1 / 1
集まる場所
しおりを挟む
怖い話、か。
そりゃ50を過ぎれば色々聞いたりするもんだが、あんたが言うのはちょっと違うんだろう?
実体験。そうだろう?
しかし、まあ、残念ながら幽霊も宇宙人もツチノコも見たことが無くてね、どうもお役には立てない――なんだ、あいつから聞いてきたのか。
やれやれ、どうせべろべろになって喋っちまったんだろうな。一生の不覚だよ。あの時は、また見ちまったんで、つい酒の席で喋っちまった……。
ああ? 大丈夫。話すよ。
ただ、これはあいつも言ってたろうが、怖い話じゃなくて、その……一杯飲みたくなる話なんだよ。
俺が小4の頃の話だ。
当時は――まあ、詳細は省くわ。そっちで加工する時に時代背景を調べてくれ。
ともかく学校の帰り道に、俺は奇妙な物を見た。
家の近くにあるコンクリの用水路を流れていく物だ。普段からゴミが浮いてるドブみたいな場所だったから最初は気にしなかったんだが、近づいて来るうちに、それに書かれた文字がはっきりと見えちまったんだ。
俺の婆ちゃんの名前だった。
折り紙で作る『やっこさん』てあるだろ。ああいう『人の形をした折った紙』に婆ちゃんの名前が書かれている。色は黄緑だったかな?
どうして婆ちゃんの名前が? って俺は気になった。
だから俺は自然とそれを追いかけ始めたんだ。
一時間か、もっと短かったか、ある場所で、やっこさんは止まった。壁の近くで流れずにくるくる回ってるんた。
俺は上からずっと眺めていた。変な流れがあるのか? エビがいたずらしてるのか? なんて考えてた。
そしたら、ふっと……やっこさんが消えたんだ。
吃驚したよ。ほんとに消えたように見えたんだ。だから俺は下に降りたんだ。泥は乾いてて歩きやすかったな。
それで、やっこさんが消えた場所に行ったら、更に驚いた。
壁が割れてたんだ。上から見たんじゃ影になってて判らないんだが、子供がぎりぎり通り抜けられそうな割れ目があるんだ。
中は真っ暗で、水が流れ込んでる。
まさか、ここに? そう思ったらやっこさんが奥にちらっと見えた。
どうしたかって?
中に入ったよ。
理由かい? さあなあ……好奇心だったか……いや、違うな。
凄く嫌な感じがしたんだよ。
婆ちゃんが真っ暗な中に行っちまうって、手遅れになっちまうってな。
今考えると、正気の沙汰じゃないな。
小4のガキが腹と背中をこすりながら進んだって言えば、どのくらいの狭さかわかるだろう? でも、俺はとにかく進んだんだ。
足元を流れてる水がどんどん深くなってきて、背中から差し込んでくる光がどんどん弱くなっていく。割れ目は、カーブをしながら下に向かっていたんだと思う。
俺はそれでもどんどん進んだ。
そしたら――
まあ、昔の記憶だからね、話半分で聞いてほしんだが――大きくて広い場所に出た。真っ暗じゃなくて、どこからか薄っすらと光が入ってきていたな。天井は高くて、周りもコンクリートの丸い空間。真ん中にこんもりとゴミらしきものが積もった山があって、ざぶりざぶりと水の音がして、酷い臭いだった。
俺はしばらくバカみたく突っ立てたけど、自分の前で婆ちゃんの名前のやっこがくるくる回ってるのに気が付いた。
さっと手を伸ばし、水から取り上げた。
妙に重かったよ。手の平より小さな折り紙が、あんなに重いなんてね。驚いて、うわって声をあげちまった。
ざぶり、と大きな音がした。
その音はずっとしていたけど、水が壁に当たる音だと思ってたんだ。
だが、違う。
ざぶりざぶり、と近づいてくる。そしてその頃には、暗闇に目が慣れていた。
やっこがいっぱいあったよ。
赤や紫と色も様々。それが水の底や水面に浮いていた。
中央のはやっこの山だった。
その中を、ざぶりざぶりと何かが――あれは『誰か』じゃなかった。腕が長すぎたし、体が細すぎた。そのくせ二本足で頭はサンゴみたいな――
まあ、ともかく俺は逃げた。
婆ちゃんを両手で持って裂け目に飛び込み、ひたすら体を進ませた。
家に帰ったら、親が吃驚してたよ。擦り傷だらけで酷い臭いだったからな。
さて、これで話は終わりだ。オチが無くてすまんね。
ん? どこが不快かって?
