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陰キャぼっちアメーバと快活少女
受け入れられない現実
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もうそろそろ日が昇ろうかという時間帯。
街の高台にある駐車場でミスラは車の中で苛立っていた。
パーティーメンバーであるソル・アズミヤからこの一か月何の音沙汰もないからだ。
既に発信履歴とメッセージは100を越え、さすがにここまでくると気づかなかったでは済まない。
「あいつどこ行ったのよ、なんで何の連絡もないのよ...」
協会の職員や周りの冒険者に聞いても全く情報がなく、完全に行方不明となっていた。
事故や事件に巻き込まれたのかと少し前までは思っていたのがめぼしい出来事は起こっていないためおそらくそれはない。誰かに連れていかれたのかとも思うがそもそも彼を連れて行くような知り合いはいない。
ならば考えは一つしかない、今までは気づかなかった。いや、気づかないふりをしていたのかもしれない。
それだけはどうしても受け入れることができなかったからだ。
しかし、ここまで明確になると受け入れるしかない。
「ほんとにあたしから逃げたの...?」
ソルが彼の意思で自分の元から去った。
その事実が彼女の心を明確に突き刺す。
今まで誤魔化してきた事実が彼女を責め立てる。そもそも報奨金と共同物資を全て置いて行った時点で違和感に気づくべきだった。いや、気づいていないふりをしていただけなのかもしれない。
ソルが自分から去ったという事実に目を背けて。
「あたしの何がいけなかったの?何が気に入らなかったの...嫌なことがあれば言えば良かったじゃない!」
感情のまま拳を叩き付けた瞬間、凹んだ車を見て我に返った。
「こういう所が...嫌だったの?」
自分が感情を制御するのが下手だということは彼女自身よく分かっていた。
もし彼が勇気を出してミスラにパーティーを解消しようと話したとしてもきっと納得などできなかっただろう。納得するどころか一歩間違えば...そう考えた瞬間怖気が走りその先を考えるのをやめた。
自分の中にそんな考えがあることにおぞましさを感じてしまったからだ。
それをソルは知っていたからか、対話を諦めて逃げた。
気づいてしまったミスラは心臓が締め付けられる感覚に襲われ蹲ってしまう。
呼吸ができない、辛い、苦しい。
「あっ...ぐっ...」
認めたくない。そんな彼女を殺す様に事実は彼女を切り裂き、突き刺し、引き裂く。傷からじわじわと黒い何かが満ちて心が犯されていくのを彼女は感じた。
「はぁ、はぁ、違う。あたしはあいつに側にいて欲しいとかそんなんじゃない。あいつは役に立つってだけ、それにあいつバカで臆病で陰キャでコミュ障だから、ちょっと優しくされただけでコロッと騙されるから、悪い女に捕まってとんでもない目に遭うに決まってる。そうなったら、寝覚めが悪いだけ。あと、黙っていなくなったのが気に入らないだけ。それだけ...なん...だから」
自分の思いを否定するように、黒い何かを拒絶するように言葉を口に出し彼女は強がってそれを無理やり振り払う。
「とりあえずあいつを見つけなきゃ何も始まらない」
彼女は金色の長い髪をかき上げてアクセルを踏み込む。
朝日に照らされ黒い車体が闇からくっきりと姿を現す。
「あんたが黒が良いって言ったくせに」
ミスラが乗っている車は一年前に彼女がAランクに昇格した際にソルと一緒に選んだものだった。
二人でいろんな店頭に行き、様々な車種を見て選んだ。自分が最大限おしゃれをして来たのにもかかわらずソルがいつもの芋ジャージだったことに怒ったことも今では笑い話だ。
ちなみにおしゃれをしたのは高級車を売りにしている店舗だったため舐められないようにと思っただけで別にソルと出かけるのが楽しみだったわけでは断じてない。断じてない。とミスラは思い出して言い聞かせた。
