偽物の僕は本物にはなれない。

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「…ええ?恥ずかしいから、言わない」
「なっ!…俺は言ったのに…」
「ふふ、嘘だよ。…でも、そうだな……名前は、知らないんだよね」
「名前も知らないのか!?」

僕は誤魔化すことにした。
どっちみち本当の事なんて言えやしないんだし、いくら嘘をついてもいいかなと思って。どうせ興味ないだろうし。

「…たまたま、出会った人で……名前聞くの、忘れてたなぁ。次会ったら聞こう」
「次、って…」
「って、僕の話なんてどうでもいいからさ。水無月さんにどうやってアピールするのさ。学部も違うのに…」
「そ、れは……考えてなかったな」

忘れていた事に動揺しているのか、どこか落ち込んでいるというか…覇気がない。一体突然どうしたんだよ。
…僕の好きな人のイメージ像は、本当に最近カフェでたまたま出会ったサラリーマンのあの人にしよう。
出会ったっていうか、認識した?って言った方が正しいか。
僕の行きつけのカフェによく来るそのサラリーマンはとてもかっこよくて、スタイルもいいモテモテ物件である。

常連の僕を彼も認識しているのか、時々話すようになった。
…名前の事は本当に忘れてたんだけど。

「サークルの人で知り合いの人はいないの?僕も探すの手伝うけど」
「え、あ、いや……自分で、探すし、いい」
「…そう?…あ、そういえば僕今日用事あるんだった。ごめん、もう帰るね」
「…おう、気をつけてな」

彼方の拒絶に僕はほんのちょっとショックを受けていた。
…そうだよね、好きな人には自分で近付きたいよね…。
用事なんて本当はなかったけど、心も頭もぐちゃぐちゃでまともな会話も出来そうにないから彼方の前から逃げたかった。

家に帰ろうと思ったけど、一人で居たくないなと思い直していつものカフェへと足取りを変えた。
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