呟きに、ヤンさんが頷くと、しかも、と続けます。
「この『クソ落書き』は放っておくと、そこらをうろうろするかもしれねえんだと」
「実は『落書き』が笑い声を上げるという話もあったんです。そこで『笑う影女』の噂です。これは笑い声を上げる真っ黒な女を見た、という噂です。これが、まあ、起き上がる練習をしている『落書き』という可能性――」
「待った待った待った!」
田中さんが両手を振りながら、テーブルの前に立ちました。
「その――君達は正気か!? 動物虐待の話はOKだ。それに郷土史研究会が絡んでる。それもOKだ。
だけれども壁から抜け出て、血を吸う、その――『落書きの女』が今まさにこの町に解き放たれようとしている、って君達は言いたいんだろう? それは、その――とっても信じられない話だよ! だって、ちょっと考えれば――」
だから、と僕。
「だから、僕達は現場に行かなければならないんです。
僕達は最初から、そこを想定しています。
それ以外の、例えば下水に死体が、とかそういうのは警察のお仕事です。勿論、僕らは撮影もしないし、ぶっちゃけ関わりになるのは御免です」
オジョーさんがゆらりと立ち上がりました。
「ですが、私達なら、警察や下水管理局の皆さんが予想していなかった事態が持ち上がった時に、対応できるんです。いや、対応しなくちゃいけないんです」
「いや、しかし、その……」
ヤンさんが立ち上がると田中さんの肩に手を回しました。
「落ち着けよ。犬猫の虐待犯は、そう、一発ぐらい殴っかもしんねーけど、基本あんたらに任せる。
でもよ、犬猫の血を啜るクソ化け物相手ってなるとよ、説得とか逮捕とかそういう次元じゃねーだろ? ん?」
田中さんは、何か言いたそうでしたが、結局諦めてカニさんに視線を送りました。
カニさんはティッシュを取り出すと、鼻をびーっとかみ、ヒョウモンさんがさっと差し出した屑籠に見事な三点シュートを決めました。
ナイス、と委員長。
遠距離は任せてくれ、と笑ったカニさんは、やれやれと溜息をつきました。
「もしかして、ピストルはダメっぽい?」
僕はどうでしょう、と首を捻りました。
「基本、壁の絵ですから……とはいえ、実体化しつつあるんですから、効果はあるかもしれません。……ま、できることならバズーカとかが欲しいですけど」
カニさんはちらっと田中さんを見ました。……いや、無理ですよ。無理ですからね、と田中さんはキンキン声で言うと、ああ、まったくもう、と頭を掻き毟りました。
「ああ、ああ、もう! か、仮にだ! 君達の行ってることが全部正しいとしてだ! その……一体そんな化け物相手にどう対処する気なんだ?」
ばーちゃんはにやりと笑い、オジョーさんを指さしました。
「この子、『落書き』と因縁があるんだけどね、だからか、凄く良いアイディアを出してくれたの。しかも、それはすぐに実行可能。聞きたいかい?」
頷く二人に、オジョーさんはパッと顔を明るくして説明を始めました。
ぽかんとした顔の田中さん。
げひゅっと吹き出し、そいつはいいぞ! 是非儂にもやらせてくれ! と、ゲラゲラ笑いだすカニさん。
ヒョウモンさんが、なんでこうノリの良い奴しか寄ってこないんだろうねえ、と呟きました。
あんたが言うか? と委員長がツッコみました。
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