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その代償に得る物は
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『さあ、始まりました!全校生徒、大!注目のこの一戦!本校始まって以来、常にトップを走り続けている、傭兵の集いと、勝利数は少ないものの、勝率は驚愕の100%!機械仕掛けの戦姫の一戦!共に本校を代表するチームの最大戦力が今ここに日の目を見ることになります!実況は、実況部部長、大塚美奈子でお送りします』
少し大袈裟な実況がステージに響き、巨大な液晶画面で観戦する生徒たちを盛り上げる。
『えーっと、ステージの説明をします。森林地帯ステージは30×30平方キロメートルの、超巨大ステージ。しかも今回は、濃霧が発生しており、さらに視界が悪くなっています。ステージには、川が三本流れており、一応食用の魚が生息しています。あとは……、無いね!では、本校校長であり、名誉能力者の佐々木蔵之介校長がルール説明を行います。どうぞ』
『相手を殺してしまうかもしれない技は使わないこと。サレンダーする時は、サポーターが判断して下さい。今日の日没までに決着がつかない場合、後日再戦を行います。以上でルール説明を終わります。両チーム、指定された位置について下さい』
『指定された位置について下さい』
「始まっちゃうな、命音ちゃん」
寧々は少し、怯えたような声で言う。さらに、体が震えている。
「ごめん、ね。怖いんだ。なんかよくわかんないやけど、悪いことが起きそうで……」
「警告受諾。でも、今は敵を倒すことだけを考える。制するは我が右手」
命音は、糸で体を補強する能力を使い、臨戦態勢に入る。
そして、
「制するは我が右手」
鋼の剣の四肢を持つ人形を操り、ウォーミングアップと称して、刺突、薙ぎ払いなど、あらゆる動きを行う。
「動作良好。私がこれを使う時は絶対負けない。……貴女がくれた物だから。それに、いざとなったら、あれがある。だから、大丈夫」
「でもあれは!……あれは、本当に何かあった時のための!」
『では、始め!」
寧々の声を遮るように、開始の合図が聞こえる。
「戦闘開始。ねえ、寧々。お願い、私が勝つことを信じて」
「……いや。貴女が無事に帰ってくることしか信じない」
「……」
命音は、寧々に背を向けると、森林の中に入りだし、
「……ありがとう」
寧々に届くか否かという大きさで、小さく呟く。それを見送る少女は、目に小さな滴を浮かべながら、輝くような笑顔でいた。
『では、始め!」
「じゃあ、行くよお前達!猛々しい者共と、救いを示す聖職者は予定通り、それぞれのルートを直進。召喚士は、己が一番の召喚獣を召喚し、超越した存在は、我々、道を指し示す王とともに、敵の居場所まで、直進せよ!」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
威勢の良い声がこだまし、それぞれのルートを進んで行く。
そして、道を指し示す王の先頭に立つ、女生徒、小野寺沙優は、装飾を施した槍聖人殺しの一突きを手にし、背中を預ける友の顔触れを眺める。
(良い顔をしているな……。これが最後だとみんな分かっているという訳か)
「沙優……。勝とうね」
沙優の暗い表情を見てか、一人がそう言った。
「……勿論だとも。我等は王である。負けてたまるか」
『両チームがスタート地点から動き始めました!ちなみに、私達の声は、もう届かないのでじゃんじゃん騒いで、盛りあげろぉぉ!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおお!」」」」」」」」」」」
『はい、ここで先程は全く紹介しなかった校長先生の紹介を致します。えーっと、校長先生は、耳にかけるインカムに、ご自身の心の読解者による能力、防衛本能の目覚めという、まあ簡単に言うと~、危険が迫ったんで指定してある所に転移する能力を付与してこれを日本全国の中学校に全校生徒に行き渡るように寄付した方です。これによって、もし危ない事態が起きても大丈夫な訳です』
