17 / 52
俺、爆誕
13歩
しおりを挟む誰かが泣いている声がする。
「…どこ…?」
ふわふわと浮く身体で泣き声が聞こえてくる方へと向かう。
うーん。暗くてよく分からないなぁ…。
「…っ…ぅ…」
「!!…こっちかなぁ」
キョロキョロと辺りを見渡していると案外すぐ近くから声が聞こえてきたので、急いでそちらへと行けば女の人と男の人…それに、男の子が寄り添うようにして泣いていた。
どうしたんだろう。何か悲しい事があったのかな。
顔を覆って泣いているから誰なのかは分からないけど、慰めることは出来るはずだ。
3人の前に回り込み「どうして泣いているの?」と問いかけても何も返ってこない。
「…困った。どうしたら涙が止まるんだろう」
うーんうーんと頭を悩ませていると女の人が「そう……そうっ……」と何かを言っているのが聞こえてきて耳を済ませば名前を言っているのだとわかった。
「…そう……そう……なんだろう、聞いた事のある名前のような……」
どこで聞いたんだろう。なんだか思い出さなくちゃいけないような気がする。
なんでこんなに胸が痛いんだ。
気付けば俺も涙を流していて拭いても拭いても止まることはなくて、嗚咽を漏らすと温かなものに手が包まれた。
勢いよく顔を上げれば小さな男の子が俺の手を握っていて、その顔は俺のーーー・・・。
「…快……?」
弟だ。
涙をぼろぼろと流しながら無意識に名前を呼べば俺を見ていた顔が破顔して「にいちゃ!」と嬉しそうに言った。
その顔を見て洪水のように記憶が流れ始め、俺は頭を押さえ蹲る。
そう、そうだ……俺は、この人たちの息子で…病気で死んで………なんで、この間まで覚えてたのに忘れちゃってたんだろう……。
母さん、父さん、快……よかった、顔を見れた……。
…あれ?でも、なんで快は俺が俺だって分かったんだろう。
快が気づいたことに母さんと父さんは気づいていないのか、まだ泣いている。
「……なんで、快は俺だって分かったの?というか、なんでここに…」
「にいちゃ、あそぼ」
「…ごめんな、遊びたいけど、遊べないんだ……ごめんなぁ…」
悲しそうに顔を歪めた弟の頭を撫でながら「母さん、父さん…」と声をかければ驚いたように辺りを見渡し始め「爽!?爽なの!?」と声をあげた。
……なるほど。快はまだ小さいから俺が見えるだけで、2人には見えないのか…。
もしかして今の俺は幽霊みたいな感じなのかな。意識だけ…。
うん、姿が見えなくても声が聞こえるなら、それでいいや。
最期に言えなかったことを沢山じゃなくても少しだけでも伝えたい。
「…母さん、父さん……俺、不出来な息子でごめんなさい。2人に何も出来なかった。ずっと、謝りたかった」
「そんな…そんな事ないわ!貴方は、不出来な子なんかではなかったわ!お願い…!少しだけでもいいから、姿を見せて…!」
「爽…お願いだ……快も寂しがっているんだ…もちろん、俺たちも…!」
悲痛な声が響く。
本当に?本当に俺は、不出来な子供じゃなかった?
「俺、2人の子供でよかった。たくさん、たくさん…愛情をくれた。在り来たりだけどさ、みんながいてくれたから俺、生きていけたんだよ。…俺のこと、忘れてほしくなんかないけど…いつまでもこんな風に泣いてたら、俺、心配でたまらない」
だから…。
「…つらいのなら、俺の事なんて忘れてほしいよ。俺、ちゃんと、幸せだったよ。…確かに治療はキツかったし、もう嫌だって何回も思ったけど…それ以上に幸せだった。みんながいてくれたからだよ」
きっと俺は治療中何度も泣き言言ってたと思う。もう嫌だ、やめてほしい、死なせてほしいって。
それぐらいきつくて、しんどかった。どうせ治らないのにこんな事やっても意味がないって、言ってしまった事もある。
そんな事ないって励ましてくれてたけど、その後泣いてたの俺、知ってる。
なのにみんな俺の事見放さずに最期の最期まで見届けてくれて、これが幸せといわず、なんという?
「…母さん、父さん…快。ずっと、ずーーーっと。大好きだよ。だから、もう、泣かないで。笑って生きてほしい。今日はこんな事があったよって、そんな話が聞きたいな」
ね?と笑いかければ見えてない筈なのに目があった気がした。
そしてそのまま手を伸ばされて、え?と思う前に2人に抱きしめられていて俺は目を白黒させた。
あれ!?俺今見えてるの!?や、やだ!恥ずかしい!
「…爽、ずっと私たちの事見ていたの…?」
「……ん」
「はは、恥ずかしいな…大泣きしてるところを見られてたなんて…」
…あったかいなぁ…。
すり、と2人に擦り寄った後離れて2人の顔見たらもう、泣いていなかった。
…その代わりに、笑みが浮かんでいた。
「…うん、その方が断然2人に似合ってるよ。…快もね」
「……にいちゃ、どこいくの?」
「え?…んー…遠いところかなぁ。…あーほら!泣かないの!…ね、快。今度はさ、快が沢山お父さんとお母さんを笑わせてね。にいちゃん、ずっと見てるから」
「…にこーってしたら、ぼく、いい子?」
「うん!とーってもいい子だ!」
わしわしと頭を撫でてやればにへへとかわいい笑顔を見せてくれた。
撫でる手をふと見ればその手が透け始めていて、もうここから出て行かなくちゃいけないんだなと感じた。
改めて父さん、母さん、快の顔を見て笑う。
「父さん、母さん、快!俺、本当に幸せだった!大好きだよ!……ばいばいっ」
どこかへ強く引っ張られる身体を無理矢理抑え込みながら叫べば「私たちもよ!貴方が私たちの子供でよかったわ!もっと、幸せになって…!」と返ってきて、それを最後にぷつんっと意識が途切れた。
47
お気に入りに追加
847
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?


主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる