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空を満たす何か
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「ラヴァルさんて何者?魔族を纏め上げるなんてただ者じゃなくない…?」
「吸血鬼族を表す言葉はいくつかある。やたらと口が回る、小賢しい、猿知恵、陰気、卑屈、粘着質、ストーカー……。」
陰気辺りから悪口じゃない…?恨みが籠ってる感じがする。
「要するに言いくるめられ、それでも従わないならと脅迫があった訳だ。」
『家族、兄弟、質に取られたら、要求、飲むしかない』
邪魔する奴は人質を取って脅迫して、言うこと聞かせていた訳か。
「…ドラゴン族の卵は、里の一番安全な所で厳重に警戒して育てられるのはカエデも知っておろう。ある時、ドラゴン族の卵数十個が一夜にして全て砕かれた事があった。卵や家族を守ろうとした大人達まで大勢が犠牲になった。今思い出しても胸が千切れそうじゃ…。」
「それはもしかして…?」
「その通りじゃ。数百年前にラヴァルが仕掛けた事よ。古代種族を除くほぼ全ての魔族と人間が、夥しい程の人数がこの里を襲撃した。日中夜絶え間なく続く襲撃に、儂らは疲弊していった。儂の最愛のラティファもその時に死んだよ。普段は勇猛な戦士だったのだが、腹に子がおってな、戦えなんだ。妻が殺された時、儂も一緒に死にたかった。妻を一人で逝かせた事、子を守れなかった事、死んだラティファをガイアの御胸でゆっくり眠らせてあげる事も出来なかった事、族長であったのに里の皆を守れなかった事。全てが許せなんだ。儂の首一つで許されるなら、と格下に従ったのじゃ。」
絶句した。家族を目の前で殺される事がどれ程の苦しみなのか推し量る事が出来ず、私はかける言葉を失った。私は目の前で家族を殺される目にはあっていない。それはどれほど幸運な事だったのだろうか。そして、最愛の人の遺体すら見つからず埋葬出来なかったなんて…。
魔族には日本のようにお葬式はない。ただ、埋葬し、墓標を立てる。残された者が気持ちの整理をつけるまで、そこで静かに祈るのだ。日本にいた時も人が亡くなる事を、「神の御元に召された」等と言うことがあるように、魔族もガイアの御胸に抱かれる、と表現する。
「だからのぅ、カエデや。大事な者を奪われたのは儂らも一緒じゃ。これまで苦しみ抜いて生きてきたのもな。復讐は何も産まない、更なる連鎖を産むだけだと、正義面して語る奴には反吐が出るわい。復讐は少なくとも、儂らの心を救い、生きる目的になった。それが無意味なはずがなかろう。復讐は悪か?いいや、復讐をうむ事態を作り出す事こそ悪であろう?」
『復讐、嫌なら、清く生きればいいだけ。恐れるのは、疚しい、から。だから復讐、よくない、いう奴、信用しない。』
私は復讐したいと望み、そして衝動のままに実行した私を責めた。私が私じゃなくなったような気さえしていた。罪の重さに押し潰されそうだった。
それでも、生きているのだからそれで良いだろう、なんて言われて許せるはずもなかった。
罪だと分かっていながら、心は復讐を望み、結局罪を犯した。その事実が私を一層苦しめた。
「罪を犯したのに、許されていいの…?」
「カエデ。他の誰でもない、儂が言うてやろう。もう自分を許しておあげ。お前さんが考えとる罪は罪ではない。ちょこっと、ほんとちょこっとだけ相手に噛みついて反撃しただけじゃ。」
『毒蛇に、噛まれたら死ぬ、時もある。それと、同じ。噛んだ蛇は罪?ただの、不運な事故。』
毒蛇…。毒蛇?反撃しただけ…。私は許されて良いのか。他の誰でもない、この二人にそう言って貰えた事が私の罪の意識を軽くした。
それが堪らなく嬉しかった。
「それにのぅ…。ちと恥ずかしいのだが。ラティファとの夫婦喧嘩でな、人間の国を一つ、駄目にしたことがだな…、あるのじゃ。」
夫婦喧嘩で国を一つ?さすがドラゴン。スケールが違う。
『喧嘩の、理由、下らない…。』
ツニートが呆れている。
「儂も若かったのじゃ…。その時は…、はて?何だったか…。子につける名前で揉めたのだったか?それともラティファが隠していた彼女お気に入りの酒を飲み干した事だったか?浮気の疑いをかけられた事だったか?懐かしいのぅ…。」
本当にろくでもない理由だな。国一つ滅ぼした事が懐かしいのか…。
「そういうツニートや。お前さんだってそんな経験の一つや二つあるだろう。知っておるぞ?巨人族の坊が最年少記録更新した、とな。」
『……。分別がつく前の、幼い頃。ピクニックで人間の、国の近く行った。癇癪で、泣きながら地団駄踏んだ、事あった。そしたら……。地面にヒビ、入って。その先にあった、国が…。』
あぁ、察し…。地盤沈下で国が一つ沈んだ訳ね…。スケール違い過ぎて、自分の犯した事が罪かとかどうでも良くなってきた。というか人間の国滅亡させたことあるの、この二人だけじゃないな、絶対。よく人間、生き残ってこれたな。
