3 / 6
クロードとハンス
しおりを挟む2
3歳で両親を失ったシュザンヌは、ルミエ夫妻のもとで、健康に育った。
両親の記憶がほとんどない彼女にとって、ルミエ夫妻は、親代わりであり、親そのものであった。
5歳になった彼女は、クロードがかつてメルバーンにいたころ通っていたのと同じ、魔法を教えてくれる個人塾のようなところに通い始めた。これはルミエ叔母が、かつて姉であるアンヌから頼まれていたことであった。
シュザンヌは、そこでフェリクス先生をはじめ、いろいろな先生に魔法を教わった。
また、彼女はその頃から友達もできはじめ、ノエリアやハンスと知り合ったのもこの頃であった。
学校が休みの期間、家族3人そろってメルバーンに遊びに来ることがあったクロードも、自然と、この頃から、ノエリアやハンスと知り合うこととなる。
クロードは、5歳の時、ヴェルナー伯父から受け継いだ魔力があったから、入学当時から、彼の魔法力は一般の魔法使いに比べても多い方だった。そのせいか、魔法の授業に困ることは無かったが、突出して成績がいいわけではなかった。
彼は、授業の合間に、自分に親切にしてくれていた、亡き伯父のことを思い出していた。
そして、もう一つ彼の心に残っていた光景、それはシュザンヌの母アンヌの死に際と、そのお葬式だ。
年を重ねるにつれ、クロードは、ヴェルナーとアンヌの想いや、夫妻がとった行動の重大さ、重要さ、そして自分に託された夫妻の“願い”というものを理解した。
幼かった頃、ぼんやりと意識していたものが、年月を経るにつれ、しだいにはっきりとしてきた。
クロードは、年に一度はメルバーンに行き、従妹のシュザンヌ、そしてノエリアとハンスと、話したり一緒に遊んだりした。
「ねぇ、クロードって、帝国の首都の魔法学院に通ってるんでしょ?どんな授業受けてるの?すごいなぁ」と、ノエリアが無邪気に微笑む。
「俺?俺は……ただ、普通に授業を受けてるだけ、さ。そうだね、どんな内容か、っていうと……今は、一般的な日常生活を便利にする魔法と、あとは直接、契約した精霊を呼び出す魔法を習っているんだ」と、クロードは、年下の従妹やノエリアに分かりやすいように説明した。
魔法は、大きく分けて2種類がある。精霊を呼び出してその力を借りて行う魔法と、星の力を借りて行う魔法の二種類だ。
前者は、主に人間が得意とする魔法で、後者は、エルフが得意としているものであった。
クロードは、学院で、そう習ったのだった。
「火をともす魔法なんてのも、結局は精霊の魔法を借りてるんだ。俺は、まだ3学年目だから、魔法を使うのに、長い詠唱文句を言わないと、精霊とリンクすることも、精霊にいう事を聞いてもらう事もできないけどね。歳が上がるにつれて、経験を積めば、やがては、詠唱する魔法の呪文も、少ない文字で、魔法を使う事ができる」
「それ、フェリクス先生から聞いた!でも、私の場合だと、大人になっても、詠唱には時間がかかるだろうって、とも言われたけどね」シュザンヌが朗らかに言う。彼女は来年から、ノエリアと同じ普通の学校に通うことになっていた。
従妹やノエリアとの会話は、主に二人からの質問攻めにあう事が多かったクロードだが、ハンスと話す時は、どちらかというと、魔法の話というよりかは、シュザンヌの話になることが多かった。ハンスはクロードと同い年であった。
「クロード、俺がシュザンヌと出会ったのは、シュザンヌが5歳の時だから、1年前ぐらいなんだけど、シュザンヌのお母さんとお父さんがいないのって、何か理由があるのか。シュザンヌに聞いても、教えてくれないんだ。自分にも、分からないって。ルミエ叔母さんも、何も教えてくれないって、あいつ言ってたな」
ハンスの言葉を聞いて、クロードは、『叔母さんは、きっとシュザンヌがまだ小さすぎて、トリステスの運命を知るのはかわいそうだから、まだ黙っているつもりなんだろう』と察した。
「シュザンヌに、これからいう事を話さないって約束してくれるなら、俺がその理由を話せるよ」とクロードが言った。彼はもう10歳になっていた。
「お前、知ってるんだな!」
「ああ。俺は、シュザンヌのご両親の死に際に、両方とも立ち会ったから。お葬式にも、出た」
そのクロードの言葉を聞いて、ハンスの青色の目が曇った気がした。
