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セルフィを妖精へ
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「マリウスさん、説明します。まず、セルフィちゃんを妖精にするために、セルフィちゃんをヌヴァスカからここブリヤートまで連れてこれますか?地図はあなたも持っているでしょうが、一応渡しておきましょう。セルフィちゃんを連れてきたら、我々がここで、彼女を妖精にしましょう。そうすれば、セルフィちゃんはトリステスから解放され、森の妖精として永遠の生を生きることになります。その後、我々はこの小屋……コテージを捨てて、別の住処を探します。これが、我々・自然界の守護者である森のユニコーンである僕たちにできる、最良のことです」
「……分かった。フォーマルハウト君、いや、ユニコーンさん、本当にありがとう。感謝します。たとえ、妖精の姿でも、娘が生きてさえいてくれるのなら……僕は……。分かった、すぐにヌヴァスカまで戻り、娘を連れてきます」
「念のため、セラスという女の子のユニコーンを貴方につけてあげましょう。一緒に行くといいでしょう。道に迷いません。いざとなれば、セルフィちゃんをセラスの背中に乗せて運ぶこともできるでしょう。セルフィちゃんはまだ10歳、ここまで到達するのに、少々疲れてしまうかもしれませんから」
「……感謝します」
「うん、では、決定だね」と、フォーマルハウトが立ち上がる。
「シャンティ、セラスを連れてきてくれないかな」
「ええ、分かったわ、フォーマルハウト」
セラスという子は、背丈はフォーマルハウトやシャンティとさほど変わらなかったのだが、透き通った白い髪に青い目を持つ少女であった。どちらかというと、この子の方がユニコーンっぽいな……と、マリウスは内心思った。
「マリウスさん」と、セラスが一礼して言った。
「私はセラスというユニコーンです。貴方とお供致します。ご出発はいつにされますか。セルフィちゃんのことも考え、早めがいいと思うのですが」
「もちろんです、セラスちゃん……。いや、失礼、セラスさん。僕なら、明日にでも出発できると思う。まだ、ちょっと凍傷のあたりが痛んでね。明日、行こう。セルフィのことの方が大事だ」
「一週間後にしましょう」と、フォーマルハウトが言った。
「貴方の怪我の具合からして、無理はよくないでしょう。ましてや、2月のリラの気候をなめてはいけません、マリウスさん……。大丈夫、ユニコーンの治癒の力を使います。もちろん、道中も、ユニコーンの魔力で、貴方を寒さから守ります。が……それでも、一週間後、です」と、フォーマルハウトがきっぱりと言った。
「……分かりました」
「ええ、それで結構です」と、フォーマルハウト。
「今日は、申し訳ないのですが、ベッドでゆっくり静養なさるように。無理はよくありません。シャンティが付き添います」
「分かりました」
そういって、フォーマルハウトとシスネは、「やることがあるから」と言って、部屋から出て行った。
居心地のいい部屋だった。どうやらログハウスのようだ。だが、内部は暖炉もあるせいか、ぽかぽかして温かい。軽い凍傷の部分がチクチクと痛むが、マリウスは包帯のしてある手足を見て、少しやるせない思いを抱いた。
今も、セルフィは、かわいそうに、一か月以上父親に会えず、ヌヴァスカのシスターのもとで独りぼっちで預けられているのだ。
「セルフィ……ごめんな、ごめんな、こんな父さんで……。だけど、君を、死なせはしない……!!」そう言って、マリウスは思わず涙を一粒流した。
つつーー、と涙が頬を伝う。
それを見て、シャンティは椅子に座り、頬杖をつきつつ、哀れむような目でマリウスを見ていた。
「マリウスさん、人間さん、」とシャンティが言った。
「今、娘さんのことを思って泣いても、しょうがないでしょ。それより、早く寝て、怪我を治しなさいな」
「分かってます」そう言って、マリウスは思わず顔を背け、壁側にしながら、ベッドに横になった。泣き顔を、シャンティには見られたくなかった。