ツニートなんて恥ずかしそうに両手で顔覆ってるけど、やったことは凶悪以外の何物でもないからね。むしろどこが恥ずかしいポイントかさっぱりわからない。
「吸血鬼族を表す言葉はいくつかある。やたらと口が回る、小賢しい、猿知恵、陰気、卑屈、粘着質、ストーカー……。」
陰気辺りから悪口じゃない…?恨みが籠ってる感じがする。
「要するに言いくるめられ、それでも従わないならと脅迫があった訳だ。」
『家族、兄弟、質に取られたら、要求、飲むしかない』
邪魔する奴は人質を取って脅迫して、言うこと聞かせていた訳か。
「…ドラゴン族の卵は、里の一番安全な所で厳重に警戒して育てられるのはカエデも知っておろう。ある時、ドラゴン族の卵数十個が一夜にして全て砕かれた事があった。卵や家族を守ろうとした大人達まで大勢が犠牲になった。今思い出しても胸が千切れそうじゃ…。」
「それはもしかして…?」
「その通りじゃ。数百年前にラヴァルが仕掛けた事よ。古代種族を除くほぼ全ての魔族と人間が、夥しい程の人数がこの里を襲撃した。日中夜絶え間なく続く襲撃に、儂らは疲弊していった。儂の最愛のラティファもその時に死んだよ。普段は勇猛な戦士だったのだが、腹に子がおってな、戦えなんだ。妻が殺された時、儂も一緒に死にたかった。妻を一人で逝かせた事、子を守れなかった事、死んだラティファをガイアの御胸でゆっくり眠らせてあげる事も出来なかった事、族長であったのに里の皆を守れなかった事。全てが許せなんだ。儂の首一つで許されるなら、と格下に従ったのじゃ。」
絶句した。家族を目の前で殺される事がどれ程の苦しみなのか推し量る事が出来ず、私はかける言葉を失った。私は目の前で家族を殺される目にはあっていない。それはどれほど幸運な事だったのだろうか。そして、最愛の人の遺体すら見つからず埋葬出来なかったなんて…。
魔族には日本のようにお葬式はない。ただ、埋葬し、墓標を立てる。残された者が気持ちの整理をつけるまで、そこで静かに祈るのだ。日本にいた時も人が亡くなる事を、「神の御元に召された」等と言うことがあるように、魔族もガイアの御胸に抱かれる、と表現する。
「だからのぅ、カエデや。大事な者を奪われたのは儂らも一緒じゃ。これまで苦しみ抜いて生きてきたのもな。復讐は何も産まない、更なる連鎖を産むだけだと、正義面して語る奴には反吐が出るわい。復讐は少なくとも、儂らの心を救い、生きる目的になった。それが無意味なはずがなかろう。復讐は悪か?いいや、復讐をうむ事態を作り出す事こそ悪であろう?」
『復讐、嫌なら、清く生きればいいだけ。恐れるのは、疚しい、から。だから復讐、よくない、いう奴、信用しない。』
私は復讐したいと望み、そして衝動のままに実行した私を責めた。私が私じゃなくなったような気さえしていた。罪の重さに押し潰されそうだった。
それでも、生きているのだからそれで良いだろう、なんて言われて許せるはずもなかった。
罪だと分かっていながら、心は復讐を望み、結局罪を犯した。その事実が私を一層苦しめた。
「罪を犯したのに、許されていいの…?」
「カエデ。他の誰でもない、儂が言うてやろう。もう自分を許しておあげ。お前さんが考えとる罪は罪ではない。ちょこっと、ほんとちょこっとだけ相手に噛みついて反撃しただけじゃ。」
『毒蛇に、噛まれたら死ぬ、時もある。それと、同じ。噛んだ蛇は罪?ただの、不運な事故。』
毒蛇…。毒蛇?反撃しただけ…。私は許されて良いのか。他の誰でもない、この二人にそう言って貰えた事が私の罪の意識を軽くした。
それが堪らなく嬉しかった。
「それにのぅ…。ちと恥ずかしいのだが。ラティファとの夫婦喧嘩でな、人間の国を一つ、駄目にしたことがだな…、あるのじゃ。」
夫婦喧嘩で国を一つ?さすがドラゴン。スケールが違う。
『喧嘩の、理由、下らない…。』
ツニートが呆れている。
「儂も若かったのじゃ…。その時は…、はて?何だったか…。子につける名前で揉めたのだったか?それともラティファが隠していた彼女お気に入りの酒を飲み干した事だったか?浮気の疑いをかけられた事だったか?懐かしいのぅ…。」
本当にろくでもない理由だな。国一つ滅ぼした事が懐かしいのか…。
「そういうツニートや。お前さんだってそんな経験の一つや二つあるだろう。知っておるぞ?巨人族の坊が最年少記録更新した、とな。」
『……。分別がつく前の、幼い頃。ピクニックで人間の、国の近く行った。癇癪で、泣きながら地団駄踏んだ、事あった。そしたら……。地面にヒビ、入って。その先にあった、国が…。』
あぁ、察し…。地盤沈下で国が一つ沈んだ訳ね…。スケール違い過ぎて、自分の犯した事が罪かとかどうでも良くなってきた。というか人間の国滅亡させたことあるの、この二人だけじゃないな、絶対。よく人間、生き残ってこれたな。
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