15 / 57
Chapter1
14:オジョーさん覚醒!
しおりを挟む
委員長は、硬直しているオジョーさんの目を覗き込みました。そして――多分、自分に言い聞かせるようにこう言ったのです。
「だからこそ、そんなモノはねじ伏せるべきです!」
オジョーさんは、体を震わしました。
僕もです。
オジョーさんは下唇を一度思いっきり噛むと、はーっと大きく息を吐きました。柑橘系の匂いが僕の鼻に届きました。
「はいっ!」
オジョーさんはそう叫んで委員長に頷くと、僕を見て、にかっと笑いました。
その目には涙と炎がありました。
思えば、この人はここからエンジンがかかりっぱなしなんですね。
「監督さん! この池のあの光ってる場所を見れれば、よろしいのですよね?」
はい、と僕が答えるとオジョーさんはスマホを取り出し後ろを向いて電話をかけ始めました。すぐに、はい、わかりましたわと電話を切ります。
「お父様の許可が出ましたわ。ちょっとだけ、待っていてくださいね」
それから十五分後、黒塗りの大きな車がカーブを曲がり、僕達の目の前に停まりました。オジョーさんは立ち上がると助手席を開け、運転手と言葉を交わすと、シートに乗った大きな箱を抱えて足でドアを閉めました。
「あら、少しはしたない所を見せてしまいましたわ!」
恥ずかしがるオジョーさん。カメラを回していた僕の頭を委員長がカットしとけ、と小突きました。
「それは、何です?」
僕の問いにオジョーさんはひゃあ! と嬉しそうな声を上げました。
「カメラ代わりの物です! 一度こういうのに使ってみたかったんです!」
「そのまま! そのまま真っ直ぐ……もうちょっと高くお願いします。風で水面が波立ってよく判らないです」
了解ですわぁ、と嬉しそうにタブレットでドローンを操作するオジョーさん。横で的確な指示を出す委員長。
ドローンはため池の中心でホバリングしながら上昇を始めました。ぶーんと結構うるさい音が辺りに響き、なんだなんだと見物人が集まってきました。
一人のお婆さんが僕の肩をつつきました。
「どうしたの? 何? テレビ?」
「ネット番組です。ここの池の持ち主に許可を得て調査してるんです。ゴミが浮いてるし色々と――」
「あら、まあ」
「この池って、前からこんなにゴミが浮いてるんですか?」
お婆さんは後ろの人達を振り返りました。そんな事はないわよねえ? そうだなあ、毎年蛙がうるさいし、魚もいるだろ、だから蚊が湧かないんだよな、ここ……とガヤガヤ盛り上がってきたところで、はいっと元気な声が上がりました。カメラを向けると口を真一文字に結んだ小さな女の子です。
「あたし、みました!」
ああ、ゴミが勝手に飛ぶのを見たのか、と僕は考えました。年齢は幼稚園か保育園に入ったばかりのようです。
「怖かった?」
思わず出た僕の言葉に周りの人はキョトン。でも、女の子はうんうんと頷きました。
「うん、とってもこあかった。だって、あのひとたち、お外がくらいのに、お池に入っていって、ぼうとかでガシャガシャやってて、あたしがおまどから見てたら、こっちをみんなでじろーってして、げんかんのもんをのりこえて――」
委員長とオジョーさんがギョッとしてこっちを振り向きました。と、タブレットを横から覗いていた、さっきのお婆さんが声を上げました。
「あら! ちょっと、これ! これこれこれ! ああ、そうよ、あったわよコレ!」
お婆さんが画面をつつこうとして、慌てて委員長がその指をはっしと掴みました。僕と野次馬もどやどやとオジョーさんの後ろから画面を覗き込みます。
ゆらゆらと魚が泳ぐ緑の水。その下に白っぽくて丸い物が何個も見えました。
「ほら、あれ! 石の塚があったじゃない、あの真ん中に! よく蛙が乗ってた――」
ああ! と声が多数上がりました。委員長が眼鏡を直して画面を凝視しました。
「じゃあ、これは――石の塚に使われていた石?」
「そうよ! なんだっけー! あ、弘法大師がどうとか!」
後から判った事ですが、その石の塚は弘法大師が杖を突いて水を沸かせた場所に作られた物、だったそうです。
オジョーさんのお父さんは土地を買う際に、その伝説を知り、図書館と繋げて公園を作り、皆に見てもらおうと塚をそのままにしておいたそうです。
結局その日の撮影はその時に終わってしまいました。
住居侵入は未遂でも罪になる、とのことで女の子の親御さんが通報、警察到着。
近所の人達はそういえばあれが無くなった、これが壊された、とガヤガヤし始め撮影どころじゃなくなってしまいまして、これに巻き込まれたら色々時間が取られちゃうだろうから僕達はこっそり帰った方が良い、とオジョーさんが提案したのです。
