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空を満たす何か

ずっと抱えてきた怒りを手放すって本当に苦しいんだ

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そうして勝手に語る一人と、警戒する二人をよそに爆睡してました。だって眠かったんだもん。人間、慣れればどこでも寝れるものだ。

朝日がようやく顔を出した頃、再びラヴァルさんがやってきた。
「おはようございます。」

取り敢えず寝起きでぼーっとした頭で挨拶を返した。アノーリオンとツニートは既に起きて、露骨に敵意を表している。表面上だけでも従順にするのはやめたんだね。

というかラヴァルさんは何しにきたの?まだ話したりないとか…?

「ララに聞きたいんです。貴方の理想の王とはどんな姿ですか。」

朝っぱらから聞くことはそれか。

「理想の王…?見ず知らずの人のために苦労を厭わず笑って行動出来る人…が素敵だと思います…。」

ちなみに、『世界で一番貧しい大統領』と呼ばれた海外の大統領が私の理想の政治家だ。

言うだけ言って再び寝ました。朝日が昇ってすぐだから、朝の四時くらい?いくらなんでもお喋りするには早すぎる。

独裁政治じゃなきゃいいんじゃない?とも思ったけど、そもそも民主主義やら社会主義という言葉も存在してない可能性に思い至って、言うのはやめました。説明できる気がしないし…。

その後も一日中、ラヴァルさんは物言いたげにそわそわと私を見ていたが、私は向こうから話し掛けられない限り、私からラヴァルさんに話し掛ける事はしなかった。

私にとってのラスボス戦復讐はもう終わったのだ。

更に出てきたラスボスを倒す気力も体力も、もうない。

人間はどんな状況でも慣れるものだ。怒りを持ち続けても、そのうち怒りを抱えた状況に慣れ、抱えていた怒りの存在は過去のものになる。いや、のだ。経過する時間と、己の生存本能によって。

復讐を望むツニートやアノーリオンには悪いとは思う。

でも私はもう、心穏やかに過ごしたかった。異世界人だなんだと、心を乱されたくなかった。





そうしてラヴァルさんが勝手に独白して行った後。

ラヴァルさんは別人のように変わった。あれだけ世界を掌握する為に手段も厭わなかった人が、これまで脅迫してきた人達を解放し、彼らに頭を下げた。彼らの協力を得て世界を変える為に。

勿論、すぐには受け入れられない人達だっていた。それでも構わないと、これからの自分の働きぶりを見て判断して欲しいと言ったラヴァルさんは、憑き物が落ちたようだった。

「誰の、何の言葉で救われるか、なんて人それぞれだもんねぇ……。」

私の言葉がラヴァルさんに届くとは思ってなかった。検討してくれないかな?とは思っていたが、態度が180度変わるとは想定外だった。

芸能人の放った何気ない言葉に救われる人もいれば、気に入った歌の歌詞に救いを見出だす人だっている。

ラヴァルさんの場合、それが私の言葉だっただけ。

「ねぇ。お二人さん。二人はまだ復讐をしたいと思ってる?ラヴァルさんは変わったよ。もう力任せにすることはないと思う。」

私はアノーリオンとツニートに尋ねた。

「…家族を無惨に殺されたのに、泣き寝入りしろと?」

アノーリオンの冷たい声が響いた。ツニートは何も言わなかったが、その表情が全てを物語っていた。

「復讐は何も生まないなんて綺麗事を言うつもりはないよ。私だって復讐に手を染めたんだから。何も知らない小娘の戯れ言だと思って聞き流しても良い。ただ、うーん…、うまく言えないんだけど…。

人間の国を飛び出した時、私本当に心の底から死にたかったの。全てがどうでもよくて、自分が異世界で生きていることすら煩わしかった。でも、魔族領で会った人達がたくさん自分に自信を持てって言ってくれて。ドラゴンの里の皆が私の事をまるで自分の娘みたいにただ静かに抱き締めて甘えさせてくれたこと、本当に涙が出るほど嬉しかった。皆がそうやって優しくしてくれたから、私、この世界でもう少し生きてみようって思えたの。

あのね、本当に辛い事が起きた時、余所者に優しくする余裕なんて無いんだよ。余所者の私にあれだけ優しかった皆は…時間は必要かもしれないけど、変わっても良いタイミングなんだと思う…。もう二人に苦しんで欲しくない…。偉そうなこと言ってごめんなさい……。」

段々と自信が無くなって、最後は呟くように言った。

復讐に囚われる二人と私の違いは何か。
それは二人の感情が卑劣な脅迫によって行き先を失い、反撃の機会を得る為に一旦寝かせて熟成させてしまった事だと思う。

一度、無理矢理感情を封じ込めたのだ。感情に支配されて理性的な判断が難しくなるのは当然だ。だから私が言った言葉もすぐには受け入れられないだろう。

それでも言いたかった。優しい人達が、過去の悲しみに縛られて生きていく姿を見たくなかった。反撃の狼煙を上げてしまえば、きっと今以上に傷つく人が増えるだろう。皆に、これ以上苦しんで欲しくなかった。

思いを晴らすためじゃなくて、これ以上皆が苦しまない選択をして欲しかった。思いを抱え続けることは本当に苦しいことだと私も知っているから。



二人はそれから何も言わなかったし、私も何も言わなかった。


精力的に活動を始めたラヴァルさんをよそに、私は一人でドラゴンの里に向かった。

ここでどうしてもやりたいことがあったのだ。












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