願わくば、

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「もう、お前いらねぇ。」

君がそう言うから、僕は

「わかった。」

と、縋ることなく物分かりの良い人間だったと思われたくて素直に受け入れた。
そして君はもう用はないとばかりに踵を返して、去って行く。

終わって、しまったんだ。
独りよがりの、滑稽な恋が。

最後はこうなる事なんて分かっていたはずなのに、胸がぎゅうぎゅうと押しつぶされそうなぐらい痛い。
だけど不思議と涙は出てこなくて、最初から諦めていたのかななんて自嘲した。

初めからこの恋は始まってなんかいなくて、僕がただ独り相撲していただけだった。
好きな人が出来るまででいい。
飽きたら捨てればいい。
都合の良い時だけでいい。
そう言って付き合ってもらった関係なんだし、傷つくなんてお門違いだ。

ああ、最初からやめておけばよかった。見ているだけで良かったのに、欲を出してしまったから。

「…痛い…」

ズキズキと痛む胸を誤魔化しながらポツリと呟いた声は、思いの外誰もいない教室に響いた。

*
明くる日、憂鬱な気分で教室に行けばなんだか久しぶりに会ったような友達に「どうした?」なんて心配されて大丈夫だと言う声を無視され無理矢理保健室へと連行される。

「大丈夫なのに…」

「なーに言ってんだよ。最近全然喋れねーからつまんねーと思ってたのにやっと話せたと思ったら、めっちゃキツそうだし。放っとけねーよ!」

ガシガシと力強く頭を撫でられ「…痛い」と抗議の声をあげれば「わりーわりー」と全く悪びれない謝罪の声が届く。
もう…とぐしゃぐしゃになった髪を戻していると「取り敢えず休んどけよ。せんせーには俺が言っとくし」とベッドに倒され布団をかけられた。

「…わかったから、早く戻りなよ。授業始まっちゃうよ」

「へーへー。んじゃ、体調良くなったら連絡くれよな!」

じゃ!と手を挙げて走って行く後ろ姿にふふっと少しだけ笑みをこぼせば隣のベッドから「…もう次の男見つけたのかよ」と低い声が聞こえてきてビクッと体が竦む。

なん、で…。

「なぁ。流石、尻軽は違ぇな?」

「…っ…」

どうしてそんな事言うの。好きになったのなんて、君だけなのに。
僕、こんなに嫌われてたの?こんな、こんなに…!

「…おい、何とか言えよ!!」

「ひっ……ぃ、ゃ…」

近づいてくる相手にガクガクと震えが止まらず声も出せなかった。
震える手と足を動かしてベッドから抜け出し、やっとの思いで保健室から出る。

整わない息のままとにかく遠くへと走り出し、流れる涙も気にせず走り続けた。

好きなだけだったのに。それさえも迷惑だったのかな。
だから、あんな…。

鍵の開いた空き教室を見つけ、そこに逃げ込んだ。

「…ひぐっ…ふ、…っ…ひっ…」

もう、もう嫌だよ。

浅くなる呼吸。

遠のく意識。

「…も、つかれた…」

願わくば、目が覚めたときに夢であれと。

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