『まあ、空間遮断の能力を使われたら意味無いんだけど』
『そんなこと言っている間に、もう戦闘が始まっているみたいです!』
しかし、実況しようとした美奈子はモニターに映る光景を見て、マイクを落としてしまう。
『なぁ……!』
蔵之介もまた、言葉を失ってしまった。
「「「なんだよ……、これ」」」
生徒の中からも驚愕の声が聞こえてくる。
多くの生徒や先生達を驚かせたのは……、召喚士であった。
「我等の声に応じ給え、我等の主よ」
「主に欺く愚かな神々に付き従う者共を蹂躙せよ」
「火を崇める者共に、悪の象徴となったかつての支配者」
「おいでませ、さあ、おいでませ。ここは主の贄がある」
「愚かな生娘の贄を捧げましょう」
「顕現せよ……。アジ・ダハーカ!」
六芒星で構築された魔方陣が眩しいほどの光を放ち、禍々しいオーラを纏わせた、三ツ首の龍がその姿を現わす。
「後は任せて……」
「うん、お願い」
「頼んだわ、お姉ちゃん」
3人のうち、1人を残してインカムを作動させ、退場する。
「はあ……。今日だけはジャンケン負けたくなかったな……」
『召喚士、まさかの神話級の魔獣を召喚しました!こっ、これには驚愕して言葉を失ってしまいますね』
『そう、ですね。いやはや、学生でこれだけのものを召喚できるとは……。近頃の若者には驚かされてばかりですな~』
はっはっはっ、と蔵之介は笑うが、他の教員は彼女等の才能に己の無力さを痛感しただ見ているだけであった。
『え~っと、彼女等は三つ子の姉妹で全員が同じ召喚系の能力で、3人じゃないとどんな低級召喚獣も召喚できないそうです。ですが!現役の方々でも3人で行う三人重詠唱で神話級の魔獣を召喚できるのは数少ないでしょう!間違いなく、この3人は、我が校を代表する能力者であることは言わずともわかるでしょう!』
『三人重詠唱も1人ではなく、3人で行いますからだれか1人でもミスを犯してしまうと失敗して暴走することもある高等技術です。私が知っている人でも、非常時に一か八かの賭けでしか行いません。それほど彼女たちはお互いを信頼し合い、練習を積んできたのが分かります』
(はぁ……。きっとあっちじゃ3人が信頼し合っているとか言ってんだろうなー。絶対、暴走する危険が~、とか大して危険じゃないことも言ってんだろ?一番危ないのはさ~……)
「1人で召喚獣を使役しないといけないことなんだけどね!アジ・ダハーカ!死に滅せ!己は汝の名を縛る者、篠原伊代!己の命に応えよ」
猛々しい咆哮を周囲に轟かせ、3つの鎌首を持ち上げ、
「絶対悪!」
フィールド全域に毒霧を撒き散らす。
すると、インカムから、
「おい!テメエ伊代!やるならやるって言えって何度も言ってんだろうが!」
「だってねぇ、我が王に一番の召喚獣を出せって言われてんだもん。というより、さっさと慣れてよ、超越した存在リーダーのアリアス・ジュノさん」
「五月蝿え!こっちは抗体持ってるけどよ、効き出すのに時間かかるんだよ!はぁ……、何で妹のほうじゃねえんだよ」
「む、カチンとくる言い方ですね。別に貴女はこの毒効かないからいいじゃないですか」
「そういう問題じゃねえ!うちの後輩に迷惑かけてんじゃねぇ!」
超越した存在のリーダー、アリアスがインカム越しに喚きながら、文句を口にする。
「いいか、こっちはテメエと違って召喚獣に守られていないし、後輩2人抱えてんだよ!まず第一に抗体持ってたとしても効き出す時間に遠距離攻撃されたら、詰むんだよ!何も考えないでやってるどっかの誰かさんとは違って、色々と役割があんだよ!」
「何も考えてないって何よ!」
「考えてねえだろ!」
この調子でギャンギャン2人が騒いでると、
「……いい加減に、しろぉぉ!」
「ひっ!」
「はっ、はいい!」
我慢の限界に達したのか、沙優が怒鳴る。
「アリアス!敵の地点と、一番近い部隊のナビゲート。伊代は、3分後に毒霧の濃度を限界レベルまで上昇させる。分かった?」
「「りょ、了解……」
