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第五章
その七 風の吹く丘
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マヤは立ち上がった。
海から風が吹き付け、ぐしゃぐしゃの髪をそよがせる。焦げた油の匂いが運ばれてきた。
――マヤー――
はっとして、後ろを振り返る。
砂浜から続く丘は――――いつも夢に見た、あの場所だった。
草花が揺れ、白い綿毛のようなものが舞い上がった。
そして、その、なだらかな丘の上に女性が立っていた。真っ黒な服にベール。その下にうっすらと見える顔は、受付のあの女性のようだった。
「ミナさん……」
ミナはベールをめくる。そこに現れたのは、マヤの顔――
ジャンが立ち上がると、マヤの肩に手を置いた。
「あんたがヴィルジニーだな。依頼人か?」
「そうです。お疲れ様、ジャン・ラプラス。あなたの求めた答えは確かに渡したわ」
ジャンの肩にガンマがひょいと現れる。
「ヴィルジニー、僕の仕事も完了した、でいいかな?」
「ええ。依頼の達成――ソドムの崩壊――を確認したわ。賢者の石以外の報酬は依頼書にあった場所にあります。ジャン氏の取り分もあるので、二人で処理して頂戴」
「あ、あの……」
歩み寄ろうとしたマヤをヴィルジニーは手で制する。
「こちらに来てはダメよ、マヤ」
マヤはヴィルジニーを見つめた。
「……一つだけ聞いてもいいか?」
「……一つだけよ」
「なんで……こんなことをしたの?」
ヴィルジニーは柔らかく微笑んで、天を仰いだ。
「ソドムは――まるで、絵画の中の世界だった。何もかもがあり、何もかもが、偽物だった」
「……」
「あなたを探せと大公に命ぜられた時、私は、あなたを通して、始めて外の世界を見たの」
「……どうだったの?」
「……美しくて、素晴らしかった。でも――私は、まだ絵画の中だった……」
「……だから、額縁を壊したんだね」
「そうとも言える。だけど――」
「だけど?」
「私が美しくて素晴らしいと思った絵画を、あの男は壊す気だった……。
それだけは、許せなかったの」
マヤは、そっか、と呟き、長く息を吐いた。
「じゃあね、マヤ」
ヴィルジニーは手を振ると、丘の向こうに消えた。
マヤは誰もいない丘に向かって、軽く手を振った。
「じゃあね、姉さん……」
海から風が吹き付け、ぐしゃぐしゃの髪をそよがせる。焦げた油の匂いが運ばれてきた。
――マヤー――
はっとして、後ろを振り返る。
砂浜から続く丘は――――いつも夢に見た、あの場所だった。
草花が揺れ、白い綿毛のようなものが舞い上がった。
そして、その、なだらかな丘の上に女性が立っていた。真っ黒な服にベール。その下にうっすらと見える顔は、受付のあの女性のようだった。
「ミナさん……」
ミナはベールをめくる。そこに現れたのは、マヤの顔――
ジャンが立ち上がると、マヤの肩に手を置いた。
「あんたがヴィルジニーだな。依頼人か?」
「そうです。お疲れ様、ジャン・ラプラス。あなたの求めた答えは確かに渡したわ」
ジャンの肩にガンマがひょいと現れる。
「ヴィルジニー、僕の仕事も完了した、でいいかな?」
「ええ。依頼の達成――ソドムの崩壊――を確認したわ。賢者の石以外の報酬は依頼書にあった場所にあります。ジャン氏の取り分もあるので、二人で処理して頂戴」
「あ、あの……」
歩み寄ろうとしたマヤをヴィルジニーは手で制する。
「こちらに来てはダメよ、マヤ」
マヤはヴィルジニーを見つめた。
「……一つだけ聞いてもいいか?」
「……一つだけよ」
「なんで……こんなことをしたの?」
ヴィルジニーは柔らかく微笑んで、天を仰いだ。
「ソドムは――まるで、絵画の中の世界だった。何もかもがあり、何もかもが、偽物だった」
「……」
「あなたを探せと大公に命ぜられた時、私は、あなたを通して、始めて外の世界を見たの」
「……どうだったの?」
「……美しくて、素晴らしかった。でも――私は、まだ絵画の中だった……」
「……だから、額縁を壊したんだね」
「そうとも言える。だけど――」
「だけど?」
「私が美しくて素晴らしいと思った絵画を、あの男は壊す気だった……。
それだけは、許せなかったの」
マヤは、そっか、と呟き、長く息を吐いた。
「じゃあね、マヤ」
ヴィルジニーは手を振ると、丘の向こうに消えた。
マヤは誰もいない丘に向かって、軽く手を振った。
「じゃあね、姉さん……」
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