「監督さん、お願いがあります! 私、撮影のお手伝いがしたいのです!」
別れ際にオジョーさんがこう言ってきても僕は別に驚きませんでした。
警察と女の子のやり取りを立ち聞きしたのですが、罰当たりかつ住居侵入しようとした連中は『灰色の服』を着ていたそうです。
「その連中を追いかけてるんですよね? 私があの時見た、あの人達を」
オジョーさんの問いに、僕は首を捻りました。
「僕達はその――そんなつもりはないんです。でも、そうなるのかもしれない。
しかし、連中がオジョーさんが見た連中と同一かは確定ではないですよ?」
「構いません! 私は知りたいんです。あの人達は――何であんなことをしたのか? それを知れば、あたしは、その――」
「悪夢をねじ伏せられる?」
委員長の言葉に、オジョーさんは深々と頷きました。
「だから、とにかく! 始めたいんです!」
ああ、これも『流れ』だな。僕はそう思うと、わかりましたと返事をし、連絡先を教えました。オジョーさんはにっこり笑うと、委員長と僕の肩に手を回しました。
「よろしくお願いいたしますわ、先輩たち!」
「だからこそ、そんなモノはねじ伏せるべきです!」
オジョーさんは、体を震わしました。
僕もです。
オジョーさんは下唇を一度思いっきり噛むと、はーっと大きく息を吐きました。柑橘系の匂いが僕の鼻に届きました。
「はいっ!」
オジョーさんはそう叫んで委員長に頷くと、僕を見て、にかっと笑いました。
その目には涙と炎がありました。
思えば、この人はここからエンジンがかかりっぱなしなんですね。
「監督さん! この池のあの光ってる場所を見れれば、よろしいのですよね?」
はい、と僕が答えるとオジョーさんはスマホを取り出し後ろを向いて電話をかけ始めました。すぐに、はい、わかりましたわと電話を切ります。
「お父様の許可が出ましたわ。ちょっとだけ、待っていてくださいね」
それから十五分後、黒塗りの大きな車がカーブを曲がり、僕達の目の前に停まりました。オジョーさんは立ち上がると助手席を開け、運転手と言葉を交わすと、シートに乗った大きな箱を抱えて足でドアを閉めました。
「あら、少しはしたない所を見せてしまいましたわ!」
恥ずかしがるオジョーさん。カメラを回していた僕の頭を委員長がカットしとけ、と小突きました。
「それは、何です?」
僕の問いにオジョーさんはひゃあ! と嬉しそうな声を上げました。
「カメラ代わりの物です! 一度こういうのに使ってみたかったんです!」
「そのまま! そのまま真っ直ぐ……もうちょっと高くお願いします。風で水面が波立ってよく判らないです」
了解ですわぁ、と嬉しそうにタブレットでドローンを操作するオジョーさん。横で的確な指示を出す委員長。
ドローンはため池の中心でホバリングしながら上昇を始めました。ぶーんと結構うるさい音が辺りに響き、なんだなんだと見物人が集まってきました。
一人のお婆さんが僕の肩をつつきました。
「どうしたの? 何? テレビ?」
「ネット番組です。ここの池の持ち主に許可を得て調査してるんです。ゴミが浮いてるし色々と――」
「あら、まあ」
「この池って、前からこんなにゴミが浮いてるんですか?」
お婆さんは後ろの人達を振り返りました。そんな事はないわよねえ? そうだなあ、毎年蛙がうるさいし、魚もいるだろ、だから蚊が湧かないんだよな、ここ……とガヤガヤ盛り上がってきたところで、はいっと元気な声が上がりました。カメラを向けると口を真一文字に結んだ小さな女の子です。
「あたし、みました!」
ああ、ゴミが勝手に飛ぶのを見たのか、と僕は考えました。年齢は幼稚園か保育園に入ったばかりのようです。
「怖かった?」
思わず出た僕の言葉に周りの人はキョトン。でも、女の子はうんうんと頷きました。
「うん、とってもこあかった。だって、あのひとたち、お外がくらいのに、お池に入っていって、ぼうとかでガシャガシャやってて、あたしがおまどから見てたら、こっちをみんなでじろーってして、げんかんのもんをのりこえて――」
委員長とオジョーさんがギョッとしてこっちを振り向きました。と、タブレットを横から覗いていた、さっきのお婆さんが声を上げました。
「あら! ちょっと、これ! これこれこれ! ああ、そうよ、あったわよコレ!」
お婆さんが画面をつつこうとして、慌てて委員長がその指をはっしと掴みました。僕と野次馬もどやどやとオジョーさんの後ろから画面を覗き込みます。
ゆらゆらと魚が泳ぐ緑の水。その下に白っぽくて丸い物が何個も見えました。
「ほら、あれ! 石の塚があったじゃない、あの真ん中に! よく蛙が乗ってた――」
ああ! と声が多数上がりました。委員長が眼鏡を直して画面を凝視しました。