2人は沙優に怒鳴られ、シュンとなりながら自らに指示された指令を全うしようと行動し始める。すると、
「ん?なぁ!救いを示す聖職者戦闘態勢に入れ!囲まれている。いつの間に……。いや、どうやってこんなに距離を……?」
アリアスに言われ、急いで戦闘態勢に入る救いを示す聖職者。その周りには、無数の骨兵士。
アリアスと伊代が口喧嘩を始める数分前、寧々が作ったガスマスクを装着した命音がさらに、寧々に一つの物を創るように依頼していた。
「創作依頼。寧々、対象の動きを加速する道具を作って。早急に」
「いきなりだけど、了解!対象は命音で良いの?」
「否定。私達に一番近い部隊。骨だけの舞踏会を使って迎撃する」
「オーケー、出来たよ。私達に一番近い部隊の上空に浮かばせて、一定距離になるまで移動速度を上げる、ドローン型のメカだ!」
ドーンと自分で効果音を言いながら命音に説明する寧々。そして意気揚々として、発明品を作動する。さほど音を立てずに、霧の中からでは目視することは出来ないほど上空へ上昇する。
「骨の舞踏会」
命音が右手を上げると、地中から人骨が大量に湧き出る。
「……ねぇ、その骨ってどこから出てきているの?」
「不明」
「……そう、なんだ。あっ、作動し始めたよ。じゃあ、作戦開始だね!」
骨兵士に周囲を包囲された救いを示す聖職者の1人は、新約聖書を取り出し、
「彷徨えし悪しき魂よ。主の名の元に引導する。我が名はイギリス正教会、クロエ・セレシベール。智天使ヨフィリムの名を冠する者!光あれ」
と、兜を脱ぎ捨てながら、声高々に名乗るクロエ。インカムからは、
「4時の方向、13メートル先に敵がいる。キツイことだとは分かっているけど、どうにかして突破して」
と、アリアスがそう指示してくる。
するとクロエは、胸元から十字架を取り出し、
「恵みあふれる聖マリア、主はあなたとともにおられます。主はあなたを選び、祝福し、あなたの子イエスも祝福されました。神の母聖マリア、罪深いわたしたちのために、今も、死を迎える時も祈ってください。アーメン」
と、天使祝詞の一節を唱える。
「さあ、行きましょう。主は我等と共に」
「力天使マトリエルの恩寵を受けし日本正教会、土岐総司。神は貴方達をお許しになります。救いの手をお取りなさい」
「同じく日本正教会、エクソシスト海原泰。神の名の元に悪魔よされ!」
3人は、腰から両刃の剣を取り出すと剣先を合わせると、
「主は貴方の罪を浄化する。聖なる光」
眩い光が一筋、骨兵士達を包み込むように走る。そして、光が通り過ぎていくと、がしゃがしゃと音を立てて骨兵士達が崩れていく。
すると、先程までただ包囲しているだけだった骨兵士達は次々とクロエ等に襲いかかる。3人は剣を使って立ち合うが、数が多い。次第に追い詰められていくが、唐突に泰が、
「一度攻撃をやめて下さい!」
と、他の2人に向かって叫ぶ。
「馬鹿なことを言うな!やられるのが分からぬのか」
「いいから、一旦攻撃の手をやめて下さい!」
だが、それでも骨兵士を攻撃する2人。痺れを切らした泰は、剣を鞘に納めた。
「!?何をしている。早く剣を取るんだ!」
「泰!」
2人は泰にそう叫ぶ。そして、骨兵士はそんなことを見逃す筈もなく、
「泰ーーーー!」
泰に剣を向けるのをやめ、2人の方へ向かってくる。
それを見て、2人は急いで剣を鞘に納める。
「どういう、ことなんだ?もしかして、泰、貴方の能力、なのですか?」
「いいえ、そういえば2人にも教えてませんでしたね。僕の能力は真意対象の意図を見抜く能力です。それを使ったら、この骨兵士達は自己防衛だけする自動式人形のようだったので、我々が何もしなかったら何もしないようです」
「でも、なんでお前は能力を隠してたんだ?」
「私達に教えないということは、それなりの理由があるのでしょう?」
「いや~、この能力っていわば相手がしたいことが分かってしまうんで、ゲームに混ぜて貰えないんですよ。他にも色々とあったもんで」
「そ、そうですか……。はぁ……。(どうでもよかった)そんなことより、そこにいる方を倒しましょうか」
