彼女を奪還せよ！

本編

助けと哀れな存在(ナタリー視点5)

魔女は大急ぎで何かの準備を始め、捲し立てるように話し始めた。

「お嬢ちゃん、見目が良い女がこの時期にここにくるのは理由は一つしかないからね。あいつに言われてきたんだろう。安心おし。家に帰してやろう。」

ナタリーは安堵と、目から涙がこぼれ落ちていくのを感じた。

「気付いたら、あのっ…小屋で縛られててっ！」
嗚咽で続きの言葉が出てこない。

魔女は鏡の周りに魔方陣のようなものを床に描いていたが、一度手を止め、ナタリーを優しく抱き締めてくれた。初対面のはずなのに魔女の腕の中は何故か温かく、安心できた。

魔女は事情が分からないんじゃ、このまま家に帰っても安心できないだろう、とまた魔方陣を描きながら事態を説明してくれた。

この辺りには、大規模なギャング集団がいること、規模が大きすぎてこの町の憲兵では簡単に手が出せないこと、多くの人が集まる精霊祭が一年で最も事件件数が多いこと。説明されたナタリーは、自分が何も知らないただの子供であったことを知った。

「もう日はとっくに落ちてんだ。子供はさっさと家にお帰り。そこの鏡の前に立ちな」

魔方陣が完成したのだろう。鏡が淡く光始めた。
ナタリーは何となく、もうここには二度と来れないような気がしていて、ずっと気になっていた男の存在を問うた。

「助けてくれた人は誰？あなたの言うあいつって、私を助けてくれた人の事？なんで私を助けてくれたの？」

魔女はその質問にとても驚いた顔をしたあと、苦しげに表情を歪めた。

「クモの巣に引っ掛かっちまった虫は自力では抜け出せず、喰われるのを待つだけ。その哀れな虫は喰われるのを待ってる間どうしていると思う??」

そういうと魔女は答えは求めていないかのように私の背中を押し、帰るよう促す。
「さぁ、想像するんだ。目をつぶって鏡に向かって一歩踏み出してごらん。目を開けたらそこはお前の家だ」

ナタリーが一歩踏み出した時、背中から魔女の声が聞こえた気がした。





「哀れなその虫は他の仲間が捕まらないように、必死にそこにクモの巣があることを叫び続けているのさ」

ナタリーがいなくなった後で、魔女は鏡を撫でて呟く。
「どうかあの子に絡んだ糸を切っておあげ」