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陰キャぼっちアメーバと快活少女

詐欺出し

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 ミナミが依頼に出て数時間、冒険者協会での一軒で彼女はすっかり機嫌が悪くなってしまいメンバーが話しかけてもツンケンするばかりだ。

「なぁミナミ機嫌直せよ。せっかく依頼に来てるんだから」

 ソルに喧嘩を売りサイトにしてやられた金髪のエルフであるセネルがミナミに馴れ馴れしく話しかける。もちろん既に何度か依頼を一緒にこなしているためにそこそこ仲良くはなっている。

「私アズミヤ君に謝らないともう一緒に依頼行かないから」
「ほっときなさいよ、そのうち機嫌直すわ」

 先ほどソルに暴言を吐いた茶髪のボブカット少女クレスはため息をつきながら武器を整備をしていた。
 彼女にも謝罪を要求したのだが全力で拒否したためその後言い合いになりまともに会話をしていない。

「ミナミちゃんはいったん置いといてさ、今回の依頼の内容まだ何も聞いてないんだけど」

 ピンク色の髪が特徴的のツインテール少女フェレネがセネルに聞いたところ彼は得意げに話し始めた。

「今回は何と!Bランク級の依頼だ!」
「はぁ!?Bランク級って、あんたどうやって受けたのよ!」

 依頼を受注するにはクエストボードで冒険者カードを挿入し依頼書を発行して受付で申請することになっている。もちろん自分のランク以上の依頼は受けることはできず、依頼ランク未満の冒険者が代理で申請をすることも許可されていない。
 つまりBランクの依頼を行う際はBランク冒険者がボードで依頼書を発行し、同じくBランク冒険者が受付で申請しないと依頼を受けることはできないのだ。

「確かに普通は受けられないけどこれ抜け道があるんだなぁ~」

 金髪の長い髪を自慢げに揺らしながらセネルは得意げに話し始めた。

「依頼のランクに満たない冒険者も付き添いならいけるのは知ってるよな」

 つまりランクの低い冒険者が依頼を受けることはできないが、ランクの高い冒険者が受注した依頼に連れて行ってもらうことは可能なのだ。
 この手法自体は特に珍しいことではなく違法なことはない。
 初心者ギルドなどはEランク冒険者をDランククエストに連れて行き経験を積ませるということは毎日行われているからだ。

「今回、俺たちはあくまでBランクの先輩に連れて行ってもらってる体裁なんだよ」
「でもそれって違法じゃない」

 ミナミがセネルに詰め寄るが彼はまぁまぁと彼女を落ち着かせながら話を続けた。

「報告はランク未満でもできるからバレないって!あとは先輩に達成報酬の30%払ってあとは俺たちで山分け、Eランククエストじゃもらえない報酬が入るってわけ!」
「30ってピンハネしすぎ...」
「30飛ばされてもEランク依頼の10倍は入ってくるって!」

 実は高ランクの冒険者が自分の依頼を下のランクに委託するということは違法だが珍しいことではない。
 冒険者という職業は成果報酬、つまり依頼を達成すれば達成するほど金が入る。
 しかし依頼の中には内容自体は簡単だが長時間拘束されるものや遠方に行かなければならない物が存在する。そういった依頼を下のランクに任せるという行為が冒険者の中では平然と行われている。
 低ランク冒険者は実績と自分のランクでは手に入らない多額の報酬を、高ランク冒険者はコスパの悪い依頼を任せて自分はほかの依頼を行う、もしくは休息しながら報酬を得るといった双方に利点がある。
 もちろん双方ともにリスクはあるが。

「でもそれ危ないんじゃないの?」
「迷宮の調査だけだから大丈夫だって、危なくなったら逃げればいいんだから」
「怖いなら帰れば?」

 ミナミが心配そうに言ったときにクレスがふんっと鼻で笑い嫌味を言う。

「律儀に全部のルール守ってたらいつまでたってもランクが上がらないわ。そんなに怖いならあのヒョロヒョロBランクに守ってもらいなさいよ」
「まだ言うのね!」
「やめなってば~!」

 いがみ合うミナミとクレスをフェレネが無理やり引きはがすが、お互いの溝はこの依頼中は埋まることはなさそうだ。

「ほらほらもうすぐ目的地だから機嫌直そうぜ?な」

 しばらく歩き続けていると一行は大きな遺跡のような場所にたどり着いた、
 崩れた遺跡のような場所にポツンと大きな両開きの扉が鎮座している。おそらくは迷宮の入り口だろう。
 迷宮の入り口は様々で洞窟だったり木の幹の間に穴が開いていてそれが入り口になっていたりする。

(初めての迷宮探索、異世界ものの王道ね!気合い入れなきゃ!)