クロエが剣先を木に向ける。すると、木陰から命音が姿を現わす。
「賞賛。あれの性能に気づくとは思わなかった。敬意を表して、私の本気を見せたげる。制するは我が右手。私と踊りましょう」
一体の漆黒の人形を操りながら。
『おお~っと、どうやら救いを示す聖職者と、機械仕掛けの戦姫が接触したぁぁぁぁぁぁぁ!3対1のこの状況で、お互いがどう仕掛けるかが、勝敗の鍵となるのではないでしょうか」
『今まで十操命音は、一切自分では戦闘を行っていませんでしたが、その身のこなしはどう見ても戦闘慣れしているかのようです』
『確かにそうですね。ですが、それ以上に藍川寧々さんの方が気になります!日本の無数にあるチームの中でも唯一と言っていいほど少ない、戦闘に参加するサポーター。彼女はほとんどカメラに映ったことがありませんが、命音さんのサポート道具を作るだけでなく、罠や、武器、地形変形などさまざまな分野にて、命音さんをサポートしてます。今回はどんなことをするのか目が離せません!』
『でも、彼女全然カメラに映らないんだよね?』
『あ、そうでした』
あははは、と美奈子が笑うとつられて多くの生徒が笑う。
一方、命音とクロエ達はお互いに距離を取りながら相手の出方を伺っていた。
「救済」
クロエ達は剣先から光を放ち、それを命音が人形を使って防ぐ。
「本気を出すと言った割には何もしないですね。先程のはハッタリだったのですか?」
「失笑。3人がかりでも何も出来てない貴方達には言われたくない」
「な、なんだと……」
「登時。怨みの支配に抗う者なし」
鋼剣の人形を構成する五本の刃を三人に向けて飛ばす。
「!?何か仕掛けてきます!警戒して下さい」
「主の盾。そして、浄火!」
光の障壁が五閃の刃を拒み、浄化の焔が命音の四肢を焼き焦がす。タンパク質が焦げる悪臭が辺りに立ち込む。そして、炎がより一層高く舞い上がり、汚れ一つ着いていない命音の姿が現れる。
「ば、馬鹿な!この技はどんな相手でも焼き焦がすことができる!それに全身を焼かれるのに対して命に危険が無いと感じるなど有り得ぬ!有り得る筈が無い!」
「どんな覚悟を……、いえ、何を代償にすればこの勝利への執念を手に入れたのですか!」
彼等の叫びを浴びながら、少女は無表情で彼等を見つめていた。
少し大袈裟な実況がステージに響き、巨大な液晶画面で観戦する生徒たちを盛り上げる。
『えーっと、ステージの説明をします。森林地帯ステージは30×30平方キロメートルの、超巨大ステージ。しかも今回は、濃霧が発生しており、さらに視界が悪くなっています。ステージには、川が三本流れており、一応食用の魚が生息しています。あとは……、無いね!では、本校校長であり、名誉能力者の佐々木蔵之介校長がルール説明を行います。どうぞ』
『相手を殺してしまうかもしれない技は使わないこと。サレンダーする時は、サポーターが判断して下さい。今日の日没までに決着がつかない場合、後日再戦を行います。以上でルール説明を終わります。両チーム、指定された位置について下さい』
『指定された位置について下さい』
「始まっちゃうな、命音ちゃん」
寧々は少し、怯えたような声で言う。さらに、体が震えている。
「ごめん、ね。怖いんだ。なんかよくわかんないやけど、悪いことが起きそうで……」
「警告受諾。でも、今は敵を倒すことだけを考える。制するは我が右手」
命音は、糸で体を補強する能力を使い、臨戦態勢に入る。
そして、
「制するは我が右手」
鋼の剣の四肢を持つ人形を操り、ウォーミングアップと称して、刺突、薙ぎ払いなど、あらゆる動きを行う。
「動作良好。私がこれを使う時は絶対負けない。……貴女がくれた物だから。それに、いざとなったら、あれがある。だから、大丈夫」
「でもあれは!……あれは、本当に何かあった時のための!」
『では、始め!」
寧々の声を遮るように、開始の合図が聞こえる。
「戦闘開始。ねえ、寧々。お願い、私が勝つことを信じて」
「……いや。貴女が無事に帰ってくることしか信じない」
「……」
命音は、寧々に背を向けると、森林の中に入りだし、
