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第一章 過去

スノーホワイトの家庭事情

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「そうか・・・・まあ、君がそう言うなら、無理強いはしないがね」
「私にも、家族の話をさせてもらえますか」と、少し酔いが回ったのか、普段は物静かなスノーホワイトが、話しだしたので、ローレライはにやりとして、
「うん、ぜひ、聞かせてもらおうか!」と言ったのだった。
「私、兄がいる、というのは、みんなにはそういってるけど……実は、嘘なんです」
「えっ!?」と言って、二杯目のカクテルを飲みながら、ローレライが飲み物を吹き出しそうになって言った。
「私、長女なんです。一番上の子です。年の離れた弟と妹が3人います。貧しい家の出なんです。長女なんで、教育を受けさせてもらい、学院には奨学金で行きました」
 次々と明かされるスノーホワイトの真実に、ローレライは動揺を隠せなかった。
「3人の弟と妹にも教育を受けさせたくて、出稼ぎのために、一人でメルバーンに来ました……。魔法医術師を目指したのは、母が病弱で、お医者様によくお世話になっていたのを、子供のころから見ているからです」
 そう言って、スノーホワイトはグラスを置いた。
「それなら、最初からみなにそういえばいいじゃいか?立派な話じゃないか、みんな感動するよ!」
「貧しい家の出ということで、みんなから馬鹿にされるのが怖かったんです。あと、憐みの目で見られるのが嫌だったから」と、テレージア。
「……そうか、テレージア」ローレライが、絶句する。
「君にそんな志望動機があったとはね……!!誓って言うが、みんなには秘密にしとく」
「はい、ありがとうございます、ローレライ」
「うん、そこは安心してほしい」
 一息ついて、ローレライは改めてスノーホワイトの様子を見て、しゃべりかけた。
「あのさ、スノーホワイト!教えてほしいことがあって。君、パトリックのどんなところに惚れたのかな、なーんて」
「わりと、真面目に聞いてるんだけど」とも、ローレライは付け加えた。
「えっ、パトリックに惚れた点……ですか……」そう言って、透き通った肌を赤く染めて、スノーホワイトは少し取り乱したような感じになった。
「私は……兄のように親しく接してくださったパトリックに……その強さと優しさに、惚れたんです」
「ふーん、なるほどね」と、ローレライがグラスの氷をゆらゆらと音を立てて揺らしながら言う。
「君、ちょっとお酒に弱いっぽいね。大丈夫、無理してない?」
「いえ、この程度なら平気です」
「そう……。それならいいんだ。ちなみに、僕はどう?僕のこと、男として」
「私は、パトリックの恋人です。裏切るようなことは・・・・」
「そう固くなるなって」と、ローレライがからからと笑う。
「フィーリングでいいから」
「ローレライのことは……そうですね、飄々としているところはあるけれど、ギルドの実力者の一人ですし、強さにも、尊敬していますけど……男して、は・・・・・・」そこで、スノーホワイトは息を切った。
「私には、分かりません」と言って、顔を赤くして、スノーホワイトはグラスを置き、「私、もう帰ります」ときっぱり言った。
「あれ?お気に召さない質問だったかな?」
「お代は、、私もはら……」
「いいよ、僕が持つから。僕はもう少し飲んでいくけど、君は先に帰ってていいよ」
「それでは、お言葉に甘えて、失礼します」
「うん、またね、テレージア」
 そう言って、ちょっと怒ったようなそぶりで、スノーホワイトは店の人込みをすり抜け、出ていった。
「本当は、僕のアパートにも、このあと呼ぼうと思ってたんだけどなぁ……」とつぶやき、
「マスター、親父さん、僕との話にも付き合ってよ、」と、別の客と話し込んでいたマスターに手を挙げて話しかけた。
「はいよ、お客さん」
「スノーホワイトは……テレージアは、どうやら、僕のことは、お気に召さないらしい」と、少し酔って、ローレライがくっ、くっ、とおかしそうに笑った。
「ローレライ君、スノーホワイトって何?なんで彼女、そう呼ばれてるの?」
「ん?親父さん、実はね、彼女はリラの奥地の出身でね……」そう言って、二人の会話が始まる。
 一方の、逃げるようにしてバーを後にしたスノーホワイトことテレージアは、駆け足で、自宅のアパートへと向かった。
(私は、パトリックを裏切らないんだから……!)と、思って、寒空に息を吐く。
(私を、そんなに安い女だとは、思わないでほしい……!!)とも思った。
 同じ空の下、宿屋の一室で、パトリックもまた、酔いつぶれて寝た他の団員の介抱をしたあと、月夜を眺めながら、スノーホワイトの、照れたような笑顔を思い出していた。
「明日には、ギルドで会えるかな、」とパトリックは思い、ゆっくりと、お酒を飲んでいた。
 次の日、町を悪の皇国の手から守った英雄として、パトリックたちは町の人々から祝福を受けて、宿屋を後にし、モロンビアの町を後にした。
「負傷した者は、まだ完治とは言えないから、無理しないように!」と、パトリックたち年配の者が注意をして、各々が馬車に乗り込み、メルバーンに向かった。
 一応回復した重傷者には、医療術士が付き添う。
 一方、その日は勤務日だったテレージアは、朝からギルドに出勤していた。
 テレージアのその日の任務は、外出する隊員のサポートではなく、本部に残り、帰ってきた団員の、最終処置をするため待機することであった。
 医療術にも魔力を大量に消費するため、交代で処置をするのだが……。
 午後ごろになり、馬の蹄の音がして、次々と、出かけていた団員が帰還した。
 医療術士に支えられて、なんとか自力で歩いてきた重傷を負った、若者・ロキが、団員に迎え入れられる。
 パトリックも付き添い、ロキ君を支え、「さあ、中へ」と言って、エスコートした。
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