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空を満たす何か

自分の本心を把握するって意外と難しいね

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とりあえず全員テラスに集まってもらった。突然結論から話し始めても受け入れられない事はツニートとアノーリオンに話した時から分かっていた。

だから攻める方法を変える。

「以前、小さなものなら家族に届けられると仰っていましたよね?家族にせめて手紙だけでも届けたいんですが…。力を貸して貰えませんか?」
世界に意志があるなら、私の存在も都合よく無かったことにされていたり、死んだことにされているのではないか?と考えていた。小説ではそうなる事が多いし…。

「お安いご用よぉ!私達もいつ言われるのかと思ってたところなのよぉ!」
今のこの状況なら断られるかもしれないと思っていたが、カーミラさんが待ってましたとばかりに賛成してくれた。他の皆もカーミラさんに釣られたのか頷いて賛成してくれた。意外…。ギルミアさんとラヴァルさんはてっきり嫌だと断られると思っていた。

驚きがそのまま顔に出ていたようで、ギルミアさんやラヴァルさんから呆れたような顔をされた。
「僕だって鬼じゃないんだから、異世界人の境遇は可哀想だって思うし、家族に連絡するくらい協力するよ。」

「心外ですね…。家族を思う気持ちまで否定なんかしません。」

「だから野郎二人は気が利かなくてだめなのよぉ!あれだけ酷い言葉を吐いたんだもの、信用されなくて当然よ!
それより、扉を開くのは二日後の夜だから皆準備しておくのよぉ!」
カーミラさんから喝を入れられていた。どうやら前々から準備してくれていたらしい。

その日から皆、扉のある湖の傍で食事も取らずにひたすら瞑想していた。話し掛けても返事はないので私一人でぽつんと食事を済ませた。

「さみしい…。」





◇◇◇


そして期限の夜。家族へ宛てた手紙を大切に持って湖へ向かう。

始めに瞑想を終えたのはギルミアさんだった。次いでラヴァルさん、カーミラさんと続く。ツニートとアノーリオンはぎりぎりまで瞑想していた。

先に瞑想を終えたギルミアさんから注意事項を聞く。
「いいかい?扉の中に
絶対に足を踏み入れてはいけない。僕達が君の家族までの道標を作ってカーミラの糸が支えるけど、扉が開いている間ずっと世界は全力で道を閉ざそうと妨害してくるから、繋がった道はかなり細く不安定だ。君が飛び出してしまえば永遠に時空の狭間を漂い続ける事になるから、カーミラの言うタイミングに合わせて手紙を放り投げるんだ。繋がった先へカーミラの糸が手紙を押し込むから。いいね?」

私は頷いた。

「時間よ」
カーミラさんが扉までの道を糸で作る。彼女の合図に合わせて最後まで瞑想していた二人が一気に扉の右側に近づき、構えた。
カーミラさんは扉から2m程距離を取った位置に陣取り、扉の真正面にはギルミアさんとラヴァルさんが二人並んで膝をついて構えた。

私はというと、とりあえずギルミアさんとラヴァルさんの真後ろに陣取ってみた。

「『せーーのっ!!』」
扉を全開になった。

扉の中は真っ暗のようだったが、目をこらすと図鑑で見た事がある宇宙のようだった。ギルミアさんとラヴァルさんの魔力がキラキラと瞬いてある一つの方向に流れていく。そしてその魔力はホワイトホールのような白く光る先へ繋がった。
(あれが地球に繋がっている…。)

私が扉に一歩踏み出す前に、後ろからカーミラさんの糸が二人が作り出した道標を下から補強するように網目状の糸を飛ばした。

扉を支える二人は、扉が閉まるのを防ごうと力んでいるのか、顔面は紅潮し腕には血管が浮かんでいる。扉にはツニートの腕ほどもある太さの糸が幾重にも巻いてあり、カーミラさんも扉を支えるのに協力していた。

「今よ!」
カーミラさんの合図で扉の先から手紙を投げた。私の手が扉の中へ入り込んだ瞬間、水の中に手を入れたような感触がした。すかさず後ろからカーミラさんの糸が手紙を押し、光の元まで運んでいく。

私の手から手紙が離れる瞬間、母が私を呼ぶ懐かしい声が聞こえた気がした。

「おかあさんっっ!!!!」
堪らず、声が聞こえる元まで走り出そうとした。あの光の所まで辿り着けさえすれば…!!

ギルミアさんとラヴァルさんの二人を追い越し扉の中へ入ろうとした矢先、気付いた二人が私を羽交い締めにした。

「駄目だ!!中へ入るなと言っただろう!!」

「下がりなさい!!下がれ!」

「離して!離してっ!!おかあさんっ!!おかあさん!!!!おねぇちゃん!!!!」

がむしゃらに二人の拘束から抜け出そうともがく。届かないと知りながら声の限り叫び、目の前の家族へと続く道に手を伸ばさずにはいられなかった。

もう乗り越えたと口では偉そうな事言って。実際は冷静でなんていられなかった。心の底はいつだって帰りたかった。母に「お帰り」と言って抱き締めて欲しかった。

でももう分かってしまった。知ってしまえば知る前には戻れない。私は扉の先へ手を突っ込んだ時に悟った。

因果応報。

もう私が故郷の土を踏むことは二度とない。

大人も子供も構わずこの手にかけた。その犯した罪は私の身体に重くのし掛かり、この世界から離れる事を許さない。

復讐を胸に生き延びた。でも復讐を果たしたことで私は自分の世界に帰る道を永遠に失った。

私は急にスイッチが切れたように暴れるのを止め、扉が無情にも閉まっていくのをただひたすら眺めていた。

私が初めて家族へ宛てた手紙は苦い記憶と共に幕を下ろした。





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