「……ありがとう」
寧々に届くか否かという大きさで、小さく呟く。それを見送る少女は、目に小さな滴を浮かべながら、輝くような笑顔でいた。
『では、始め!」
「じゃあ、行くよお前達!猛々しい者共と、救いを示す聖職者は予定通り、それぞれのルートを直進。召喚士は、己が一番の召喚獣を召喚し、超越した存在は、我々、道を指し示す王とともに、敵の居場所まで、直進せよ!」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
威勢の良い声がこだまし、それぞれのルートを進んで行く。
そして、道を指し示す王の先頭に立つ、女生徒、小野寺沙優は、装飾を施した槍聖人殺しの一突きを手にし、背中を預ける友の顔触れを眺める。
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沙優の暗い表情を見てか、一人がそう言った。
「……勿論だとも。我等は王である。負けてたまるか」
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「「「「「「「「「「うおおおおおおおお!」」」」」」」」」」」
『はい、ここで先程は全く紹介しなかった校長先生の紹介を致します。えーっと、校長先生は、耳にかけるインカムに、ご自身の心の読解者による能力、防衛本能の目覚めという、まあ簡単に言うと~、危険が迫ったんで指定してある所に転移する能力を付与してこれを日本全国の中学校に全校生徒に行き渡るように寄付した方です。これによって、もし危ない事態が起きても大丈夫な訳です』
『まあ、空間遮断の能力を使われたら意味無いんだけど』
『そんなこと言っている間に、もう戦闘が始まっているみたいです!』
しかし、実況しようとした美奈子はモニターに映る光景を見て、マイクを落としてしまう。
『なぁ……!』
蔵之介もまた、言葉を失ってしまった。
「「「なんだよ……、これ」」」
生徒の中からも驚愕の声が聞こえてくる。
多くの生徒や先生達を驚かせたのは……、召喚士であった。
「我等の声に応じ給え、我等の主よ」
「主に欺く愚かな神々に付き従う者共を蹂躙せよ」
「火を崇める者共に、悪の象徴となったかつての支配者」
「おいでませ、さあ、おいでませ。ここは主の贄がある」
「愚かな生娘の贄を捧げましょう」
「顕現せよ……。アジ・ダハーカ!」
六芒星で構築された魔方陣が眩しいほどの光を放ち、禍々しいオーラを纏わせた、三ツ首の龍がその姿を現わす。
「後は任せて……」
「うん、お願い」
「頼んだわ、お姉ちゃん」
3人のうち、1人を残してインカムを作動させ、退場する。
「はあ……。今日だけはジャンケン負けたくなかったな……」
『召喚士、まさかの神話級の魔獣を召喚しました!こっ、これには驚愕して言葉を失ってしまいますね』
『そう、ですね。いやはや、学生でこれだけのものを召喚できるとは……。近頃の若者には驚かされてばかりですな~』
はっはっはっ、と蔵之介は笑うが、他の教員は彼女等の才能に己の無力さを痛感しただ見ているだけであった。
『え~っと、彼女等は三つ子の姉妹で全員が同じ召喚系の能力で、3人じゃないとどんな低級召喚獣も召喚できないそうです。ですが!現役の方々でも3人で行う三人重詠唱で神話級の魔獣を召喚できるのは数少ないでしょう!間違いなく、この3人は、我が校を代表する能力者であることは言わずともわかるでしょう!』
『三人重詠唱も1人ではなく、3人で行いますからだれか1人でもミスを犯してしまうと失敗して暴走することもある高等技術です。私が知っている人でも、非常時に一か八かの賭けでしか行いません。それほど彼女たちはお互いを信頼し合い、練習を積んできたのが分かります』
(はぁ……。きっとあっちじゃ3人が信頼し合っているとか言ってんだろうなー。絶対、暴走する危険が~、とか大して危険じゃないことも言ってんだろ?一番危ないのはさ~……)
「1人で召喚獣を使役しないといけないことなんだけどね!アジ・ダハーカ!死に滅せ!己は汝の名を縛る者、篠原伊代!己の命に応えよ」