「セルフィ……セルフィ……」死をも覚悟して、セルフィの写真を持ってきておいてよかった、とマリウスは思った。その写真を握りしめながら、眺めながら、マリウスはその日、ベッドの中で思い切り泣いた。
悲しみの涙というより、安堵の涙であった。これで、娘はとりあえず命をつなぎとめられる。生きられるのだ。ユニコーン……噂には聞いている、程度だったが……が、手を貸してくれるらしい……。一か月の旅路の末たどり着いたこの地に、セルフィと一緒に住めるという……。
「父さんにはこれが精一杯なんだ、セルフィ」と言って、写真を握りしめて、マリウスは言った。
「セルフィ……」
マリウスは、もう泣かないことに決めた。セルフィの運命は決まった。少なくとも、自分とこの地で、生きていくことはできるのだ。セルフィは、永遠の命を得ると、フォーマルハウトは言っていた。そのことは別にしても、少なくともセルフィは若くして死ぬことはなくなる。
一週間の養生ののち、マリウスはセラスとともに、ブリヤートの町から少し離れた、ユニコーンの隠れ家ともいうべきこのログハウスから出た。そして出発し、ヌヴァスカ行きの馬車に乗り込み、セルフィを迎えに行った。
馬車で、実に4日間の旅であった。マリウスは、ヌヴァスカに到着し、すぐさまセラスとともに、セルフィを預けてある託児所へと向かった。
「セルフィ!!」と言って、マリウスが、担当のシスターたちに氏名と受取書、および娘の写真を見せた。
「あっ、セルフィちゃんのお父様……ご到着が遅れていて、シスターたちも不安に思っておりました。ええ、代金は後程受け取ります……今、係の者がセルフィちゃんを連れてきます」
7歳以上の集団コースの中から、やがてマリウスの愛娘の姿が出てきた。マリウスは思わず安堵で涙が出そうになった。
「セルフィ!!」そう言って、二人は抱き合った。セルフィは久しぶりに父親に会えたことでわんわん泣いていた。
「お父さん!!おとーーさーーん!!」
どうやら、よほど寂しかったらしい。
「いい子にしてたかい、セルフィ?お父さんだよ……ごめんな、一人にして。もう一人ぼっちにはしないからな、セルフィ……うん、うん。お父さんと、行くべき場所ができたんだよ。病気も治る。お父さんを信じて、行こう、セルフィ」
そう言って、ひしと抱き合う親子を見て、シスターたちも優しく微笑んでいた。
料金を払って託児所を出て、3人はひとまず宿をとり、次の日、フォーマルハウトたちの待つブリヤートへと向かうことにした。セルフィの体力のことも考えて、のことだった。
「……分かった。フォーマルハウト君、いや、ユニコーンさん、本当にありがとう。感謝します。たとえ、妖精の姿でも、娘が生きてさえいてくれるのなら……僕は……。分かった、すぐにヌヴァスカまで戻り、娘を連れてきます」
「念のため、セラスという女の子のユニコーンを貴方につけてあげましょう。一緒に行くといいでしょう。道に迷いません。いざとなれば、セルフィちゃんをセラスの背中に乗せて運ぶこともできるでしょう。セルフィちゃんはまだ10歳、ここまで到達するのに、少々疲れてしまうかもしれませんから」
「……感謝します」
「うん、では、決定だね」と、フォーマルハウトが立ち上がる。
「シャンティ、セラスを連れてきてくれないかな」
「ええ、分かったわ、フォーマルハウト」
セラスという子は、背丈はフォーマルハウトやシャンティとさほど変わらなかったのだが、透き通った白い髪に青い目を持つ少女であった。どちらかというと、この子の方がユニコーンっぽいな……と、マリウスは内心思った。
「マリウスさん」と、セラスが一礼して言った。
「私はセラスというユニコーンです。貴方とお供致します。ご出発はいつにされますか。セルフィちゃんのことも考え、早めがいいと思うのですが」
「もちろんです、セラスちゃん……。いや、失礼、セラスさん。僕なら、明日にでも出発できると思う。まだ、ちょっと凍傷のあたりが痛んでね。明日、行こう。セルフィのことの方が大事だ」
「一週間後にしましょう」と、フォーマルハウトが言った。
「貴方の怪我の具合からして、無理はよくないでしょう。ましてや、2月のリラの気候をなめてはいけません、マリウスさん……。大丈夫、ユニコーンの治癒の力を使います。もちろん、道中も、ユニコーンの魔力で、貴方を寒さから守ります。が……それでも、一週間後、です」と、フォーマルハウトがきっぱりと言った。
