ヤンキーに飽きたので真面目に生きることにしました

15

文字の大きさ
上 下
28 / 76

2(R18)

しおりを挟む
 僕達は帝都に戻って直ぐに皇后の部屋に案内された。すんなり案内されたのは勇者であるアルバートのお陰だろう。勇者の特権を受けられるのは有り難い。僕は宰相に喧嘩を売った反逆者みたいなものだからね。
 ベットで寝ている女性が皇后か? 国政が忙しいので皇帝も宰相も不在……まぁ、僕にとっては都合が良いのだけど。だけど、付き添っているのがアリシア姫だけなのは少し悲しいな。アリシア姫が僕に向かって真剣な眼差しを向けてくる。言わなくても分かっているさ、キャプテン・ヴァージャスの名に於いて約束したからな。

「リアン!」

 僕は契約した光の精霊リアンを呼び出す。10cm程度の身長の光の翼を生やした女性が僕の胸前に現れる。リアンは出会った時とは異なり、小柄な精霊には不釣り合いなプレートメイルを着ている。僕が好みの服を全く言わないので、一緒にいるクロエの騎士姿が僕の好みだって勝手に思いこんだせいなのだけどね。

「伝説の戦乙女みたいですねっ!」

 アリシア姫が興奮して叫ぶ。姫は素直で良いな……クロエには鎧フェチってからかわれたからね。
 僕が好きなのは鎧じゃないのに……って余計な事を考えている場合ではない。
 皇后にかけられた呪いを解くにはどうすればよい? 光の精霊の力を使うといっても僕は魔法使いではない。リアンが持つ光の力を使いこなすイメージを想像する。
 思い出したのは、ガルファダ王国で目にした圧倒的な命の光ーー邪悪な目的に使われた生命活性魔法『アクティベーション・グリッター』
 それは仲間であったヨーゼフの死の原因となった悲しい思い出の魔法である。だが、生命を活性させる偉大な癒しの力である事には違いはなかった。僕は思い浮かべる。

 ヴェロニカさんが放った生命の輝きを……
 ヨーゼフが自らの命を光と変えた姿を……

 それと頼むよヴァージャス!
 僕が胸前で拳を合わせモスト・マスキュラーのポーズをとると同時に筋肉が爆発的にバルクアップする。
 そして、リアンが僕めがけて飛び込み大胸筋に溶け込む。リアンの光の力が全身に行き渡り筋肉がテカリ始める。
 あの日見た生命の光の様に……輝けっ! 僕の命よ!

『マッスル・グリッター!!』

 僕の筋肉が放つ緑の光が皇后の部屋を満たす。
 呪いなど一片の欠片も残さない様に全てを塗りつぶせっ! 筋肉の輝きよ!
 これで皇后の呪いは解けただろうか?僕は解呪の成果を確認する為に、呪いについて詳しそうなアルバートに視線を送る。

「何をしているんだいケン?」

 予想外の返答をするアルバート。えっ、何って何だろう? いやっ確かに解呪って感じに見えないポーズなのは分かるけど……呪いが解けたかどうかは分かるよね普通は?

「何って、皇后の呪いを解こうとしただけですけど……」

 アルバートの不思議そうな顔を見ていると、段々自信がなくなってくる。依頼内容は皇后の呪いを解くであってるよな?

「ケン、光の精霊を捕まえるのが依頼だよ。わざわざ光らなくても良いのに」

 えっ、まさかアルバートは依頼内容を理解していない? 念のために確認してみるか。

「依頼内容は光の精霊の力で皇后にかけられた呪いを解く事ですよね?」
「なんだ、そんな依頼だったのか。光の精霊を捕まえて欲しいしか聞いてなかったよ。呪いを解くだけなら僕の聖剣ウィッシュ・グランターでも出来る事だよ。ストレートに呪いを解いてって言ってくれれば良かったのに」

 なんだよソレ。あんまりじゃないか! ショウはため息をついているし、クロエは腹を抱えて笑っているじゃないか。

「全く意味がなかったじゃないか! アルバートは天然すぎるよ!」
「ははっ、意味はあるよ。ケンがパワーアップしたじゃないか。それに可愛い奥さんも出来たしね」

 いやいやっ、確かに色々な意味でパワーアップしたけどね。それに奥さんは余計だよ……伴侶とか言ってたのはリアンの精霊ジョークだよ……きっと。はぁっ、張り切って筋肉テカらせた僕の身にもなってくれ。

「お母様っ!」

 声の方向を見るとアリシア姫が皇后に飛びついていた。アルバートと残念な会話をしている間に皇后が目を覚ましたようだ。どうやら僕の筋肉のテカリで呪いが解けたみたいだな。格好悪いけど目的が果たせたなら問題ない。

「呪いが解けても直ぐに体力が回復する訳ではないわ。休ませてあげましょうね」

 クロエの提案を聞いてアリシア姫が皇后から離れる。そして……

「凄いですケン様!!」

 アリシア姫が僕に飛びつく。まったく……誰構わず飛びつくとはね。皇后にも飛びついてたし、アリシア姫の性格なんだろうけど、男の僕に飛びついたら勘違いされるよ。

「あらっ、ケンが浮気してる!」
「何よこの女っ! 気安く近づかないでっ!」

 ほらっ、クロエとリアンが面倒な事を言い始めているじゃないか。まぁ仕方がないかな。母親が呪われて、ずっと不安な思いをしていたのだ。不安を払拭するのもスーパーヒーローの役目さ。だからアリシア姫を片手で抱き抱えて高らかに宣言する。

「もう大丈夫だ! キャプテン・ヴァージャスがここにいる!」

 僕は空いた手で自身の大胸筋を指す。
 胸にはヴァージャススーツの黄色いVとJの文字が誇らしげに輝いていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【番】の意味を考えるべきである

ゆい
BL
「貴方は私の番だ!」 獣人はそう言って、旦那様を後ろからギュッと抱きしめる。 「ああ!旦那様を離してください!」 私は慌ててそう言った。 【番】がテーマですが、オメガバースの話ではありません。 男女いる世界です。獣人が出てきます。同性婚も認められています。 思いつきで書いておりますので、読みにくい部分があるかもしれません。 楽しんでいただけたら、幸いです。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

処理中です...