猛々しい咆哮を周囲に轟かせ、3つの鎌首を持ち上げ、
「絶対悪!」
フィールド全域に毒霧を撒き散らす。
すると、インカムから、
「おい!テメエ伊代!やるならやるって言えって何度も言ってんだろうが!」
「だってねぇ、我が王に一番の召喚獣を出せって言われてんだもん。というより、さっさと慣れてよ、超越した存在リーダーのアリアス・ジュノさん」
「五月蝿え!こっちは抗体持ってるけどよ、効き出すのに時間かかるんだよ!はぁ……、何で妹のほうじゃねえんだよ」
「む、カチンとくる言い方ですね。別に貴女はこの毒効かないからいいじゃないですか」
「そういう問題じゃねえ!うちの後輩に迷惑かけてんじゃねぇ!」
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「いいか、こっちはテメエと違って召喚獣に守られていないし、後輩2人抱えてんだよ!まず第一に抗体持ってたとしても効き出す時間に遠距離攻撃されたら、詰むんだよ!何も考えないでやってるどっかの誰かさんとは違って、色々と役割があんだよ!」
「何も考えてないって何よ!」
「考えてねえだろ!」
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「……いい加減に、しろぉぉ!」
「ひっ!」
「はっ、はいい!」
我慢の限界に達したのか、沙優が怒鳴る。
「アリアス!敵の地点と、一番近い部隊のナビゲート。伊代は、3分後に毒霧の濃度を限界レベルまで上昇させる。分かった?」
「「りょ、了解……」
2人は沙優に怒鳴られ、シュンとなりながら自らに指示された指令を全うしようと行動し始める。すると、
「ん?なぁ!救いを示す聖職者戦闘態勢に入れ!囲まれている。いつの間に……。いや、どうやってこんなに距離を……?」
アリアスに言われ、急いで戦闘態勢に入る救いを示す聖職者。その周りには、無数の骨兵士。
アリアスと伊代が口喧嘩を始める数分前、寧々が作ったガスマスクを装着した命音がさらに、寧々に一つの物を創るように依頼していた。
「創作依頼。寧々、対象の動きを加速する道具を作って。早急に」
「いきなりだけど、了解!対象は命音で良いの?」
「否定。私達に一番近い部隊。骨だけの舞踏会を使って迎撃する」
「オーケー、出来たよ。私達に一番近い部隊の上空に浮かばせて、一定距離になるまで移動速度を上げる、ドローン型のメカだ!」
ドーンと自分で効果音を言いながら命音に説明する寧々。そして意気揚々として、発明品を作動する。さほど音を立てずに、霧の中からでは目視することは出来ないほど上空へ上昇する。
「骨の舞踏会」
命音が右手を上げると、地中から人骨が大量に湧き出る。
「……ねぇ、その骨ってどこから出てきているの?」
「不明」
「……そう、なんだ。あっ、作動し始めたよ。じゃあ、作戦開始だね!」
骨兵士に周囲を包囲された救いを示す聖職者の1人は、新約聖書を取り出し、
「彷徨えし悪しき魂よ。主の名の元に引導する。我が名はイギリス正教会、クロエ・セレシベール。智天使ヨフィリムの名を冠する者!光あれ」
と、兜を脱ぎ捨てながら、声高々に名乗るクロエ。インカムからは、
「4時の方向、13メートル先に敵がいる。キツイことだとは分かっているけど、どうにかして突破して」
と、アリアスがそう指示してくる。
するとクロエは、胸元から十字架を取り出し、
「恵みあふれる聖マリア、主はあなたとともにおられます。主はあなたを選び、祝福し、あなたの子イエスも祝福されました。神の母聖マリア、罪深いわたしたちのために、今も、死を迎える時も祈ってください。アーメン」
と、天使祝詞の一節を唱える。
「さあ、行きましょう。主は我等と共に」
「力天使マトリエルの恩寵を受けし日本正教会、土岐総司。神は貴方達をお許しになります。救いの手をお取りなさい」
「同じく日本正教会、エクソシスト海原泰。神の名の元に悪魔よされ!」
3人は、腰から両刃の剣を取り出すと剣先を合わせると、
