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魔法学園
21歩
しおりを挟む時は過ぎ、俺は5歳の誕生日を迎えた。
…また俺の誕生日を祝うパーティーが開かれるんだけど、今日は母さん曰く本番らしいから俺は朝からずっと緊張しっぱなしだ。
「…はぁ…」
「……ふふ、フェリチタってばずっと溜息ばかりね」
「ねっ姉様…!えっと、これは…そのっ…」
「いいのよ。私もフェリチタぐらいの時はいつも嫌だったもの」
「…姉様もですか?」
「ええ」
何度目になるか分からない溜息を吐いた時後ろからくすくすと軽やかな笑い声が聞こえ、俺はびっくりして後ろを振り向くと優しい笑みを浮かべた姉さんが立っていた。
でも、そっか。何もかも笑顔で受け入れている姉さんでさえ、嫌だったんだ…。だってまだ5歳だもんね。
「…そういえば、姉様はどうしてここに?」
「フェリチタにこれを渡しに来たのよ。…誕生日、おめでとう」
「えっ!?…ありがとうございます!……きれい…」
「これは隣の国に出かけた時に見かけて…フェリチタにとてもお似合いだわと思って。どうかしら?」
姉様がくれたのはガラス細工のような見た目のピアスだった。この世界では幼少期からピアスを開ける事は普通の事で、皆必ず1つは穴があいている。魔力の制御も出来るピアスもあるから、それで制御している魔族もいるらしい。
因みにこの渡されたピアスは魔力を溜める事が出来る物らしい。今は姉さんの魔力が溜まっているらしく綺麗な青だ。
それをぎゅっと手に包んで俺は姉様に満面の笑みを向ける。
「僕、大切にします…!…あっ今からつけます!」
「今じゃなくてもいいのよ?」
「僕がつけたいんです!」
いそいそと今つけているピアスを外して姉様から貰ったピアスにつけかえる。
青って事は姉さんは水属性なのかな。…みんな家にいると魔法なんて使わないから見た事ないんだよね。
学園に行けば沢山見れるかな…ふふ、楽しみだ。
「…どうですか?」
「すごく似合っているわ。…さぁ、もう行きましょうか」
「はい!」
姉さんの後を追いかければ、光りに反射したピアスがキラッと光った。
ーーーー……
…うん、母さんが本番だと言っていた意味がよく分かった気がする。
俺は前のパーティーとは比べものにならないぐらいの人数を目の前に、クラリと目眩がした。
でも今日は終わった後も熱を出す訳にはいかないんだ…何故ならすぐに入学式があるから…。
この世界の入学式は一年に一回の入学式ではなく、半年に一回の入学式なのだ。
前はずっと病院で過ごしていたし、友達なんていなかった。…いてもみんな年下とか、看護師さんとか…同い年の子なんていなかったから俺は今からドッキドキ。
学校ってどんな所なんだろう……ドラマや漫画の中でしか見たことのない生活に想いを馳せているが、今はそれどころではない。
「…なんでこんなに人が多いの…」
思わずポツリとこぼした本音に反応してくれたのは、近くにいたシャル兄さんが俺を一瞥してふんっと鼻を鳴らした。
………イラっとしたけど、兄さんが所謂『ツンデレ』っていうこと俺、知ってるからね!!
「…こんなもので目を回すようでは、この先やっていけないぞ。別に皆に挨拶をする訳でもないのだから緊張するな」
「…はい。…………シャル兄様はこちらにいて、良いのですか?」
「…何がだ」
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なんで俺の側から離れようとしないの!?
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「…お前を今一人にすると、何をしでかすか分かったものではないからな。見張りだ」
「えっでも………あ、いや…なんでもないです」
「今の内に顔と名前をしっかりと把握しておけよ」
この人数をですか!?っていうか、俺の見張りって言ったけどジャグもいるしなんなら姉さんもいるよ!?
ちらっと姉さんを見たら苦笑いが返ってきて、俺は諦める事にした。
…大人しく顔と名前を覚えよう…。
そう思って見ていると、俺と同じ年齢ぐらいの子供と目が合った。
その子供は少し考える素振りを見せた後、にこりと小さく笑みを浮かべてこちらに近寄ってくる。
一方、俺はというとーー…。
「…な、なんでこっちに来るの…」
同じ年齢の子と関わった事がないために酷く狼狽えていた。
助けを周りに求めようとしたが皆笑みを浮かべるだけで助けてくれそうにない。
……急に見捨てないでよ……。
そしてとうとうその子は俺の目の前にやってきて、お辞儀をした後自己紹介をした。
「…こんばんは、フェリチタ様。私は、ウィリアム・シュヴァリエと申します。…フェリチタ様と同じ年齢で、学園では同級生になりますので、よければ仲良くして下さい」
「ご、挨拶ありがとうございます…シュヴァリエ様。こちらこそ、仲良くしてください」
「…どうぞ、ウィリアムと呼んで下さい」
詰まりながらも返した俺にそう言って、ウィリアム様は優しく微笑んだ。
…優しそうな人だなぁ。
「ええと…ウィリアム様?」
「はい。…学園で会える事を楽しみにしておりますよ」
「あ、え、わ、私もです!」
「ふふ、それでは」
去って行ったウィリアム様の背をかっこいい…めっちゃ大人だ…と見惚れるようにぼーっと眺めていると、横からゴホンっと咳払いが聞こえ俺は意識を戻した。いけないいけない。
それにしても……本当に同じ年齢だとは思えない…。
だけど、それ以上に…。
「…えへへ、友達出来た…」
その事実が嬉しくて俺はパーティーが終わってからも緩む頬を抑えることは出来なかった。
友達と呼んでいいのかは分からないけれど、俺の中では勝手にそう思っておこう。それは俺の勝手だよね?
***
とうとう5月が終わってしまいました。あっという間に…。
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