 ミナミは先ほどまでの嫌な気分を払拭して迷宮へと挑む。
 その先に待つのは異世界からの歓迎か、洗礼か。

◆◆◆

 ミナミたちが出立した翌日、剣を整備に出しているソルはいつもよりも簡単な依頼を終わらせ協会に報告をしに来た。ほかにも剣は所持しているのだが仕事にはやはり手に馴染んだものを持って行きたいというのは当然の気持ちだろう。
 相変わらず誰ともパーティーを組めずに一人黙々と依頼をこなすことにそろそろ慣れてしまいそうだった。

「アズミヤさんこんにちは!報告ですか?」
「あっ、はい。無事に納品終了しました」

 受付のジェシカによるスマイルに浄化されると同時になんだか元気になっていくソルはまたもにょもにょと報告を行った。流石に傾国の美女というほどではないが美女が集まる協会職員の中では上位に食い込むであろう美貌に持ち前の明るさが合わさってソルはできる限り彼女へ達成報告をしている。
 自分のような陰キャボッチワームがこんな美人に話しかける名目は依頼の受付か達成報告しかないのだ。
 半分は彼女に会いに来ていると言っても過言ではない。
 綺麗な金髪と豊満なプロポーションに惹かれない男性はいないだろう。

「アズミヤさんはすごいですよね。納品とはいえBランククエストをお一人でやってしまうんですから」
「あ、いや、そ、そうですかね?全然自分なんて~」
「謙遜しないでください。詐欺受け詐欺出しする冒険者もいる中できちんと全部やってるんですから」

 二人が話していると突然扉が乱暴に開いた。
 中からは二人の冒険者が転がり出て、彼らの前にはビシッと協会の制服を着てタブレットを持った緑色のセミロングストレートの女性と逆にだらしなく緩めたネクタイにカッターシャツ、その上に協会のコートを身にまとって黒い髪をみじかく後ろで纏め少し無精ひげを生やした30代前半くらいの男が立っていた。

「あの人黒い髪の人確か磔にされてた...」
「支部長です。珍しくかなり怒ってますね、どうしたんでしょう?」

 支部長と呼ばれた男は座り込んでいる男女二人の冒険者を冷酷な目で見下していた。
 ジェシカが話すだらしない姿とは想像もつかない。

「協会もさ、ある程度は詐欺出し黙認してたけどお前ら派手にやりすぎたな」
「しかも一度や二度でなく数十回に登りますね。さらに最初に提示していた金額を後から吊り上げるといった行為も頻繁にしているそうです。耐えかねたのか自分たちも処罰されるにもかかわらず被害に遭った冒険者から証言がいくつも届いていますね」

 タブレットを操作しながら女性は感情のない声でも淡々と冒険者二人の被害を読み上げていく。
 何か反論しようとするも支部長の圧によって封殺されてしまう。

「それだけでなく何件か死傷者も出てますね。もちろん同行していた際に死亡した場合は仕方ありませんが、詐欺出しで死亡させた場合は...お分かりですね?」

 自分が達成するつもりがないのに依頼を受けることを詐欺受け、そしてその依頼を別の冒険者に回すことを詐欺出しという。
 もちろんこの二つは違法であり悪質であれば一定期間の冒険者資格停止の処分や資格剥奪もありうる。
 さらに、もしこの詐欺出しした依頼で冒険者が死亡した場合は即資格剥奪の上罰金や懲役といった法的罰則が与えられるほど重罪とされ、万が一ランク未満の冒険者を詐欺出し依頼で死なせた場合はそれ以上の罰が科せられる。

「な、なにさ!そんなのみんなやってることじゃん!あたし達だけ怒られるのおかしくない!?」
「何回言わせんだ。お前らはやり過ぎたんだよ。ランク未満の詐欺出しで何人殺した?お前らのクエスト履歴見れば分かるけどな」
「ざっと見ただけでも四人、無期懲役は確定ですね」
「無期懲役っ、ちょっ、ちょっと待てよ!死んだ奴らだって納得して受けたのに俺達だけ逮捕されるのおかし」