「じゃあ、これは――石の塚に使われていた石?」
「そうよ! なんだっけー! あ、弘法大師がどうとか!」
後から判った事ですが、その石の塚は弘法大師が杖を突いて水を沸かせた場所に作られた物、だったそうです。
オジョーさんのお父さんは土地を買う際に、その伝説を知り、図書館と繋げて公園を作り、皆に見てもらおうと塚をそのままにしておいたそうです。
結局その日の撮影はその時に終わってしまいました。
住居侵入は未遂でも罪になる、とのことで女の子の親御さんが通報、警察到着。
近所の人達はそういえばあれが無くなった、これが壊された、とガヤガヤし始め撮影どころじゃなくなってしまいまして、これに巻き込まれたら色々時間が取られちゃうだろうから僕達はこっそり帰った方が良い、とオジョーさんが提案したのです。
「監督さん、お願いがあります! 私、撮影のお手伝いがしたいのです!」
別れ際にオジョーさんがこう言ってきても僕は別に驚きませんでした。
警察と女の子のやり取りを立ち聞きしたのですが、罰当たりかつ住居侵入しようとした連中は『灰色の服』を着ていたそうです。
「その連中を追いかけてるんですよね? 私があの時見た、あの人達を」
オジョーさんの問いに、僕は首を捻りました。
「僕達はその――そんなつもりはないんです。でも、そうなるのかもしれない。
しかし、連中がオジョーさんが見た連中と同一かは確定ではないですよ?」
「構いません! 私は知りたいんです。あの人達は――何であんなことをしたのか? それを知れば、あたしは、その――」
「悪夢をねじ伏せられる?」
委員長の言葉に、オジョーさんは深々と頷きました。
「だから、とにかく! 始めたいんです!」
ああ、これも『流れ』だな。僕はそう思うと、わかりましたと返事をし、連絡先を教えました。オジョーさんはにっこり笑うと、委員長と僕の肩に手を回しました。
「よろしくお願いいたしますわ、先輩たち!」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
黒い花
島倉大大主
ホラー
小学生の朝霧未海は自宅前の廊下で立ち尽くしていた。
とても嫌な感じがするのだ。それは二つ隣の部屋から漂ってくるようだ……。
同日、大学でオカルト研究会に所属する田沢京子の前に謎の男が現れる。
「田沢京子さん、あなたは現実に何か違和感を感じた事はありませんか?」
都市伝説の影に佇む黒い影、ネットに投稿される謎の動画、謎の焦燥感……
謎を追う京子の前で、ついに黒い花が咲く!
四季怪々 僕らと黒い噂達 ボーナストラック『ある山荘』
島倉大大主
ホラー
『オッサン』ことユウジロウは小学生である!
両親が海外出張になったため、祖母の家に住むことになり惰眠をむさぼる予定だったユウジロ―。
だが!
祖母の提案してきた『番組作り』は、やがて町の命運をかけた戦いへと発展していく!
本編中ではカットされた、ボーナストラック、遂に解禁!
餅太郎の恐怖箱
坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。
不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。
見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。
古びた鏡に映る自分ではない“何か”。
誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。
「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。
あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。
一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。
---
読み切りホラー掌編集です。
毎晩21:00更新!(予定)
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
野花マリオ
ホラー
ーー彼女が語る怪異談を聴いた者は咲かせたり聴かせる
登場する怪異談集
初ノ花怪異談
野花怪異談
野薔薇怪異談
鐘技怪異談
その他
架空上の石山県野花市に住む彼女は怪異談を語る事が趣味である。そんな彼女の語る怪異談は咲かせる。そしてもう1人の鐘技市に住む彼女の怪異談も聴かせる。
完結いたしました。
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる