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陰キャぼっちアメーバと快活少女

殺す感情

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 エグザミア皇国某所
 使われなくなった要塞にある犯罪組織のアジトがあった。
 その地域では有名な組織で冒険者協会でもAランク級の依頼として提示されていた。
 数百人は居るかもしれないと言われているその組織は現在、たった一人の冒険者に攻め込まれていた。

「殺せ!Aランクって言ってもたかが一人だろうが!」

 そう言い放った部隊長の様な男は次の瞬間、無惨にも胴体を真っ二つにされて絶命した。
 集団で襲いかかってくるならず者たちを数人まとめて両断し、胴体を拳で貫く。
 金色の髪は返り血で真っ赤に染まっていた。

「ば、バケモンかこいつ…」
「やぁぁぁぁぁ!」

 女のならずものが剣で斬りかかったが、冒険者は振り向くことなく片腕で振り下ろされた剣を破壊しながら女の顔面に裏拳をお見舞いした。
 首からゴキッ、という嫌な音を立てて女は倒れて動かなくなった。

「親玉は?」
「なに?」
「あんた達の親玉はどこって聞いてんのよ。雑魚に構ってたらキリないわ」
「バカにしやがってぇ!」

 斬りかかってきたならず者をため息をつきながら大剣で吹き飛ばした。
 ベチャという音を立ててインクをぶちまけたの様に壁は赤く染まった。

「邪魔くさいわね…」

 そうため息をついた瞬間、右肩に鋭い痛みが走る。
 見てみると自分の右肩からは血が流れていた。
 おそらく攻撃魔法が刺さったのだろう。
 風の遠距離狙撃魔法か何か、まあなんでもいい。放った犯人は見つけた。
 少し離れた高台でこちらを見ている。
 さっさと逃げればいいのに、中途半端に倒そうとするから、死ぬことになる。
 血で染まった白銀の大剣を撫でると地面に魔法陣が広がる。
 彼女の髪の毛と同じく綺麗な金色の魔法陣、そして大剣は魔力を帯び光を放つ。

「セイクリッドブレイバー」

 剣から放たれた光の斬波が彼女を撃ったならず者の上半身を消し飛ばした。
 そして、地面を割るほどの威力で踏み込み力を込める。
 いつしか大剣の刃は本来の大きさを超え、魔力で形成された巨大な刃が顕現した。

「セイクリッドセイバー」

 その巨大な刃で、その場にいた全てのならずものを要塞ごと切り払った。
 凄まじい閃光が広がり悲鳴をあげる暇もないまま、その場にいた物は全て薙ぎ払われてしまった。
 冒険者はようやく終わったかと言うようにため息をつき、要塞の中に歩いていく。
 半壊した要塞を歩いていくとその奥に親玉らしき男が半泣きで逃げようとしていた。

「あ、あああああ!頼む!頼む殺さないでくれ!」

 その言葉を無視してゆっくりと歩みを進める。
 男がどれほど懇願しても、冒険者は心底面倒くさそうに大剣を引きずりながら近づく。

「頼む、頼むよ!家族が居るんだ!まだガキは10歳なんだ!俺が死んだら他の組織に殺されちまう!頼む!」

 男はプライドをかなぐり捨て歩み寄ってくる絶対的な強者に土下座を行う。
 どんなことでもいい、どんなことでもするから命だけは助けて欲しいと懇願する。
 すると、カラカラカラと剣を引きずる音が鳴り止んだ。

「ねぇ」

 男が顔を上げたそこには

「それがあたしと何の関係があるわけ?」

 大剣を振り下ろす金色の悪魔が居た。

◇◇◇

 あるエグザミア皇国の都市にある冒険者協会。
 そこには金髪の冒険者と男性受付が話していた。

「さ、さすがミスラさんですね!あの組織は騎士団も手を焼いていたのに!」
「別に、あれくらいなんてことないわ」
「いやぁ前から凄いと思ってましたけど最近ほんとすごいですよね!Aランクの依頼何個達成したんですか!?」
「簡単な討伐依頼でしょうが、そんなのいちいち数えてないわよ」
「いやいやいや、こんな速度で依頼達成する人いませんって!」

 ソルと離れて数ヶ月、ミスラは一人でひたすら依頼を受けてはこなしていた。
 討伐依頼を受けては報告し、それの繰り返し。
 その姿は他の冒険者が恐れるほどだった。
 毎度毎度傷だらけでやって来ていればそれも仕方ないのかもしれないが。

「報告終わったから次行ってくるわ」
「ええ!?ミスラさんまだ受けるんですか!?しばらくやめた方がいいんじゃ…」
「今調子がいいのよ」

 そういうミスラの表情は少し得意げだが目は全く笑っていなかった。

「あ、あはは!ほんと凄いですよね!やっぱあれですか?そばにいたあの~黒い人?アズなんとかさん?あの人が足引っ張ってたんですね~いやぁ、ほんとどっか行ってよかったですね」

 そう言った瞬間、彼の首は凄まじい力で鷲掴みにされた。
 何が起こったのか分からないまま彼の体は浮かび上がり、足をバタバタとして必死に逃れようとするも逃げられない。

「次あたしの前でその名前出したら殺すわ」
「アガガガッ!スイマセッ!!オガガ」

 彼は掴まれ意識が朦朧としている中、感じたことのない激烈な殺意を浴びて失禁しそうになる。
 彼女の殺すという言葉は嘘ではないと本能が感じるレベルで危険を感じた。
 チッ、と舌打ちをしてミスラは結局依頼を受けずにその場を後にした。
 歩いていると右肩に痛みが走る。
 右腕で男を掴み上げたからだろう。
 忌々しいことこの上ない。