「……分かりました」
「ええ、それで結構です」と、フォーマルハウト。
「今日は、申し訳ないのですが、ベッドでゆっくり静養なさるように。無理はよくありません。シャンティが付き添います」
「分かりました」
そういって、フォーマルハウトとシスネは、「やることがあるから」と言って、部屋から出て行った。
居心地のいい部屋だった。どうやらログハウスのようだ。だが、内部は暖炉もあるせいか、ぽかぽかして温かい。軽い凍傷の部分がチクチクと痛むが、マリウスは包帯のしてある手足を見て、少しやるせない思いを抱いた。
今も、セルフィは、かわいそうに、一か月以上父親に会えず、ヌヴァスカのシスターのもとで独りぼっちで預けられているのだ。
「セルフィ……ごめんな、ごめんな、こんな父さんで……。だけど、君を、死なせはしない……!!」そう言って、マリウスは思わず涙を一粒流した。
つつーー、と涙が頬を伝う。
それを見て、シャンティは椅子に座り、頬杖をつきつつ、哀れむような目でマリウスを見ていた。
「マリウスさん、人間さん、」とシャンティが言った。
「今、娘さんのことを思って泣いても、しょうがないでしょ。それより、早く寝て、怪我を治しなさいな」
「分かってます」そう言って、マリウスは思わず顔を背け、壁側にしながら、ベッドに横になった。泣き顔を、シャンティには見られたくなかった。
「セルフィ……セルフィ……」死をも覚悟して、セルフィの写真を持ってきておいてよかった、とマリウスは思った。その写真を握りしめながら、眺めながら、マリウスはその日、ベッドの中で思い切り泣いた。
悲しみの涙というより、安堵の涙であった。これで、娘はとりあえず命をつなぎとめられる。生きられるのだ。ユニコーン……噂には聞いている、程度だったが……が、手を貸してくれるらしい……。一か月の旅路の末たどり着いたこの地に、セルフィと一緒に住めるという……。
「父さんにはこれが精一杯なんだ、セルフィ」と言って、写真を握りしめて、マリウスは言った。
「セルフィ……」
マリウスは、もう泣かないことに決めた。セルフィの運命は決まった。少なくとも、自分とこの地で、生きていくことはできるのだ。セルフィは、永遠の命を得ると、フォーマルハウトは言っていた。そのことは別にしても、少なくともセルフィは若くして死ぬことはなくなる。
一週間の養生ののち、マリウスはセラスとともに、ブリヤートの町から少し離れた、ユニコーンの隠れ家ともいうべきこのログハウスから出た。そして出発し、ヌヴァスカ行きの馬車に乗り込み、セルフィを迎えに行った。
馬車で、実に4日間の旅であった。マリウスは、ヌヴァスカに到着し、すぐさまセラスとともに、セルフィを預けてある託児所へと向かった。
「セルフィ!!」と言って、マリウスが、担当のシスターたちに氏名と受取書、および娘の写真を見せた。
「あっ、セルフィちゃんのお父様……ご到着が遅れていて、シスターたちも不安に思っておりました。ええ、代金は後程受け取ります……今、係の者がセルフィちゃんを連れてきます」
7歳以上の集団コースの中から、やがてマリウスの愛娘の姿が出てきた。マリウスは思わず安堵で涙が出そうになった。
「セルフィ!!」そう言って、二人は抱き合った。セルフィは久しぶりに父親に会えたことでわんわん泣いていた。
「お父さん!!おとーーさーーん!!」
どうやら、よほど寂しかったらしい。
「いい子にしてたかい、セルフィ?お父さんだよ……ごめんな、一人にして。もう一人ぼっちにはしないからな、セルフィ……うん、うん。お父さんと、行くべき場所ができたんだよ。病気も治る。お父さんを信じて、行こう、セルフィ」
そう言って、ひしと抱き合う親子を見て、シスターたちも優しく微笑んでいた。
料金を払って託児所を出て、3人はひとまず宿をとり、次の日、フォーマルハウトたちの待つブリヤートへと向かうことにした。セルフィの体力のことも考えて、のことだった。
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