彼女を奪還せよ!

yyyNo.1

文字の大きさ
上 下
41 / 48
本編

はずだった…

しおりを挟む
翌日、朝食を食べ終わった僕は、ナタリーと共に親方が運ばれた協会へ向かった。魔女お手製の傷薬を持って。
協会は簡単な入院施設を兼ねていて、怪我だけならそこに入院しているはずだった。そこの受付で親方の名前を伝えると、部屋まで案内された。

病室を覗くと、頭に包帯を巻き右手、右足にギブスをして左手で朝ごはんと格闘している親方の姿があった。

親方と目が合うと、申し訳なさと感謝で胸がいっぱいになり何も言葉にすることは出来なかった。

「こっちに来て顔を見せろよ」

親方の言うままベッドの側に置かれた椅子に座る。
何て言おう、何から話そう、焦って言葉が出ない。

「良い面構えになったじゃねぇか」

俯いていた頭上に親方の言葉が降ってくる。

ナタリーは、
「助けてくれた際に怪我をしたと聞きました。本当にありがとうございます。…二人で積もる話があるでしょう?」
そういって席をはずした。

「お前は物覚えも悪くないし、体つきも親父に似てでかいし恵まれてる。」

「だが、自信が無くて背中丸めてる姿が気になってな。はじめは緊張してんのかとも思ったが。お前の親父はあの通り頭にゃ何も入ってないだろ」
そう言っていつものようににかっと笑ってくれる姿に視界が歪む。

「…僕のせいで、巻き込んですみませんでした」
喉から絞り出す声が、どこか他人のように聞こえてくる。

「男にはな、決めなきゃいけないときがあるんだ。それがあの時だったってだけさ。いいか、男を最高の男にするのは最高の女なんだ。良い嫁捕まえたじゃねぇか。」
親方は僕を責める言葉を口にしなかった。親方はいつも僕の欲しい言葉を言ってくれる。親方が本当の父親だったら良かったと思う程に理想の人だった。

「俺はもう現場にゃ戻れんが。お前がいたらもう大丈夫だな」
親方のその言葉にやっと今日の目的を思い出す。

「お、親方!!これ、飲んでください!!」
焦って瓶の蓋を開け、そのまま親方の口に突っ込む。

むせて涙目になった親方が、
「ゲホゲホっ!何を飲ませた!クソガキ!」

「しーっ!親方、声がでかいよ!魔女の傷薬だよ。効果は僕のお墨付きだよ。ほら、右手を動かしてみて!」

「お、おぉ…。ん?痛くねぇな?」

見える位置にある腕のガーゼを一つ剥がして見せる。

「あ''ん!?どーなってんだ、これ!!」

「だから親方、うるさいって。治ったんだよ。これ秘密にしてね。後、一つ問題があってね、」

「なんだ!!やっぱり毒か!!」

「違うってば。魔女の薬だから代償がいるんだ。脛毛が全部なくなるとか深爪になるとかそんな感じのやつ」

「!?!?」

「どこがどうなるかは分かんないんだけど、変わったところはない?」

「そうは言ってもなぁ…。」
と悩んで頭に手を乗せた親方は何かに気付いたようで目を見開いた。

「!!!!」

「どうしたの!?やっぱりどこか痛む!?」

「俺の…、俺の頭を見てくれ」

親方のスキンヘッドを見ても、変わったところは無さそうだった。
「何もないよ?」

「…違う。違うんだ。お、俺の産毛が…お前さんはもう二度と生えてきてはくれねぇのか……?」
ぶつぶつと話し始める親方の姿があった。

(頭の産毛?親方のスキンヘッドって剃ってるんじゃ…はっ!)
そこまで考えて一つの可能性に思い当たる。中年男性には決して触れてはいけない問題があることを。

「お、親方!怪我治ったから、また現場に復帰できるね!」
慌てて話題を逸らす。

「ん?そういやそうだな。飯食ったら帰るか」

「お前、ちゃんと家族と話し合えよ?」

「ん…。分かってるよ…。」

なんとかそう言ってその場を離れる。

受付に戻ると、ナタリーと誰かが大人数で話す姿が見えた。ナタリーに声をかけると、ナタリーが話していた人物たちは件の運び屋たちだった。

「何でここに??」
僕が聞くと、ナタリーが
「拠点をこの辺りに移したんだって!」
ところころと笑う。

「いやー、旦那のヒーローのような姿が忘れられなくてですねぇ」


「「「「「来ちゃった♪」」」」」


信じられない思いで目の前が真っ暗になるようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。 リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。 しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。 もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。 そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。 それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。 少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。 そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。 ※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

処理中です...