「体中痛い、一つ一つは大したことないけど積み重なると流石に堪えるわ」

 彼女は右肩以外にも左大腿部と右脇腹に包帯を巻いている。
 重症というほどではないがこれだけの傷を抱えて討伐依頼をするべきではないということは素人にも分かる。
 さらに言えばミスラはあれから誰ともパーティーを組んでいない。ずっと一人でひたすら依頼をこなしていた。
 これだけの傷を負いながらたった一人でこの数ヶ月休みなく依頼やってきたのだ。

「あいつが居ればこんな事…」

 ソルが居れば自分が怪我をするなんてほとんどなかっただろう。
 今日の狙撃だってソルが居れば魔法を放つ前に彼が倒していたはずだ。

「やめよやめ!あいつが居なくても大丈夫よ」

 ミスラがここ数ヶ月休みなく依頼をしていたのは暇な時間を作らないためだった。
 認めようとしないが、少しでも暇な時間ができてしまったら彼のことを考えてしまう。
 だから、ずっと何かをしていたかったのだ。

「しょうがない、しばらく休みにするか」

 よくよく考えてみれば休みなく仕事をしなくても他にもたくさん暇を潰す事なんて出来る。
 なぜこんな簡単なことを思いつかなかったのか。
 そうと決まれば何をしようか、お腹は空いていないし、別に欲しいものもない。
 こういう時いつもならソルを街に引きずって行きあいつの服を買ったり自分の服を選ばせたりしていた。
 ぼーっと街を歩いているとショッピングモールが見えた。
 電子パネルにはショッピングモールに入っている映画館で公開されている映画の宣伝がされていた。

「あっ」

 そこには巨大な魔物が街を破壊するシリーズの最新作が公開されていた。
 ミスラ自身、ソルが見ていたのを横で眺めていたからよく覚えている。
 よく考えてみれば映画もドラマもソルが見ているものを横で見ていたらハマってしまうというのが通例だった。
 この映画も、公開したら観に来ようと言っていたのだ。

(なにしてんの?早く次のシーズン再生しなさいよ)
(え、いや、一旦ここまでで良いかなって)
(なんでよ!最新シーズンまで見ないとなんかモヤモヤするじゃない!)

 いつもいつもキッカケはソルだった。
 そんなことを思い出してふっ、と笑った時またソルのことを考えてしまったと頭を抱える。
 別のことを考えよう。
 映画もドラマも無しだ。
 自分だけがやっている趣味をしよう。
 そう考えた時だ。
 何も思いつかない、自分は一人の時何をしていたんだろうか。
 自分だけの趣味とはなんだっただろうか。

「あたしって…何が好きなんだっけ?」

 ショーウインドーに映る自分の背後にソルが見えた。ミスラは驚いて後ろを振り返るが、そこにソルは居ない。
 ショーウィンドーを見ると変わらずソルがいた。

「君は何もない人なんだね」

 ソルが言葉を発する。
 でも背後には誰もいない、自分はおかしくなってしまったのだろうか。

「君は戦うこと以外、何もない人」
「違う、違うわ。あんたは偽物よ。ソルが、あたしにそんなこと言えるわけない。そんな度胸ない」
「そうやって認めようとしない、自分はいつも正しいって言う。嫌だなぁ」
「黙りなさい、黙まって」
「そう言うところが大嫌いなんだ」
「黙ってよ!」

 ミスラはその場から逃げる様に走る。
 走って走って、自分が滞在している部屋に逃げ込む様に入る。
 洗面所で顔を乱暴に洗い、そして鏡を見ると、鏡の中の自分が悲しい表情を浮かべていた。

『辛い』

 鏡の中の自分が話し始める。
 
『寂しい、苦しい、辛い、痛い』
「やめて…」

 ミスラの言葉を無視して鏡の中の彼女は続けた

『誰も愛してくれない、誰もあたしの事を理解してくれない、あたしの周りには誰もいない。本当は人と繋がってたい、人と一緒に居たい。ソルと一緒に居たい』
「やめてってば…」
『ソルに強く当たったのも本当はソルがどこかへ行っちゃうのが怖かったから。自分から離れていくのが嫌だったから。気弱だから高圧的にしてたら何も言えないって分かってた。そうやってソルを縛り付けて居ないと安心でき』
「やめろって言ってるでしょ!」

 自分の言葉を遮って鏡に感情のまま拳を叩きつける。
 何度も何度も何度も。

「違う違う違う違う!あたしは一人でやっていける!一人でも辛くない!寂しくない!苦しくない!ずっとずっとそうだったんだから!」

 自分に言い聞かせる様に、何かを振り払う様に叫び鏡を殴り付ける。
 破片が刺さって流血しても拳を振り下ろすことをやめなかった。

「あんたはあたしじゃない!あたしはあんたみたいに弱くないし弱音も吐かない!これくらい何とも思わない!何も感じないんだから!」

 鏡の中の弱い自分を否定し、殺意を込めて殴り続けた。
 弱い自分が死ぬまで、出て来なくなるまで。
 はぁ、はぁ、と息を切らしてもう一度鏡を見る。
 ガラスの破片と自分の血で凄惨なことになっている洗面台を無視してひび割れた鏡を見つめる。
 そこにはもう、辛い顔をした自分は映らない。

「そうよ、あたしは強いんだから…これくらいなんてことないわ。なにも、何も感じなきゃ良いんだから」

 何も感じなければ傷つくことはないのだから。

 
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