「主は貴方の罪を浄化する。聖なる光」
眩い光が一筋、骨兵士達を包み込むように走る。そして、光が通り過ぎていくと、がしゃがしゃと音を立てて骨兵士達が崩れていく。
すると、先程までただ包囲しているだけだった骨兵士達は次々とクロエ等に襲いかかる。3人は剣を使って立ち合うが、数が多い。次第に追い詰められていくが、唐突に泰が、
「一度攻撃をやめて下さい!」
と、他の2人に向かって叫ぶ。
「馬鹿なことを言うな!やられるのが分からぬのか」
「いいから、一旦攻撃の手をやめて下さい!」
だが、それでも骨兵士を攻撃する2人。痺れを切らした泰は、剣を鞘に納めた。
「!?何をしている。早く剣を取るんだ!」
「泰!」
2人は泰にそう叫ぶ。そして、骨兵士はそんなことを見逃す筈もなく、
「泰ーーーー!」
泰に剣を向けるのをやめ、2人の方へ向かってくる。
それを見て、2人は急いで剣を鞘に納める。
「どういう、ことなんだ?もしかして、泰、貴方の能力、なのですか?」
「いいえ、そういえば2人にも教えてませんでしたね。僕の能力は真意対象の意図を見抜く能力です。それを使ったら、この骨兵士達は自己防衛だけする自動式人形のようだったので、我々が何もしなかったら何もしないようです」
「でも、なんでお前は能力を隠してたんだ?」
「私達に教えないということは、それなりの理由があるのでしょう?」
「いや~、この能力っていわば相手がしたいことが分かってしまうんで、ゲームに混ぜて貰えないんですよ。他にも色々とあったもんで」
「そ、そうですか……。はぁ……。(どうでもよかった)そんなことより、そこにいる方を倒しましょうか」
クロエが剣先を木に向ける。すると、木陰から命音が姿を現わす。
「賞賛。あれの性能に気づくとは思わなかった。敬意を表して、私の本気を見せたげる。制するは我が右手。私と踊りましょう」
一体の漆黒の人形を操りながら。
『おお~っと、どうやら救いを示す聖職者と、機械仕掛けの戦姫が接触したぁぁぁぁぁぁぁ!3対1のこの状況で、お互いがどう仕掛けるかが、勝敗の鍵となるのではないでしょうか」
『今まで十操命音は、一切自分では戦闘を行っていませんでしたが、その身のこなしはどう見ても戦闘慣れしているかのようです』
『確かにそうですね。ですが、それ以上に藍川寧々さんの方が気になります!日本の無数にあるチームの中でも唯一と言っていいほど少ない、戦闘に参加するサポーター。彼女はほとんどカメラに映ったことがありませんが、命音さんのサポート道具を作るだけでなく、罠や、武器、地形変形などさまざまな分野にて、命音さんをサポートしてます。今回はどんなことをするのか目が離せません!』
『でも、彼女全然カメラに映らないんだよね?』
『あ、そうでした』
あははは、と美奈子が笑うとつられて多くの生徒が笑う。
一方、命音とクロエ達はお互いに距離を取りながら相手の出方を伺っていた。
「救済」
クロエ達は剣先から光を放ち、それを命音が人形を使って防ぐ。
「本気を出すと言った割には何もしないですね。先程のはハッタリだったのですか?」
「失笑。3人がかりでも何も出来てない貴方達には言われたくない」
「な、なんだと……」
「登時。怨みの支配に抗う者なし」
鋼剣の人形を構成する五本の刃を三人に向けて飛ばす。
「!?何か仕掛けてきます!警戒して下さい」
「主の盾。そして、浄火!」
光の障壁が五閃の刃を拒み、浄化の焔が命音の四肢を焼き焦がす。タンパク質が焦げる悪臭が辺りに立ち込む。そして、炎がより一層高く舞い上がり、汚れ一つ着いていない命音の姿が現れる。
「ば、馬鹿な!この技はどんな相手でも焼き焦がすことができる!それに全身を焼かれるのに対して命に危険が無いと感じるなど有り得ぬ!有り得る筈が無い!」
「どんな覚悟を……、いえ、何を代償にすればこの勝利への執念を手に入れたのですか!」
彼等の叫びを浴びながら、少女は無表情で彼等を見つめていた。
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