偽物の僕は本物にはなれない。

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「ごめんね、彼方」

ベッドに投げ出されている腕を辿って、指輪を嵌めている指をそっと掴む。…この大きな手が、大好きだった。僕を力強く抱き締める腕が、好きだった。僕に笑いかけてくれる笑顔が、とても好きだった。

こうやって1つ1つ、気持ちを終わらせていかないといけない。
そうしないと僕はいつまで経っても君を想い続けてしまう。

ボロボロと零れ落ちる涙はそのままに指輪をそっと抜いて、立ち上がる。

「…本当に、本当に好きだった。幸せになってね」

彼方が、本当に好きな人と。

そう言って部屋を後にし、ポストに一度も使うことのなかった合鍵をいれるとカタン、と小さく音が鳴って僕の恋は終わったんだと感じた。

「…呆気なかったなぁ…」

でも、偽物の恋なんてそんなもの。きっと、本物の恋はもっと、もーっと。凄いものなんだろう。
僕はそんなもの一生手に入りそうにもないけど。

多分、これはバチだ。
偽物が本物から奪ってしまった、恋の。
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