「……そうか。シュザンヌには絶対に教えないから、俺には、教えてくれないか」
「君は、彼女のことをどう思ってる」と、クロードがハンスに尋ねた。
「俺は――……。シュザンヌは、俺の妹みたいな感じで。俺にも、弟がいるけれど、それとはまた違った感じで。兄妹っていうか……それも、違うか。友達、かな?俺は、とにかく、シュザンヌとこれからも友達でいたい、って思ってる」
「そうか」そう言って、クロードがやや悲しげに微笑む。
「俺も、彼女のことを、妹のように思っていた時期があった。正直言うと、今でもそうだ。俺は、君以上に、彼女のことを昔から知っている。親戚だから、当たり前だけれども。ハンス、君を信用して言うよ。彼女は、シュザンヌは……呪いを背負ってる。魔法使いの家系にのみ現れる、今では珍しい呪いだ。かつてはかなり多くの魔法使いの家系に見られたけれど、特効薬もなく、治す方法もほとんど見つからなかったから、呪いを持つ者はたいてい死んでしまったんだ。それは、『トリステス』という呪いなんだ」
「呪い……?シュザンヌが?それと、シュザンヌの両親が亡くなったことと、どう関係が……?」
「彼女の両親は、どちらもトリステスの呪いを受け継いでいた。そして、その間に生まれたシュザンヌもまた、トリステスを引き継いでいた。彼女の両親は、二人とも、トリステスの呪いによって、寿命を迎えて、亡くなったんだ」
しーんとした空気が二人の間に流れた。ハンスは、ぽかんとして、自身の目線を、クロードの瞳から、思わず地面へと移した。クロードが淡々と続ける。
「このままだと、高い確率で、シュザンヌは、30歳を迎える前に、トリステスで亡くなる。それが彼女の背負ってる運命だ。俺は、彼女の両親から、いつか彼女の命を救ってくれないかと、願いを託された。だから、俺は、今もマグノリア帝国の魔法学院で学んで、いつかは、彼女の持つ病気というか呪いを、なんとかしたいと思っている」
「そんな……」ハンスは、現状がなかなか飲み込めないようだ。
「ハンス、これからも、シュザンヌのいい友達でやってくれ。彼女には、叔母さんと叔父さんはいても、両親はいないし、彼女はやがて自分を待ってる運命を知ることになる。トリステスの、運命を。それを知る時、きっと彼女の支えになってくれるのは、君やノエリアみたいな、『友達』だと思うんだ。だから、俺からも、頼む」
「何言ってるんだよ、それは当たり前だよ……」ハンスが言った。
「それよりも、シュザンヌのトリステスを治す方法が先だろ!なんとかしなきゃ、シュザンヌは、シュザンヌは……」
「それは、俺が何とかできるかもしれない。学院の卒業生の中には、国の王宮に仕えて、いろんな国に派遣されている魔法使いが、たくさんいる。俺も、一応、最近だけど、それを目指し始めたんだ。そうしたら、いろんな国に行って、トリステスを治す手がかりがつかめるかもしれないし、それに、運が良ければ、エルフの国・イブハールにだって、行けるかもしれない」
「そうだな」
「だから、トリステスのことは、とにかく彼女にはまだ内緒にしておいて、君は、シュザンヌを見守ってやっててくれ。いい友達でいてやってくれ。な、ハンス」
二人のやりとりは、そこで終わった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
悪役令嬢のわたしが婚約破棄されるのはしかたないことだと思うので、べつに復讐したりしませんが、どうも向こうがかってに破滅してしまったようです。
草部昴流
ファンタジー
公爵令嬢モニカは、たくさんの人々が集まった広間で、婚約者である王子から婚約破棄を宣言された。王子はその場で次々と捏造された彼女の「罪状」を読み上げていく。どうやら、その背後には異世界からやって来た少女の策謀があるらしい。モニカはここで彼らに復讐してやることもできたのだが――あえてそうはしなかった。なぜなら、彼女は誇り高い悪役令嬢なのだから。しかし、王子たちは自分たちでかってに破滅していったようで? 悪役令嬢の美しいあり方を問い直す、ざまぁネタの新境地!!!
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる