偽物の僕は本物にはなれない。

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14.(Side:彼方)

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朝起きると、俺の大好きで、大事にしたいと思っていた恋人がお揃いの指輪と共に消えていた。
部屋中どこを探しても指輪は見つからないし、大和もいなくて、コンビニにでも行ったのか?と考えて待ってみたが帰ってくる気配はない。
それに……大和の存在自体がなかったかのような部屋になっていて、俺は何かとんでもない事をやってしまったんじゃないかと呆然とした。

大和は、サークルの飲み会で知り合い、趣味が合う事で急速に仲を深め唯一無二とも呼べる存在だった。親友だと、思っていた。
でも、俺の中での大和の好きレベルが他と違う事に気付いてしまった。

ーー…俺は、大和を恋人にしたい。

だけど大和は多分、俺をただの親友としてしか見てない。それに…男だ。男同士が気持ち悪いと思っているかも知れない。
だから俺はカマをかけてみる事にしたんだ。

男が好きって、どう思う。と。
名前を勝手に挙げた水無月は実は昔からの腐れ縁で、俺が大和を好きだという事も知っている。
でも大和はそれを知らないはずだ。

そして返ってきた答えに安心したのも束の間、俺は奈落の底に突き落とされるような気分に陥っていた。
…大和に好きな奴がいる?しかも、男?
思わず大和に誰だそれはと詰め寄れば適当にはぐらかされてしまった。

名前も知らないような奴に、大和を渡してたまるか!

だから今まで以上に大和に構おうとしていた矢先、俺と同じ名前の男と大和は頻繁に会うようになっていた。
一度、見かけた時凄く楽しそうで、幸せそうな笑みを浮かべていて俺はなんで俺じゃダメなんだと泣きそうになった。

落ち込む俺を水無月は揶揄うように「最近避けられてんの、うける」と俺に伝えてきて、それを痛い程に実感し、分かっている俺は傷口に塩を塗られた気分だった。…まじで水無月は見た目だけだ。本当に。
中身はただの鬼だぞ。

そしてやっと捕まえたと思ったらまたあの男の名前を出した大和にカッとなって、俺と付き合え、なんて言ってしまった。
違う、こんな風に言いたかったんじゃないのに…!
だけど大和は了承してくれて、俺は天にも昇る気持ちだった。
にやにやと締まりのない笑みを浮かべる俺を心底気持ち悪そうに水無月は見て、「あの子本当可哀想…こんな…」と呟く。
こんなってなんだ。こんなって。

合鍵を渡して、いつでも来ていいからな、なんて言って。
でも大和は遠慮しいだから毎回律儀にインターフォンを鳴らしてくれる。いつも合鍵忘れるおっちょこちょいな所も好きだけど、1回ぐらいは開けて入ってくる所見たかった…。
まあ、でもまだ先は長いしいつでも見れるか。

そう思っていたのに。

時々行っていた大和の家は、入居者募集と書かれていて大和はそこにいなかった。…え、あれ?引っ越すとか、言ってたっけ…。
いや、おっちょこちょいな大和の事だ、多分言った気になってる。それしかない。

ってか、連絡を先にしろよ、俺。

スマホを取り出して履歴をみる。大和とはいつも連絡してるからな。すぐに見つかる。
だけど、大和の名前は1つもなくて。
おかしいな、と思って検索をかけても出てこなくてなんで?俺寝ぼけて消した?と首を傾げた。それから、大和のトークを開いたのに、そこには相手が退出しました。の文字。

…なんで?
なんで、大和がいないの?

ねえ、大和。どこにいるの。
どこ行ってたのなんて怒らないから、教えてよ。

力が入らず、スルリと手からすり抜けたスマホはガシャンッと音を立てて地面に落ちる。

…大和が、いない。それだけが俺の頭の中を占めていた。
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