「やっぱり、ただのすれ違いよ。話せば...また一緒に...」
その言葉はエンジンの音にかき消されて行った。
街の高台にある駐車場でミスラは車の中で苛立っていた。
パーティーメンバーであるソル・アズミヤからこの一か月何の音沙汰もないからだ。
既に発信履歴とメッセージは100を越え、さすがにここまでくると気づかなかったでは済まない。
「あいつどこ行ったのよ、なんで何の連絡もないのよ...」
協会の職員や周りの冒険者に聞いても全く情報がなく、完全に行方不明となっていた。
事故や事件に巻き込まれたのかと少し前までは思っていたのがめぼしい出来事は起こっていないためおそらくそれはない。誰かに連れていかれたのかとも思うがそもそも彼を連れて行くような知り合いはいない。
ならば考えは一つしかない、今までは気づかなかった。いや、気づかないふりをしていたのかもしれない。
それだけはどうしても受け入れることができなかったからだ。
しかし、ここまで明確になると受け入れるしかない。
「ほんとにあたしから逃げたの...?」
ソルが彼の意思で自分の元から去った。
その事実が彼女の心を明確に突き刺す。
今まで誤魔化してきた事実が彼女を責め立てる。そもそも報奨金と共同物資を全て置いて行った時点で違和感に気づくべきだった。いや、気づいていないふりをしていただけなのかもしれない。
ソルが自分から去ったという事実に目を背けて。
「あたしの何がいけなかったの?何が気に入らなかったの...嫌なことがあれば言えば良かったじゃない!」
感情のまま拳を叩き付けた瞬間、凹んだ車を見て我に返った。
「こういう所が...嫌だったの?」
自分が感情を制御するのが下手だということは彼女自身よく分かっていた。
もし彼が勇気を出してミスラにパーティーを解消しようと話したとしてもきっと納得などできなかっただろう。納得するどころか一歩間違えば...そう考えた瞬間怖気が走りその先を考えるのをやめた。
自分の中にそんな考えがあることにおぞましさを感じてしまったからだ。
それをソルは知っていたからか、対話を諦めて逃げた。
気づいてしまったミスラは心臓が締め付けられる感覚に襲われ蹲ってしまう。
呼吸ができない、辛い、苦しい。
「あっ...ぐっ...」
認めたくない。そんな彼女を殺す様に事実は彼女を切り裂き、突き刺し、引き裂く。傷からじわじわと黒い何かが満ちて心が犯されていくのを彼女は感じた。
「はぁ、はぁ、違う。あたしはあいつに側にいて欲しいとかそんなんじゃない。あいつは役に立つってだけ、それにあいつバカで臆病で陰キャでコミュ障だから、ちょっと優しくされただけでコロッと騙されるから、悪い女に捕まってとんでもない目に遭うに決まってる。そうなったら、寝覚めが悪いだけ。あと、黙っていなくなったのが気に入らないだけ。それだけ...なん...だから」
自分の思いを否定するように、黒い何かを拒絶するように言葉を口に出し彼女は強がってそれを無理やり振り払う。
「とりあえずあいつを見つけなきゃ何も始まらない」
彼女は金色の長い髪をかき上げてアクセルを踏み込む。
朝日に照らされ黒い車体が闇からくっきりと姿を現す。
「あんたが黒が良いって言ったくせに」
ミスラが乗っている車は一年前に彼女がAランクに昇格した際にソルと一緒に選んだものだった。
二人でいろんな店頭に行き、様々な車種を見て選んだ。自分が最大限おしゃれをして来たのにもかかわらずソルがいつもの芋ジャージだったことに怒ったことも今では笑い話だ。
ちなみにおしゃれをしたのは高級車を売りにしている店舗だったため舐められないようにと思っただけで別にソルと出かけるのが楽しみだったわけでは断じてない。断じてない。とミスラは思い出して言い聞かせた。
「やっぱり、ただのすれ違いよ。話せば...また一緒に...」
その言葉はエンジンの音にかき消されて行った。
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