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写真

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ふと思い立って片付けをしていた時、恋人である公彦の部屋にある棚で写真立てが倒れていることに気付いた。


「何かの拍子に倒れたのか?」


首を傾げながらその写真立てを手に取って俺は言葉を失った。


「……俺は身代わりだったってこと?」


写真には俺そっくりの人があいつの横で幸せそうに笑っていて、あいつもその人を愛しい、とそんな表情で見ているものが写っていた。

頭の中がぐるぐるして脚の力が抜ける。

この人に、俺が似てたから。
俺を通してこの人を見ていた?
俺なんか、本当は愛してなかった…?

そう、そうだよな。
おかしいと思っていたんだ。
俺の気にしすぎだと思っていたけど、やっぱりそうだったんだ。

じゃあ、もう真実を知ってしまった身代わりなんて価値ないじゃん。


「は、はは……ばっかみてぇ……」


ズキズキと痛む胸を無視して、写真立てを戻す。
先程と同じように、ではなくちゃんと写真が見えるように。

この人がもし亡くなっているのなら、こんなの酷いと思った。
亡くなってないとしても大事な写真なら倒さないで欲しい。
別に隠さなくてもいいのにな。


「……ごめんなさい。でも、俺、分かってます。ちゃんと終わらせます」


だから、今日だけは一緒に笑わせて下さい。

写真を暫く眺めて、頭を下げて部屋を出た俺は夕ご飯の支度を始めた。





ガチャっと玄関の扉が開く音がした後いつもと同じ、明るい声が届く。


「ただいま~。おっ今日は肉じゃがか?って、俺の好きなものだらけだな!今日って何かあったか?も、もしかして記念日だったか!?」
「なーに言ってんだよ。ただ公彦の好きなもの作っただけだっつの。風呂も沸いてるけど……どっち先にする?」
「んーゆっくり味わいたいし……急いで風呂に入ってくる!」


ダッシュで風呂場に向かう公彦に「着替え持ってくからー」と声をかけてお皿にラップをかける。


「……はぁ。俺、ちゃんといつも通り出来てたかな。……最後、最後なんだ。泣くなよ」






「は~今日のご飯も美味しかった……。アキラは本当に出来た奥さんだなぁ」
「奥さんって……ばーか」
「……旦那さんに向かってそんな口聞くのはこの口か?」
「ちょっ…んぅ…っぁ……き、みひこっ…ァンッ……おやじくさ……」


冗談めかして言ってきた台詞があまりにも……だったので思わず口に出すと胸を押さえてショックを受けていた。
だからそういうところがおっさんくさいんだよ。

その後ベッドに連れて行かれて散々喘がされた俺はへとへとになっていた。
……俺歩けるかな。

くるん、と横を向いてぐーすか寝ている公彦の顔をまじまじと見つめる。
…すっかり騙されてたな。全然身代わりだなんて思いもしなかった。
変だな、とは思っていたけど。


こいつとの出会いって、今思い返せば変だったな。



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