地方ダンジョンは破綻しています~職業選択ミスって商人になったけど、異世界と交流できる優秀職だったのでファンタジー化した現代も楽勝です~

すー

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~1章~逃げ遅れた商人と異世界マーケットと

第13話:遭遇

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「よーし、大漁大漁」
「大漁!」

 蟹男は園芸コーナーの商品を片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく。

 ミクロはカートを乗り回しながら、マルトエスはカゴを手に興味深げに商品を吟味している。

「ついでに缶詰も補充しとこう」

 蟹男は園芸コーナーを一旦切り上げて、食品コーナーへと向かう。 止まったままのエスカレーターに物淋しさを感じながら、たどり着いたそこに蟹男は強烈な違和感を覚えた。

「人が漁った形跡に見えるけど」

 食品コーナーの入り口の床にはいくつものカゴが置かれ、そこには保存がきく食料や水が詰められていた。

 まるで何回かに分けて運ぶために、あらかじめ準備しているように。

ーーぎ、ぎ、ぎ。

「誰かきた!」

 かすかに下から聞こえてきた軋みは、まさに蟹男がエスカレーターを上った時に鳴った音だった。

「隠れよう」

 自分以外にも人がいる、嬉しいようで怖いようななんとも言いがたい感情になりつつ、蟹男は一応警戒して物陰に隠れて様子を伺うことにした。

 現れたのは五人の男女だ。

「さあ、さっさと詰めて行きましょう」
「モンスターがいたことはないけど、いつ出くわすか分からないものね~」
「俺は重いの詰めてきます」
「ありがとう、助かるわ」

 二人の少年少女、残りは大人の男女。
 彼らは慣れた様子でカゴの商品を背負ったリュックに詰め込んでいく。

(どうしますか? 接触しますか?)

 マルトエスがそう囁くが、蟹男は判断に迷っていた。

 久しぶりの人だ。
 情報交換したいし、相手がどんな素性なのかも知っておきたいところ。 しかし話したところで、かなり安定した生活を築いている蟹男にとってメリットはほとんどないと言って良い。

(うーん、どうしよう……っミクロ!?)

 ふと横を見ると、ミクロがむず痒そうな素振りをしていた。 一応我慢しているのか、出そうになっては、飲み込み、出そうになっては飲み込みを何度か繰り返してーー

「くしゅんっ」
「誰だ!?」
「警戒して!」

 堪えきれずくしゃみをしてしまったミクロは申し訳なさそうに耳を萎らせるが、生理的反応なのだから仕方ない。

「出てきなさい。 三秒数えるまでに姿をあらわさなければ、モンスターと断定して攻撃します」

(黙ってやり過ごすのは無理そうだ……)

 蟹男は気にするなとミクロの頭を乱暴に撫でて、マルトエスに目で合図を送った。

「攻撃しないでくれ、俺は人間だよ」

 両手を上げながら蟹男は彼らの前に出た。
 もしも彼らが蟹男に危害を加えようとすれば、マルトエスとミクロが飛び出してくるはすだ。

「どうして隠れてたの?」
「あんたらがどんな人間か分からないからだ。 今の世の中は法律なんて関係ないって輩がいても可笑しくないだろ?」
「私たちに危害を加えるつもりはある?」
「ない。 攻撃されれば抵抗はさせてもらうけど」
「そう……嘘は言ってないみたい。 どうする?」

 五人の中心人物と思われる少女は、まるで嘘と真実を見抜けるかのような口振りで言った。

「もし一人なら保護した方が良いんじゃないですか?」
「色々お話聞きたいわ~。 単独で生き残った秘訣とか」
「分かったわ。 私たちは今、とある施設で集団生活をしているの。 少し話をしない?」

(断れる空気じゃない……よな、はあめんど)

「分かった。 攻撃しないと
「分かったわ、約束する」
「攻撃しないと約束する、と言ってくれるか」
「?……攻撃しないと約束する。 これでいい?」

 蟹男は商人のスキルを発動していた。
 アイテムボックスとマーケット、そして契約というスキルがある。

 このスキルを発動している間の約束ごとは契約となり、破れば罰が生じる。
 ただし口頭の場合は効力が弱まるし、罰の内容をあらかじめ提示していない場合、罰の内容はランダムとなる。

(……これで少しは安心かな)

 蟹男はひとまず安堵しつつ、相手を刺激しないよう友好的な笑みを浮かべて近づくのだった。


※※※


「気配を感じるっ」

 ホームセンターの店内、大葉光の言葉に緊張が走った。

「モンスター? 数は分かる?」
「モンスターかは分からないけど、数は三だよっ」
「三ですか……アリスさんどうしましょう~?」

 アリスたちはモンスターを出来る限り避けて行動していた。 戦闘を行う場合も必ず単独を狙って、安全マージンを取ってきた。

 全員まだ戦い慣れしているわけでもなく、数もいつもの三倍だ。

「けれど人だったら」
「保護または情報交換がしたい、ですよね」

 今まで自分たち以外の人にあったのは隊服の男だけだ。 困っているなら助けてあげたいし、別のコミュニティが存在するならば協力をお願いできるかもしれない。

「たぶん、人」

 アリスが悩んでいると、無口な元ホームセンター店員カルロスが呟いた。

 彼の職業は勝負師。
 直感スキルで彼の感が外れたことは今のところない。

「……そう、では接触します」

 どうかこの出会いが、自分たちの良くない空気を変えてくれる出会いになることを願って、アリスはゆっくりとエスカレーターを上っていった。


※※※
 

 



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