……俺はそのやっこを今でも、箱に入れて保管している。その所為か、婆ちゃんは百歳を超えてんのに今でも元気そのものさ。毎日刺身と日本酒で晩酌してるよ、ははは!
……まあ、その筆跡がな……俺は、その、よく知っていてね。
ん? 両親?
ふふ……嫌な性格してるね。親父は元気だが、母ちゃんは死んだよ。
ん?
ああ……そうだよ。俺はまた『やっこ』を見かけたのさ。
だから、あんたは、あいつから聞いて今俺の前にいる。
まだ、続いてんのさ……。
さて、一杯どうだい?
そりゃ50を過ぎれば色々聞いたりするもんだが、あんたが言うのはちょっと違うんだろう?
実体験。そうだろう?
しかし、まあ、残念ながら幽霊も宇宙人もツチノコも見たことが無くてね、どうもお役には立てない――なんだ、あいつから聞いてきたのか。
やれやれ、どうせべろべろになって喋っちまったんだろうな。一生の不覚だよ。あの時は、また見ちまったんで、つい酒の席で喋っちまった……。
ああ? 大丈夫。話すよ。
ただ、これはあいつも言ってたろうが、怖い話じゃなくて、その……一杯飲みたくなる話なんだよ。
俺が小4の頃の話だ。
当時は――まあ、詳細は省くわ。そっちで加工する時に時代背景を調べてくれ。
ともかく学校の帰り道に、俺は奇妙な物を見た。
家の近くにあるコンクリの用水路を流れていく物だ。普段からゴミが浮いてるドブみたいな場所だったから最初は気にしなかったんだが、近づいて来るうちに、それに書かれた文字がはっきりと見えちまったんだ。
俺の婆ちゃんの名前だった。
折り紙で作る『やっこさん』てあるだろ。ああいう『人の形をした折った紙』に婆ちゃんの名前が書かれている。色は黄緑だったかな?
どうして婆ちゃんの名前が? って俺は気になった。
だから俺は自然とそれを追いかけ始めたんだ。
一時間か、もっと短かったか、ある場所で、やっこさんは止まった。壁の近くで流れずにくるくる回ってるんた。
俺は上からずっと眺めていた。変な流れがあるのか? エビがいたずらしてるのか? なんて考えてた。
そしたら、ふっと……やっこさんが消えたんだ。
吃驚したよ。ほんとに消えたように見えたんだ。だから俺は下に降りたんだ。泥は乾いてて歩きやすかったな。
それで、やっこさんが消えた場所に行ったら、更に驚いた。
壁が割れてたんだ。上から見たんじゃ影になってて判らないんだが、子供がぎりぎり通り抜けられそうな割れ目があるんだ。
中は真っ暗で、水が流れ込んでる。
まさか、ここに? そう思ったらやっこさんが奥にちらっと見えた。
どうしたかって?
