やがて訪れる

島倉大大主

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やがて訪れる

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 万が一を考え、このメモを書く。

 見つけた人間は好きにすればいい。 



 二週間前、雪が降り始めた。
 
 窓から見える庭は、あっという間に雪で覆い尽くされた。

 何も植えていない庭だから、向こうの林まで、真っ白である。

 天気予報によれば、雪が降りやめば、すぐに気温が上がり、雪は溶けるらしい。

 俺は車椅子に座ったまま、庭をぼんやりと眺めて過ごしていた。



 一月前に事故で両足を骨折した。

 入院を勧められたが、俺は自宅を空けたくなかった。

 だから、今、俺は山の中の一軒家に一人でいるのだ。

 

 俺はそこそこ金を持っていて、理由があって、ここで暮らしている。

 だが、世間と切れているわけではない。ほぼ毎日、町に行くし、友人もいる。

 雪が降る前には、毎日ヘルパーが来て、俺の世話をしてくれた。

 今日、ヘルパーとは電話で話したが、山道が雪で通れなくなっているそうだ。

 俺は庭を見ながら、不安に駆られる。

 物資は問題ない。燃料もある。こういう事もあろうかと、家はバリアフリーだ。

 だが――



 数日前の事だ。

 寝る前に、庭を眺めようとカーテンを開け、妙な物を見つけた。

 雪の塊がある。

 滑らかな雪の平野に、作りかけの雪だるまみたいな物がある。

 大きさは大人の頭ぐらいか。

 風でできたのだろうか。それとも、動物だろうか。

 しかし、見渡す限り足跡は無く、雪は真っ直ぐに降っている。
 
 しばらくその塊を眺めたが、やがて飽きて、俺はカーテンを閉め、床に就いた。

 次の日、カーテンを開け、俺は驚いた。

 塊が増えていた。

 昨日は一つだった塊が、四つに増えている。

 俺は車椅子を窓に寄せ、目を凝らした。

 やはり足跡も、風紋も見つけられない。

 じゃあ、何故? 俺は塊を観察した。

 庭の正面に二つ。左側に一つ。そして右側に昨日見つけた一つ――

 その一つは大きくなっていた。

 塊の下に、一回り大きい塊ができているのだ。

 俺はその塊達を見続けた。

 一時間、二時間と見続けた。

 だが、変化は何もない。

 俺はカーテンを閉め、その日は床に就くまで、一度も庭を見なかった。

 何となくだが、何かが判った気がした。

 次の日、俺は朝起きるとカーテンを開けた。

 雪は止んでいた。

 そして塊はさらに増えていた。

 全部で十二体。

 予想通りだった。

 そして、昨日の四つは大きくなっていた。

 とりわけ、最初の一つは大きくなっていた。

 大きさは一メートルくらいだろうか。

 やや、前屈みになった人くらいの大きさ。

 座っていた人間が、立ち上がろうとしているような大きさ。

 俺はじっくりと観察した。

 そして、確信した。

 最初の塊は、窓に近づいていた。

 俺はカーテンを閉め、また眠った。

 気がつくと次の日の朝だった。

 カーテンを開ける。

 塊達は更に大きくなり、窓に近づきつつあった。

 じわり

 じわりじわり

 俺の見ている前で、塊達は窓に近づきつつあった。



 そして、最初に戻る。

 俺は電話をし、ヘルパーが近日中に来れない事を知った。

 窓は分厚い。

 あの塊達に割られることは万が一にもないだろう。

 だが――

 今朝は暖かい。

 このまま気温は上がっていくのだろう。

 雪は溶ける。

 あの塊も溶ける。

 溶けた中から何が出てくるのか。

 俺は庭を眺める。



 殺して埋めた連中の上に、あの塊ができたのは間違いない。

 何かをすれば、何かがやがて訪れる。

 世の中の仕組みはわかっている。

 だからといって、俺が何もしない手はない。

 一度殺したのだから、また殺すことはできるはずだ。

 だが、この足では、素早く、上手くできないかもしれない。

 死ぬのはどうでもいい。

 だが、上手くできないのは嫌だ。

 俺は不安に駆られながら、窓を見続ける。

 あの塊の中に何があるのか。

 あれが溶けた時に、何が見えるのか。

 もし――何も無かったら……。

 雪が溶け、そこには何も無かったら、俺の高ぶった気持ちは、何処で解消すればいいのか。

 ヘルパーが来るまでは時間がありすぎる。



 人を殺さずにはいられない。



 そして、この近辺には一人だけ人間がいる。

 ここに一人だけいる。

 俺はナイフを取り出し、膝の上に乗せる。



 俺は庭を眺め続けた。
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