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本編
はずだった…
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翌日、朝食を食べ終わった僕は、ナタリーと共に親方が運ばれた協会へ向かった。魔女お手製の傷薬を持って。
協会は簡単な入院施設を兼ねていて、怪我だけならそこに入院しているはずだった。そこの受付で親方の名前を伝えると、部屋まで案内された。
病室を覗くと、頭に包帯を巻き右手、右足にギブスをして左手で朝ごはんと格闘している親方の姿があった。
親方と目が合うと、申し訳なさと感謝で胸がいっぱいになり何も言葉にすることは出来なかった。
「こっちに来て顔を見せろよ」
親方の言うままベッドの側に置かれた椅子に座る。
何て言おう、何から話そう、焦って言葉が出ない。
「良い面構えになったじゃねぇか」
俯いていた頭上に親方の言葉が降ってくる。
ナタリーは、
「助けてくれた際に怪我をしたと聞きました。本当にありがとうございます。…二人で積もる話があるでしょう?」
そういって席をはずした。
「お前は物覚えも悪くないし、体つきも親父に似てでかいし恵まれてる。」
「だが、自信が無くて背中丸めてる姿が気になってな。はじめは緊張してんのかとも思ったが。お前の親父はあの通り頭にゃ何も入ってないだろ」
そう言っていつものようににかっと笑ってくれる姿に視界が歪む。
「…僕のせいで、巻き込んですみませんでした」
喉から絞り出す声が、どこか他人のように聞こえてくる。
「男にはな、決めなきゃいけないときがあるんだ。それがあの時だったってだけさ。いいか、男を最高の男にするのは最高の女なんだ。良い嫁捕まえたじゃねぇか。」
親方は僕を責める言葉を口にしなかった。親方はいつも僕の欲しい言葉を言ってくれる。親方が本当の父親だったら良かったと思う程に理想の人だった。
「俺はもう現場にゃ戻れんが。お前がいたらもう大丈夫だな」
親方のその言葉にやっと今日の目的を思い出す。
「お、親方!!これ、飲んでください!!」
焦って瓶の蓋を開け、そのまま親方の口に突っ込む。
むせて涙目になった親方が、
「ゲホゲホっ!何を飲ませた!クソガキ!」
「しーっ!親方、声がでかいよ!魔女の傷薬だよ。効果は僕のお墨付きだよ。ほら、右手を動かしてみて!」
「お、おぉ…。ん?痛くねぇな?」
見える位置にある腕のガーゼを一つ剥がして見せる。
「あ''ん!?どーなってんだ、これ!!」
「だから親方、うるさいって。治ったんだよ。これ秘密にしてね。後、一つ問題があってね、」
「なんだ!!やっぱり毒か!!」
「違うってば。魔女の薬だから代償がいるんだ。脛毛が全部なくなるとか深爪になるとかそんな感じのやつ」
「!?!?」
「どこがどうなるかは分かんないんだけど、変わったところはない?」
「そうは言ってもなぁ…。」
と悩んで頭に手を乗せた親方は何かに気付いたようで目を見開いた。
「!!!!」
「どうしたの!?やっぱりどこか痛む!?」
「俺の…、俺の頭を見てくれ」
親方のスキンヘッドを見ても、変わったところは無さそうだった。
「何もないよ?」
「…違う。違うんだ。お、俺の産毛が…お前さんはもう二度と生えてきてはくれねぇのか……?」
ぶつぶつと話し始める親方の姿があった。
(頭の産毛?親方のスキンヘッドって剃ってるんじゃ…はっ!)