中に入ったよ。
理由かい? さあなあ……好奇心だったか……いや、違うな。
凄く嫌な感じがしたんだよ。
婆ちゃんが真っ暗な中に行っちまうって、手遅れになっちまうってな。
今考えると、正気の沙汰じゃないな。
小4のガキが腹と背中をこすりながら進んだって言えば、どのくらいの狭さかわかるだろう? でも、俺はとにかく進んだんだ。
足元を流れてる水がどんどん深くなってきて、背中から差し込んでくる光がどんどん弱くなっていく。割れ目は、カーブをしながら下に向かっていたんだと思う。
俺はそれでもどんどん進んだ。
そしたら――
まあ、昔の記憶だからね、話半分で聞いてほしんだが――大きくて広い場所に出た。真っ暗じゃなくて、どこからか薄っすらと光が入ってきていたな。天井は高くて、周りもコンクリートの丸い空間。真ん中にこんもりとゴミらしきものが積もった山があって、ざぶりざぶりと水の音がして、酷い臭いだった。
俺はしばらくバカみたく突っ立てたけど、自分の前で婆ちゃんの名前のやっこがくるくる回ってるのに気が付いた。
さっと手を伸ばし、水から取り上げた。
妙に重かったよ。手の平より小さな折り紙が、あんなに重いなんてね。驚いて、うわって声をあげちまった。
ざぶり、と大きな音がした。
その音はずっとしていたけど、水が壁に当たる音だと思ってたんだ。
だが、違う。
ざぶりざぶり、と近づいてくる。そしてその頃には、暗闇に目が慣れていた。
やっこがいっぱいあったよ。
赤や紫と色も様々。それが水の底や水面に浮いていた。
中央のはやっこの山だった。
その中を、ざぶりざぶりと何かが――あれは『誰か』じゃなかった。腕が長すぎたし、体が細すぎた。そのくせ二本足で頭はサンゴみたいな――
まあ、ともかく俺は逃げた。
婆ちゃんを両手で持って裂け目に飛び込み、ひたすら体を進ませた。
家に帰ったら、親が吃驚してたよ。擦り傷だらけで酷い臭いだったからな。
さて、これで話は終わりだ。オチが無くてすまんね。
ん? どこが不快かって?
……俺はそのやっこを今でも、箱に入れて保管している。その所為か、婆ちゃんは百歳を超えてんのに今でも元気そのものさ。毎日刺身と日本酒で晩酌してるよ、ははは!
……まあ、その筆跡がな……俺は、その、よく知っていてね。
ん? 両親?
ふふ……嫌な性格してるね。親父は元気だが、母ちゃんは死んだよ。
ん?
ああ……そうだよ。俺はまた『やっこ』を見かけたのさ。
だから、あんたは、あいつから聞いて今俺の前にいる。
まだ、続いてんのさ……。
さて、一杯どうだい?
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ノック
國灯闇一
ホラー
中学生たちが泊まりの余興で行ったある都市伝説。
午前2時22分にノックを2回。
1分後、午前2時23分にノックを3回。
午前2時24分に4回。
ノックの音が聞こえたら――――恐怖の世界が開く。
4回のノックを聞いてはいけない。
何かを喪失するAI話
月歌(ツキウタ)
ホラー
何かを喪失するAI話。AIが作ったので、喪失の意図は分かりませんw
☆月歌ってどんな人?こんな人↓↓☆
『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』が、アルファポリスの第9回BL小説大賞にて奨励賞を受賞(#^.^#)
その後、幸運な事に書籍化の話が進み、2023年3月13日に無事に刊行される運びとなりました。49歳で商業BL作家としてデビューさせていただく機会を得ました。
☆表紙絵、挿絵は全てAIイラスです
「こんにちは」は夜だと思う
あっちゅまん
ホラー
主人公のレイは、突然の魔界の現出に巻き込まれ、様々な怪物たちと死闘を繰り広げることとなる。友人のフーリンと一緒にさまよう彼らの運命とは・・・!? 全世界に衝撃を与えたハロウィン・ナイトの惨劇『10・31事件』の全貌が明らかになる!!
Dark Night Princess
べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る
かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ
突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する
ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか
現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語
ホラー大賞エントリー作品です
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
#彼女を探して・・・
杉 孝子
ホラー
佳苗はある日、SNSで不気味なハッシュタグ『#彼女を探して』という投稿を偶然見かける。それは、特定の人物を探していると思われたが、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。日が経つにつれて、そのタグの投稿が急増しSNS上では都市伝説の話も出始めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる