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本編
あと6日
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隣国行きの汽車は、十日間かけて大陸を横断する。国境を越えるまで七日間かかる。国境を超えるには色々事前に手続きが必要だが、今から手続きする時間は残されていなかった。自国を出るまでの七日間でナタリーが乗る汽車に追い付く必要がある。
ナタリーが乗ったであろう汽車は昨日の夜のうちにとっくに出ていた。次の汽車は夕方で、待っていては間に合わないし隣国までの切符を買う金も無かった。追い付けなかったら最後、彼女は何処かへ売られてしまう。期限はもう7日を切っていた。
東に向かわなければ。移動手段、と考えてやっと魔女の大鏡を思い出した。来た道を戻り、魔女がいるスラムまで走る。
魔女の家まで着く頃には滝のような汗をかいていた。
「魔女!!魔女!!」
大鏡の前に立ち、魔女が出てくるまで堪えきれずに大声で呼ぶ。
涙が溢れて止まらない。後悔と焦燥感、恐怖がない交ぜになって叫びだしたくなる衝動を必死で堪える。
やっと魔女が奥から出てきた。
「ナタリーがっ!!ナタリー…!!」
口を開くと堪えていた嗚咽が出て、続く言葉が紡げない。伝えなければ、と思うほど口から出てくるのは意味を持たない慟哭だった。
だが、僕の尋常でない様子からある程度は事情が察せられたのだろう。
「どこへ向かう」
魔女は手短に問う。
「東へ!!隣国へ抜けたらもう取り戻せない…!!」
怒鳴るように告げる。
魔女は考え込むような仕草をした。
「大鏡で今すぐ飛ぶには、ちょいと足りない…。今夜一晩、大鏡を月の光に当てる必要がある。一晩くれたら先回りして汽車が通る街に飛ばす」
まだ時刻は正午だった。ナタリーを乗せた汽車が今も進んでいると思うと居ても立ってもいられなかった。
「時間がないんだ!!」
そう告げるも、魔女はとても冷静だった。
「準備も何もせず向かう気かい?列車を先回りする他の手段は?夜も寝ないで馬を変え続けながら何日も走れるかい?」
僕は押し黙るしかなかった。
「それに血が出てる。おでこと手から」
無理やり冷静になった振りをして、頷く。
が、無理だった。
「うわああぁぁぁぁん!!ナタリーーーー!!ごべんんねぇぇーーーーー!!」
子供のように泣きわめく声が辺りに響き渡る。
ナタリーが乗ったであろう汽車は昨日の夜のうちにとっくに出ていた。次の汽車は夕方で、待っていては間に合わないし隣国までの切符を買う金も無かった。追い付けなかったら最後、彼女は何処かへ売られてしまう。期限はもう7日を切っていた。
東に向かわなければ。移動手段、と考えてやっと魔女の大鏡を思い出した。来た道を戻り、魔女がいるスラムまで走る。
魔女の家まで着く頃には滝のような汗をかいていた。
「魔女!!魔女!!」
大鏡の前に立ち、魔女が出てくるまで堪えきれずに大声で呼ぶ。
涙が溢れて止まらない。後悔と焦燥感、恐怖がない交ぜになって叫びだしたくなる衝動を必死で堪える。
やっと魔女が奥から出てきた。
「ナタリーがっ!!ナタリー…!!」
口を開くと堪えていた嗚咽が出て、続く言葉が紡げない。伝えなければ、と思うほど口から出てくるのは意味を持たない慟哭だった。
だが、僕の尋常でない様子からある程度は事情が察せられたのだろう。
「どこへ向かう」
魔女は手短に問う。
「東へ!!隣国へ抜けたらもう取り戻せない…!!」
怒鳴るように告げる。
魔女は考え込むような仕草をした。
「大鏡で今すぐ飛ぶには、ちょいと足りない…。今夜一晩、大鏡を月の光に当てる必要がある。一晩くれたら先回りして汽車が通る街に飛ばす」
まだ時刻は正午だった。ナタリーを乗せた汽車が今も進んでいると思うと居ても立ってもいられなかった。
「時間がないんだ!!」
そう告げるも、魔女はとても冷静だった。
「準備も何もせず向かう気かい?列車を先回りする他の手段は?夜も寝ないで馬を変え続けながら何日も走れるかい?」
僕は押し黙るしかなかった。
「それに血が出てる。おでこと手から」
無理やり冷静になった振りをして、頷く。
が、無理だった。
「うわああぁぁぁぁん!!ナタリーーーー!!ごべんんねぇぇーーーーー!!」
子供のように泣きわめく声が辺りに響き渡る。
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