 冒険者の男が放つ反論の言葉を最後まで聞かず支部長は彼の顔面を踏み付けた。グリグリと念入りに、心底軽蔑した表情を隠そうともせずに。

「人間ってのは選ぶ生き物だ。でも選択には責任が、そしてその選択が間違ってた時には代償ってもんが伴う。確かに受けた奴らの自業自得、だからあいつらは代償を支払ったんだよ。命って代償をな」

 ランク制度は一見冒険者の強さの指標、称号、己の価値を誇示するためのものと思われているがそうではない。
 かつてランク制度がない時代にさまざまな冒険者が危険度が分からず身の丈に合わないクエストに挑み、まるで星が降るように彼らの命は消えていった。
 そんな事が二度と起こらないように出来上がったのがこのランク制度だ。詐欺出しとはそんな先人達の努力を、気持ちを踏みにじる行為なのだ。
 
「だから今度はお前らが代償支払う番だろうが」

 ソルは少し離れたところからジェシカと共に一連の出来事を眺めていた。初日に磔にされていた人間と同一人物とは思えない程、目の前の支部長は凛々しく立っていた。

「支部長って普段はダメダメなんですけど、こうして人を利用して死なせる人は絶対許さないんです」
「そうなんですか…」

 ソルは今まで人の死で怒る大人を見る事がなかったからか、彼がとても立派な大人に見えた。今まで周りにはそんな当たり前のことを教えてくれる大人が居なかったから。

「っ!支部長、つい昨日もそれらしき依頼を受けた形跡があります!」
「なに?おい!それも詐欺受けか?誰かに出したのか!!」
「さ、最近見つかった迷宮の調査だよ。街から3キロくらい西に行った地帯にある遺跡の迷宮で、調査だけいいから新人でも行けると思って詐欺出ししたんだ…」

 昨日と新人、という言葉を聞いてソルには嫌な予感が走った。

「ちっ!出したやつの名前は!」
「金髪のエルフでセネルって名前、あと近くにピンクのツインテールと、オレンジ髪のポニーテールが居たと思うけど」

 嫌な予感が当たってしまった。
 間違いなくミナミが所属しているパーティーだ。

「あ、アズミヤさん!?どこ行くんですか!?まだ報酬渡してないですよー!」

 ジェシカの制止を聞かずにソルは協会から飛び出した。
 そのまま壁を蹴り建物を駆け上がり屋根を伝い、届かない場所には左手の裾から鎖を放ち建物を駆けて行き文字通り一直線に目的の場所へと向かう。
 人込みや信号、車などに邪魔をされている暇などない。

「店長さん!僕の剣どうですか!」
「びっくりした!なんだよ急に!?」

 やってきたのはミシェルの店、休憩中だったのか彼女の周りには雑誌やスナックなどがおかれていた。

「一応大体の整備は終わってるけど」
「それで受け取ります!」

 いつもはオドオドと自信がなく声も小さなソルが焦った様子で声を出す姿を見てただ事ではないと判断したミシェルはすぐに店の奥から彼の剣を取り出し投げ渡した。
 以前彼の剣には小さな傷や変形した箇所、ひしゃげた部分が見られたがそれらすべてが綺麗に修復されておりミシェルの腕の良さが一目で見て取れた。

「ありがとうございます!」
「待てソル」

 ミシェルから投げつけられたものを受け取るとそれは可愛いアザラシのキーホルダーが付いた何かのカギだった。

「表にあるから乗ってけ、壊すなよ」

 ソルは彼女の言葉にうなずくと店を出る。
 表には紫と緑が綺麗なスポーツタイプの大型バイクが止まっていた。
 パッと見るだけでも隅々まで整備されているところから彼女がとても大事にしていることが分かる。そんな大切なものを何も言わずに貸してくれたミシェルに感謝しながらバイクに跨り飛び出した。
 アクセルを全開に道路を走る車を次々と置き去りにしていく。
 きっとマフラーからはバイク好きにはたまらない良い音が出ているのだろうが不運なことに彼はそれを感じている暇はない。
 どうしようもない自分にできたかすかな繫がりを失わないために。
 ただ真っ直ぐ、一直線に、最短距離で彼女の元へ。
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