そこまで考えて一つの可能性に思い当たる。中年男性には決して触れてはいけない問題があることを。
「お、親方!怪我治ったから、また現場に復帰できるね!」
慌てて話題を逸らす。
「ん?そういやそうだな。飯食ったら帰るか」
「お前、ちゃんと家族と話し合えよ?」
「ん…。分かってるよ…。」
なんとかそう言ってその場を離れる。
受付に戻ると、ナタリーと誰かが大人数で話す姿が見えた。ナタリーに声をかけると、ナタリーが話していた人物たちは件の運び屋たちだった。
「何でここに??」
僕が聞くと、ナタリーが
「拠点をこの辺りに移したんだって!」
ところころと笑う。
「いやー、旦那のヒーローのような姿が忘れられなくてですねぇ」
「「「「「来ちゃった♪」」」」」
信じられない思いで目の前が真っ暗になるようだった。
協会は簡単な入院施設を兼ねていて、怪我だけならそこに入院しているはずだった。そこの受付で親方の名前を伝えると、部屋まで案内された。
病室を覗くと、頭に包帯を巻き右手、右足にギブスをして左手で朝ごはんと格闘している親方の姿があった。
親方と目が合うと、申し訳なさと感謝で胸がいっぱいになり何も言葉にすることは出来なかった。
「こっちに来て顔を見せろよ」
親方の言うままベッドの側に置かれた椅子に座る。
何て言おう、何から話そう、焦って言葉が出ない。
「良い面構えになったじゃねぇか」
俯いていた頭上に親方の言葉が降ってくる。
ナタリーは、
「助けてくれた際に怪我をしたと聞きました。本当にありがとうございます。…二人で積もる話があるでしょう?」
そういって席をはずした。
「お前は物覚えも悪くないし、体つきも親父に似てでかいし恵まれてる。」
「だが、自信が無くて背中丸めてる姿が気になってな。はじめは緊張してんのかとも思ったが。お前の親父はあの通り頭にゃ何も入ってないだろ」
そう言っていつものようににかっと笑ってくれる姿に視界が歪む。
「…僕のせいで、巻き込んですみませんでした」
喉から絞り出す声が、どこか他人のように聞こえてくる。
「男にはな、決めなきゃいけないときがあるんだ。それがあの時だったってだけさ。いいか、男を最高の男にするのは最高の女なんだ。良い嫁捕まえたじゃねぇか。」
親方は僕を責める言葉を口にしなかった。親方はいつも僕の欲しい言葉を言ってくれる。親方が本当の父親だったら良かったと思う程に理想の人だった。
「俺はもう現場にゃ戻れんが。お前がいたらもう大丈夫だな」
親方のその言葉にやっと今日の目的を思い出す。
「お、親方!!これ、飲んでください!!」
焦って瓶の蓋を開け、そのまま親方の口に突っ込む。
むせて涙目になった親方が、
「ゲホゲホっ!何を飲ませた!クソガキ!」
「しーっ!親方、声がでかいよ!魔女の傷薬だよ。効果は僕のお墨付きだよ。ほら、右手を動かしてみて!」
「お、おぉ…。ん?痛くねぇな?」
見える位置にある腕のガーゼを一つ剥がして見せる。
「あ''ん!?どーなってんだ、これ!!」
「だから親方、うるさいって。治ったんだよ。これ秘密にしてね。後、一つ問題があってね、」
「なんだ!!やっぱり毒か!!」
「違うってば。魔女の薬だから代償がいるんだ。脛毛が全部なくなるとか深爪になるとかそんな感じのやつ」
「!?!?」
「どこがどうなるかは分かんないんだけど、変わったところはない?」
「そうは言ってもなぁ…。」
と悩んで頭に手を乗せた親方は何かに気付いたようで目を見開いた。
「!!!!」
「どうしたの!?やっぱりどこか痛む!?」
「俺の…、俺の頭を見てくれ」
親方のスキンヘッドを見ても、変わったところは無さそうだった。
「何もないよ?」
「…違う。違うんだ。お、俺の産毛が…お前さんはもう二度と生えてきてはくれねぇのか……?」
ぶつぶつと話し始める親方の姿があった。
(頭の産毛?親方のスキンヘッドって剃ってるんじゃ…はっ!)
そこまで考えて一つの可能性に思い当たる。中年男性には決して触れてはいけない問題があることを。
「お、親方!怪我治ったから、また現場に復帰できるね!」
慌てて話題を逸らす。
「ん?そういやそうだな。飯食ったら帰るか」
「お前、ちゃんと家族と話し合えよ?」
「ん…。分かってるよ…。」
なんとかそう言ってその場を離れる。
受付に戻ると、ナタリーと誰かが大人数で話す姿が見えた。ナタリーに声をかけると、ナタリーが話していた人物たちは件の運び屋たちだった。
「何でここに??」
僕が聞くと、ナタリーが
「拠点をこの辺りに移したんだって!」
ところころと笑う。
「いやー、旦那のヒーローのような姿が忘れられなくてですねぇ」
「「「「「来ちゃった♪」」」」」
信じられない思いで目の前が真っ暗になるようだった。
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